火ヶ丸班side day 3 ~監視カメラに映る不審な者~
火ヶ丸率いる羽枦署のメンバー(火ヶ丸班)は後日改めて株式会社タチバナを訪れた。
羽枦警察署の人員の協力を得て社員達の事情聴取と社長室の捜索、オフィス内の監視カメラの映像の確認を行うことになった。
「またまた、すごく綺麗な部屋ね」
土伊は社長室に入るなりそう呟いた。
「まあ、そうですね。警察も手を浸けてないみたいですし」
隣にいた拳堂はそう呟いた。
「じゃあ早速始めましょうか」
社長室には、高価そうな漆塗りの椅子と机。そして本棚があるだけのシンプルな部屋だった。
本棚には経営関係などの仕事に使う本が並んでいた。
机には引き出しがあり、一番下の引き出しだけが鍵がかかっており、鍵穴には誰かがこじ開けようとした形跡があった。
「ここ怪しいですね。誰か開けようとしたみたいですし」
「まあ恐らく死んだ村上が証拠隠滅のため開けようとしたんじゃないかしら」
二人は机の周辺や本棚をくまなく探して鍵を見つけようとしたが、見つからなかったため引き出しを壊すということで合意した。
拳堂は右手に力を込めて一番下の引き出しに拳を振るった。
すると一番下の引き出しは側面がグニャリと曲がり、さらに開けるのが困難になってしまった。
「拳堂君。ダメだね。ここは私に任せなさい」
土伊がそういうと右手にモグラの鋭い爪が現れた。
右手の爪の先を引き出しと棚の側面との間に刺した。
そしてそれをゆっくりと引っ張った。
すると黒板を爪で引っ掻くような嫌な音がし、拳堂は耳を塞いだ。
土伊はお構いなしに引き抜いた。
すると棚の側面が外側にグニャリと曲がり、引き出しが飛び出てきた。
引き出しの中に入っていたのは大量の札束だった。
「こんなに……これが裏金ってことですかね。今どき振り込みじゃなかったんですね」
「まあ、振り込みだと履歴が残っちゃうからね」
土伊はそういうと爪を元に戻した。
「あのドクターってのが言ってたことがホントだとすると副社長室にもあるかもしれませんね」
拳堂の言ったことは見事的中し机の引き出しに社長室と同じように札束が大量の見つかった。
火ヶ丸と羊谷と泳斗は、オフィス内にある警備室に訪れていた。
そしてオフィス内に大量に設置されている監視カメラの映像を確認していった。
社長室と副社長の前に取り付けられている監視カメラの映像を重点的に泳斗が解析したが、所々のデータが消失していた。
「こりゃあ、やられたな」
火ヶ丸は頭を掻きながらそういった。
「俺の腕なめないでくださいよ火ヶ丸さん」
泳斗は自信ありげにそういうとパソコンを高速で打ち始めた。
パソコンに訳も分からない文字列が浮かび上がると、泳斗はアイマスクの下にニヤリと笑みを浮かべた。
火ヶ丸と羊谷は両脇でただそれを見ていることしか出来なかった。
やがて泳斗はフーとため息を吐き背もたれに寄っ掛かった。
火ヶ丸と羊谷は顔を近付けてパソコンの画面を確認した。
「「あっ!!」」
二人はパソコンの画面を指差し目をまん丸に開けてそういった。
火ヶ丸は自慢気に鼻唄を歌っていた泳斗にも画面を見るようにいった。
パソコンの画面に写っていたのは社長室の廊下で学生服を来た何者かが立花と一緒に映っている姿だった。
二人は何やら揉めているような様子を見せていた。
映像は続き、立花の後ろから副社長の村上が駆け寄ってきた。
そして二人に何やら話す。すると二人は副社長を先導にして社長室へと入っていった。
その時、学生服を着た何者かの顔が露になった。
その何者かは顔の左目に黒の眼帯をつけていたのだ。
「もしかしたらこの人が、お爺さんが言ってた眼帯の高校生かも……」
羊谷は事件現場でお爺さんに聞いた情報を思い出しそういった。
その後、社長室から出てきたのは社長の立花と副社長の村上だけで、あの眼帯をつけた人物は部屋から出てくることはなかった。
「この映像が事件の起こる一日前だから、立花と村上がその眼帯の奴を協力して殺したってのはなさそうだな。お爺さんが一応目撃してるわけだし……」
火ヶ丸は頭を悩ませながらそういった。
「だとしたらどうやって社長室を出たのかってことですね。この後から現在までの映像にはそんな形跡ないですし」
羊谷はパソコンを凝視しながらそういった。
「とりあえず、眼帯の奴は重要参考人ってことですね。本部に手配かけたらどうですかね」
「だな」
火ヶ丸はそう答えると早速、電話をかけ始めた。
後日、株式会社タチバナの監視カメラを詳しく解析して顔つきで手配がかけられることとなった。
一方、社員の事情聴取に協力していた羽枦警察署の警察官達もまた、眼帯を着けた高校生が目撃されているという情報を数名の社員から得ていた。
そしてもうひとつ重大な情報を得ていた。
羽枦警察署刑事課の八村はその情報を火ヶ丸に告げるために電話をかけた。
「ああ、もしもし火ヶ丸さん。実はですね……眼帯の高校生と一緒に区議会議員の野神行武の目撃情報も上がったんですよ!!」
「そうなんですか……他には何かありましたか?」
「あ、いいやなかったな」
「ありがとうございました。では引き続きよろしくお願いいたします」
火ヶ丸はそういうと電話を切った。
「あいつ、なんかおかしかったな」
八村はそう呟いた。
「なにがですか八村さん」
隣にいた新馬は八村に尋ねた。
「ああ、なんかあいつの調子がおかしくてな。事件に関する情報が手に入ったんだから声の調子が上がるかと思ったんだが…………あいつ何か知ってるんじゃないか」
「泳斗。社長室付近のカメラ以外に他にも消された映像がないか調べといてくれ」
火ヶ丸は電話を切るなりすぐに口を開いた。
泳斗は火ヶ丸の指示を受けると早速パソコンに向かい操作し始める。
「ありましたよ5日前の非常口から社長室までの監視カメラの映像が消されてましたよ。今から復元します」
泳斗はそう言うとパソコンの画面に近付き再び笑みをこぼしながらキーボードを素早く打ち始めた。
「これじゃないですかね」
泳斗はそう言うとパソコンの画面を指差した。
火ヶ丸と羊谷はその画面に流れている幾つかの映像の内の一つを見る。
その映像は非常口に取り付けられている監視カメラのもので、映像は非常口のドアとそこから繋がる階段を写していた。
泳斗はマウスを操作しクリックした。すると停止されていた映像が流れ始めた。
しばらくすると非常口のドアが開いた。
そのドアから入ってきたのは、社長室付近の監視カメラに映っていたあの眼帯の高校生。
そしてその後ろから羽枦区議会議長であり元UCA-S級隊員の野神行武が入ってきた。
眼帯の高校生が非常口のドアを閉め、上へと繋がる階段を上がっていくと野神もその後ろへと付いていった。
監視カメラの範囲外に出る手前で、野神は監視カメラの方を凝視していた。
そのあとの眼帯の高校生と野神の足取りを監視カメラで追っていると次々に消去された映像があり、その度に泳斗が映像を復元した。
そして分かったのは、眼帯の高校生と野神が向かった先が社長室だということだった。
その後の映像には社長室から出てくる野神の姿が映像に残っていた。
「火ヶ丸さん。野神議員について詳しく調べたほうがいいんじゃないですかね」
泳斗はパソコンの操作に疲れたのか椅子の背もたれに寄りかかり、上を向いてそういった。
「そうですよね」
羊谷も同意し火ヶ丸に熱い視線を向けた。
「……そうだな」
火ヶ丸は泳斗の背後でそう呟いた。
火ヶ丸班は朝から夕方まで行っていた捜査を一段落させると、株式会社タチバナのオフィス内を出て食事をとるためオフィス一階のロビーに集まることになった。
「あれ、刀馬さんじゃないですか?」
拳堂はオフィス入口の自動ドアを出ようとする、とんがりヘッドの長身の男の後ろ姿を指差しそういった。
「そんな訳ないだろ、刀馬班は高校に事情聴取行くってさっき連絡入ったから」
火ヶ丸はそういうとポケットから携帯を取り出し、HELLOというトークアプリの刀馬との会話画面を拳堂に見せた。
「とりあえず今日は切り上げて夕飯に行こう。明日は署に集まって情報交換する約束の日だから署に集合だ」
火ヶ丸はそういうと他の四人を連れてオフィスを出て飲食街へと向かっていった。