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羊谷のわたあめ

「おい、待て!!」

 拳堂は前を走る男を追いかけていた。

隣を走るのは羊谷だ。


 前を走り、拳堂達に追いかけられているのは工場用の作業着を着た30代の男性。

やがて、その男は工場跡地に追い詰められた。


「待て待て、仕方なかったんだ……あいつがあんなことしなければ……」



 1時間前に遡る。







 事件は羽枦区にあるアパートで事件は起こった。


「じゃあ仕事行ってくるわ」

 奥で洗い物をしている妻にそういうと、山下という男性は玄関へと向かう。


 玄関にいき靴を履いた時だった、玄関のベルが鳴らされ家の中にその音が響く。

妻はもしかしてと思い、洗い物をやめ携帯を取り出す。

そして玄関へと急いで駆けてゆく、が、一歩間に合わなかった。

開いた玄関の前に立っていたのは茶髪に耳にピアスを開けたまだ20代前半ほどのチャラい男。


「どちらさんですか?」

 山下は事態を把握出来ずにそう尋ねる。


 すると、チャラい男はふいに決定的な一言をこぼしてしまう。


「頼子……」


 山下はその言葉を聞くと、後ろにいる妻を見る。そして唖然とした表情を見せる。妻の方は顔を下に向け暗い顔をする。


「お前、まさか……」


「別れたっていったじゃねぇかよ!!」

 チャラい男は顔を合わせる二人に割って入るかのように言葉を出す。

 

 山下は妻の浮気が確定したその言葉に怒りがこみ上げる。

その怒りの矛先は当然のごとく妻である頼子に向き、その浮気相手である男にも向いた。


 山下は仕事に持っていくはずだった鞄と弁当の入った手提げ袋を床に投げつけた。

それを見た頼子は、あわてて弁明をするが山下は聞く耳を持たない。


 山下は怒りのままに異能を体に発現させる。

山下の右手は鋭く尖ったドリル状へと変化を遂げる。

そしてそれを頼子の腹へと突き刺した。

 その光景を間近で見ていた浮気相手の男は腰が引けアパートの二階の踊り場に尻餅をつく。

その男は顔にびっしょりと汗をかき怯えた顔を見せた。

しかし、すぐに立ち上がり階段へと走る、そして階段を震える足で下る。


 山下は自分のしたことが悪いことだと自覚しながらも怒りを抑えきれずにいた。

毎朝、朝御飯が食卓にあり、妻に見送られ、仕事から帰宅すると妻が笑顔で出迎え夕食と風呂の準備ができているそんな幸せな生活は全て偽りのものだった。

山下はそんな幸せな日々を壊した元凶の浮気相手を許すことは出来なかった。


「あいつさえいなければ……」


 山下は逃走する浮気相手を追いかけ回す。

そして、ついに追い詰めた。

血のついた右手のドリルをその浮気相手の顔面向けて突き刺した。

突き刺された男は、無惨にも細かな血肉の塊となり住宅街の道の真ん中で砕け散った。

近くを歩いていた通行人は当然ながら大きな悲鳴を上げる。

時刻は7時34分、朝の散歩や通勤者で人が多く通る住宅街のど真ん中で起きたのだから無理はない。


 その悲鳴で正気を取り戻した山下は自分のドリルとなった右手と視線の下にある肉の残骸を見て、膝を崩し震えながら頭を抱えた。


 その時、近くを散歩していたお婆さんの声が聞こえた。


「警察とUCA呼んだほうがいいんじゃない」


 その言葉に山下はハッとして立ち上がり逃走を図った。

 羽枦署に通報が入ったのはそれからすぐのことだった。

当直となっており、署で寝ていた拳堂と羊谷は、その通報のベルで起こされた。

通報を受けた二人はすぐに、署を出て現場に向かった。

その最中、一人の男と出会う。

 

「お前らUCAだろ、助けてくれ頭おかしいやつに追われてんだよ!!」

 ワックスで長い茶髪をセットし、耳にピアスをつけた若い男は、UCAの制服を着た拳堂と羊谷を見つけるとそういいながら駆け寄ってきた。


「大丈夫ですか?」

 拳堂はそういうとその男が逃げてきた方向に視線をやる。


 すると、その方向には右手がドリルに変化した男がこちらに向かって走ってくるのが見えた。

その男はUCAの制服を着た拳堂と羊谷を見ると怯えた様子を見せる。そしてその男は拳堂と羊谷から離れようと、振り返りもと来た道を走っていった。

拳堂と羊谷はすぐに逃げた男を追いかける。






「待て待て、仕方なかったんだ……あいつがあんなことしなければ……」

 動揺した男はそういうと後ろを振り返る。しかしそこには高い塀があるだけで逃げ道はなかった。両脇には大きなコンテナがあり左右にも逃げることは出来ない。


「堪忍しろ!!」

 

 拳堂のその声に驚いた男は頭を抱え考えを振り絞る。その時、男は自分の異能のことを思い出す。

男の異能は……回転錐(ドリル)、体の一部分を金属製のドリルにすることが出来る。


 男は右手のドリルを回転させる。

そして後ろに立ちはだかる高い壁にそれをぶつける。

すると、その壁はドリルによりどんどん破壊されていく。

10mほど離れていた拳堂と羊谷はすぐにその男を取り押さえようと走る。

次第に近付いてくる足音に気づいた男は突然、振り返る。

すぐそこまで迫っていた羊谷に高速で回転する鋭い錐が向けられる。


「危ない!!」

 すぐ隣にいた拳堂は咄嗟にそう叫んだ。


 その時、ポンッという音が拳堂の耳に聞こえると同時に体が横のコンテナに飛ばされぶつかる。

なにが起こったのか分からない拳堂は目を開けた。

目の前には白いモコモコの毛が拳堂の視界全てを覆っていた。

拳堂はコンテナ際まで届いているその毛を這いつくばって抜け、そのものの全体を見る。

それは巨大な白い毛玉となって両脇にあるコンテナにまでぶつかっていた。


「……なんだ…………これ」

 拳堂は驚きのあまり目を丸くさせそう呟く。


 やがて、またポンッという音が聞こえる。

すると、目の前にあった巨大な白の毛玉は見る見るうちに小さくなっていく。

そしてその中心に現れたのは羊谷だった。

羊谷の前の壁にはあの男が気絶して倒れていた。


「見てください犯人倒しました!! やりましたよ!!」

 羊谷はそういうと拳堂の元に駆け寄り拳堂の手を両手で握る。


 すると羊谷の顔がホッと赤く火照る。それを見た拳堂も同じく頬を赤くさせる。

お互い相手の顔をじっと見つめるとやがて我に返り手を急いで振りほどく。


「あわわ……すいません、つい、嬉しくて」

 羊谷はそういうと顔を下に下げる。


「いや、大丈夫だよ……うん」

 拳堂も動揺を隠すかのように明後日の方向を向く。

 そして気絶して倒れている男に視線を移して一言。



「とりあえず署に戻ろうか」

 






 拳堂と羊谷が男を連れて羽枦署に戻り留置場に男を入れ、2階の異能犯罪対策室に戻ると、そこには他のメンバーも既に座っていた。


「お疲れちゃん、聞いたよ朝から大変だったって」

 いつも通り寝癖の酷い火ヶ丸は笑いながらそういった。


「おつカレー、カツカレー」

 泳斗は手元のパソコンを見ながらそういうと自分の言ったダジャレで笑いだした。


「犯人は、ちゃんと捕まえられた?」

 土伊は心配そうに拳堂と羊谷に尋ねる。


「はい、羊谷が捕まえましたよ」

 

「「「へ?」」」

 火ヶ丸 土伊 泳斗は一世に同じ声を出した。


「すごいじゃない羊ちゃん!! てっきりまた拳堂君がやったのかと思ったわよ」

 土伊は席を立ち羊谷に抱きついた。


「羊が羽枦署に入ってきて1ヶ月……初手柄だな!!」

 火ヶ丸はそういうと拍手をした。すると羊谷以外のメンバーもそれにつられて拍手をする。

 

  そんな平和な異能犯罪対策室に、このあと羽枦区を揺るがす電話のコールが鳴り響く……。


 時間は再び過去へと巻き戻る。

 

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