火ヶ丸班side day 1 ~区議会議員 前編~
立花の周辺について調べることになった羽枦署のメンバーは手始めにそれぞれ分かれて立花と同じ区議会議員を勤めている人物に話を聞きに行くことになった。
区議会議員の仕事は簡単にいうと年に数回の会議に出席することだ。
そのほかの時間はなにをしているかというのは、それぞれの区議会議員によって異なり、普通に仕事をしたり毎日遊び呆けたりと様々である。
もちろん会議は、頻繁に開かれている訳ではないため、それぞれの議員の自宅や職場などを手分けして回ることになった。
土伊と羊谷は、羽枦区区議会議員の思江容子の職場である羽枦小学校へと向かった。
思江容子は、羽枦東小学校で週に2回悩み相談をしていた。
土伊と羊谷は、まず羽枦東小学校の事務室を訪れ、捜査の概要を伝え了承をもらい事務職員に既に学校に来ていた思江容子を相談室へと呼んでもらった。
先に部屋につき待っていた土伊と羊谷は、部屋がノックされる音とともに立ち上がりどうぞと一声かけた。
部屋に入ってきたのは白髪の優しそうな雰囲気の60代ぐらいのおばあさん。
「どうも。はじめまして。私達はUCAの者です。お忙しいなか申し訳ありませんが少々お時間よろしいでしょうか?」
土伊と羊谷は、UCA手帳を見せ丁寧に頭を下げ挨拶をした。
「はじめまして思江容子です。大丈夫ですよ、時間はたくさんあまってますわ」
土伊と羊谷は、思江に座るように手振りをしたあと自分達も座った。
羊谷は手帳とボールペンを取り出しメモの準備をした。
「いきなりで悪いのですが市議会議員の立花さんが亡くなったのはご存知ですか?」
「はいニュースで知りました。犯行現場にトランプが落ちていたとか……」
REVOLuZが起こしたとされる犯行は、市民からの情報提供を募るためニュースや新聞などで細かく公開されていた。しかしREVOLuZの犯行はどれも粘密に練られた計画的なもので有力な情報は集まることは少なかった。
「それでその立花さんはどんな方でしたか?」
「傲慢な人でしたね。会議でも……その……威張り散らしていたといいますか……それで他の議員の賛成票やら反対票をとるんですよ」
確かに立花の顔は、口髭と顎髭が繋がっていてそれにキリッとした眉、それに加えてがたいのいい体格。少なくとも優しい雰囲気とは思えなかった。
「この前の羽枦区での異能者人権保護法の会議でも一日目は彼一人だけが反対していたのですが……次の日、再度投票をとったら反対派が多数を占めてしまい可決されなかったんですよ」
「そうなんですか」
土伊はそう相槌を打つ。
「その時の立花さんのあの不敵な笑みは忘れられません」
思江はそういうとその会議のことを思い出し暗い表情を見せる。
「ありがとうございます。あともうひとつよろしいでしょうか?」
土伊はそういうと、指を一本立てながらそういった。
「どうぞ」
思江はニッコリと微笑むとそういった。
「立花さんが殺された日の夜のことなんですが、何をしてらっしゃいましたか?」
「寝てましたよ。とはいっても夫に先立たれて息子も成人して家を出てるので……証明できる人は、いませんがね」
思江はそういうとにっこりと笑って見せた。
「そうですかありがとうございました」
そういうと土伊と羊谷は、立ち上がりお辞儀をした。
すると思江も立ち上がりそれに応えて礼をした。
そして思江はそのまま部屋を後にした。
思江が部屋からでたあと、土伊と羊谷も部屋を出た。
拳堂は黒と白の水玉模様のアイマスクをつけた泳斗と一緒に区議会議員の一人、賓崎細三の自宅を訪れていた。
賓崎細三は痩せた体に骸骨のように骨ばった顔をしており、UCA手帳を見せただけで動揺を見せることから気弱な性格だと見てとれた。
「立花さんはどんな人でしたか?」
「いまだから言えますが立花さんは本当に酷い人間でした――」
賓崎は立花に対して相当鬱憤がたまっていたのか人が変わったように立花について夢中で喋りだした。
賓崎の話によると立花は独身で女ったらし。それに加えて傲慢。
区議会会議でも高圧的な態度を終始とっていた。
自分の思った通りに多数決がいかなかった時には、会議を翌日など別の日に持ち越す。
そして、賓崎のような気弱そうな人間を脅して自分に有利な票を集める。しかし、最近は今まで大人しかった議長と対立することが多くなったという。
時には金をつかい人間を思い通りにするという。
つい最近行われた異能者人権保護についての議題では、反対一票から一転し、翌日には反対多数になってしまったという。
拳堂と泳斗は、そんな無我夢中で机の上に前のめりになり話す賓崎に驚いていた。
全て話終えると賓崎は、正気に戻ったかのように今までの自分の行動に動揺を見せていた。
「すいません。つい……」
賓崎はそういうとハンカチを取り出し額の汗を拭き取った。
「あっ、いえいえ。…では、ありがとうございました」
拳堂がそういうと、賓崎はゴクリと唾を飲み込み安心したかのような表情を見せた。
「あんた、まだなんか隠してるだろ」
泳斗はその賓崎の様子を見て不自然に感じたのかそう質問した。
「えっ、いや……」
図星だったらしく賓崎は再びハンカチを取り出して汗をかいているわけでもないのにハンカチで額を拭いた。
「賓崎さん。話してください。お願いします」
賓崎は拳堂の真剣な眼差しを見て観念したらしくコクりと頷いた。
「私の恩人に疑いがいってしまうかもと思いあまり言いたくなかったんですが――」
賓崎は先ほどの興奮した状態とは真逆でゆっくりと静かに話はじめた。