眼帯の高校生
羽枦署に警察から電話がかかってきたのは八村達が到着してから30分後。
異能犯罪対策室に鳴り響いた電話をとったのは火ヶ丸だった。
「もしもしUCA羽枦署異能犯罪対策課ですが」
「羽枦警察署の新馬ですが、実は区内で異能絡みの事件が発生しまして協力を要請したいのですが……」
新馬はそういうと現場の住所を告げる。
火ヶ丸は受話器を肩で支えながらメモをとった。そして受話器を置いた。
「よし、お前ら出るぞ!!」
五人はすぐに用意をし火ヶ丸の運転で羽枦署を出た。
そして、車を走らせていると赤信号で止まった。
そして右側に大勢の人間がデモ行進をしている様子が見えた。
「最近また、活発になってきたよな」
火ヶ丸はハンドルを握りながらその様子を見ながらそういった。
「あれですよね、異能者の人権を取り下げろっとかゆうやつ」
羊谷は火ヶ丸に向けてそういった。
「ああ、きっとノーマルの人間は特別な力を持つ人間を同じ人間だとは思えないんだろうな」
「異能を仕事で使えるように法律が通ってから仕事がなくなる人達がいるってニュースでやってましたし」
拳堂は今朝やっていたニュースのことを思い出す。
「俺なんて消防官になったら引っ張りだこだぜ」
「だったら、私だって工事現場で引っ張りだこよ」
「それぐらいにしとけ、もう着くぞ」
やがてパトカーが停まっているのが見えその近くに自分達の車を停めた。
そして五人は徒歩で現場である路地へと向かった。
立ち入り禁止テープの前に立っている警察官にUCA手帳を見せ中に入った。
「八村さーーん!!」
火ヶ丸は八村の姿を見つけると手を上に挙げ横に振った。
「……お久し振りですね」
八村は嫌そうな顔を見せる。
「仏さんは?」
「解剖することになりましたよ」
そういうと八村の後ろで運ばれていくその死体を親指で指差した。
「泳斗、立ち会ってこい」
「了解っす」
泳斗はそういうと、羽枦警察署の若い刑事 新馬と一緒に付いていった。
「そういえばトランプが一枚落ちてましたよ、あんたら異隊の追ってる山でしょ」
「本当ですか!?」
火ヶ丸はその言葉に反応し体がピクッと動く。
「……ああ」
八村は火ヶ丸のその様子に驚きながら、現場に落ちていた血のついた一枚のトランプを見せる。
火ヶ丸と土伊、拳堂、羊谷はそのトランプに視線を移す。
トランプの柄は、ハートの9だった。
「9か……」
火ヶ丸はそう呟いた。
「これからうちの鑑識が現場検証やるんで立ち会うならどうぞ」
そういうと八村は顎で鑑識に合図をした。
「俺と土伊はここに残って立ち会うぞ、拳堂と羊谷は近くで目撃者がいないか聞いてきてくれ」
「「 はい 」」
火ヶ丸のその言葉を受けた拳堂と羊谷は現場を出た。
拳堂と羊谷は近くの住宅やアパートを訪れ情報を得ようと聞いて回ったが参考になる情報を得ることは出来なかった。
「羊谷さんはそういえばどこの養成学校出身なの?」
「私は東亰です。拳堂くんはどこなの?」
やがて、火ヶ丸からの電話があり、現場へと戻ろうと足を進めることになった。
「おい、そこの」
現場へと向かう拳堂と羊谷を後ろから呼び止める声がして振り返る。
そこにいたのは杖をつく老人だった。
「どうしたんですか?」
羊谷は猫背気味の老人の背丈に合わせて膝に手を置き腰を落とす。
「わしゃ、昨日の夜、不審なやつを見たんじゃよ――」
その老人が語るには、夜、散歩をしていた時に不審な人物を目撃したという。
その人物は立花が殺された路地から出てきた。
僅かな外灯の光に照らされたその人物は、黒の学ランを着ていた、背丈からおそらく高校生。
老人が不審に思ったのは高校生がこんな時間に出歩いていることと、その少年が眼帯をつけていることだった。
その高校生は殺人現場である路地から出てくるなり、辺りをキョロキョロとし挙動不審な様子を見せていた。
やがてその高校生は下を向きながら老人のほうへと歩いてきた。
高校生は老人に気付いていないようで夜の暗闇へと消えていった。
「ダメでしょ!! じいさん!!」
拳堂と羊谷の背後から大きな声が聞こえて振り返る。そこにはエプロンを着たおばさんが立っていた。
「すいません、この人認知症やってるんで……あまり気にしないでくださいね」
おばさんはそう言い残すと老人を連れて一緒に家へと帰っていった。
「……一応報告しておくか」
「……そうですね」
その後、火ヶ丸と土伊と合流した拳堂と羊谷はそのことを二人に話した。
火ヶ丸は拳堂の両肩に手を置き顔を近付ける。そして動揺したような口調でいった。
「眼帯か!?」
「そうですけど……どうしたんですか火ヶ丸さん」
拳堂は火ヶ丸のその様子に驚きを見せる。隣に立っている羊谷も同様だった。
「いやREVOLuZの幹部に眼帯をつけたやつがいてな……」
「そうなんですか!?」
「ああ、こりゃあ本部に応援要請したほうがいいな」
そういうと火ヶ丸は本部に電話をかけた。
そのあと、火ヶ丸達は警察の現場検証につきあった。
しばらくすると泳斗が新馬とともに戻ってきた。
その頃にはもう日も落ちて夕方になっていた。
やがて、火ヶ丸は何かを思い出したのかピクッと体が動いた。
「ん…………応援来るってことは羽枦区担当のアイツが来るんじゃないか? ……お前ら署に戻るぞ」
慌てた様子の火ヶ丸はすぐに車に戻り四人を連れ車を出した。
「忙しいやつらだな」
八村はその光景をみて愚痴をこぼした。
「ちゃんと資料とか整理してないと本隊のあの抹茶アイスが来たらめちゃ怒られるんだよ」
火ヶ丸は署に着き異能犯罪対策室に戻ってくるなりそういうと慌てて自分のデスクの上を片付け始めた。
「お前らも机整理しとけよ」
そういわれた四人は、それぞれ自分のデスクにを見た。しかしどのデスクの上もとても綺麗だった。
「火ヶ丸さんのとこだけですね」
羊谷は火ヶ丸の悲惨なデスクの上を見てそういった。
「課長手伝いましょうか?」
「じゃあ、倉庫を整理しといてくれ」
その言葉を受けた四人は、部屋のとなりの倉庫に向かった。
入った瞬間、四人は驚いた。
そこはまるでゴミ屋敷だった。
棚に並べてあるはずの資料が閉じられたファイルが床に散乱し、普通一階で管理しているはずの押収品もいくつか段ボールに詰められ落ちていた。
四人は一斉に深くため息をついた。
土伊はそのあと火ヶ丸と叫ぼうとしたようだが火ヶ丸のデスクの惨状を目にしたあとで追い討ちをかけるのは可哀想だと思いとどまり口をつぐんだ。
四人は部屋を四分割してそれぞれ整理を始めた。
一方の火ヶ丸は、デスクの上だけ嵐が起きたんじゃないかというほど物が荒れていた。火ヶ丸は所長を勤めていることもありデスクの大きさも他のデスクの倍ほどの大きさ。
当然、デスクの上の書類や資料も倍以上のため相当な量ある。
その書類や資料などは、デスクの上には収まりきらず床の上にも散乱していた。
火ヶ丸はそれをほったらかしにしたことを深く後悔した。そして深く大きなため息をはいた。
手始めに火ヶ丸は床に落ちている紙類から片付けはじめた。
他の四人は約一時間ほどで倉庫の片付けを終えた。
四人が倉庫から出てくると火ヶ丸は、ようやく床の片付けが終わったようでデスクの上の片付けに取り組んでいた。すでにゴミ袋が二つあった。
「火ヶ丸さ~ん倉庫は、終わりましたよ~」
泳斗は蒸し暑い倉庫の中での作業をやっとのことで終え疲れた様子を見せながらそういった。
「じゃあお前ら…………はもう帰っていいぞ」
火ヶ丸は必死になにかやらなくてはならないことを考えたが結局見つからなかった。
「じゃあ私達は、お先に失礼します」
他の四人が出ていった中、火ヶ丸は一人黙々と机を片付けた。
その日羽枦署の2階は、夜遅くまで明かりがついていたという。