はじめての会議
黒猫壊滅から一ヶ月ほど経った。
羽枦署では、平和な日常が続いていた。その一ヶ月の間、異能犯罪対策課のメンバーがしていたことといえばパトロールや未解決事件の捜査などの業務だった。
今日もそんな平和な一日が幕を開けた、はずだった。
「おはようございまーす」
拳堂が異能犯罪対策課室のドアを開けるとすでに他の四人は、席についていた。
ピリついた部屋の空気を察知して慌てて腕時計を見るとまだ始業時間の20分前だった。
「遅かったな拳堂……座れ」
火ヶ丸がいつにもまして険しい表情をしていたため、拳堂は一瞬で背中に冷や汗をかく。
「まあ座りなさい」
「……すいません失礼します」
土伊に促され自分の席に座り、隣にいる泳斗のほうをチラッと横目で見るといつものようにニヤニヤとしており、必死に笑いをこらえていた。
よく見ると泳斗は、太い眉毛を中心に集め真剣な表情を見せる劇画調の男の顔がプリントされたアイマスクをしていた。
そして向かいの羊谷に視線を移した。
羊谷はいつもの可愛らしい目と真逆で拳堂をにらめつけるように見ていた。
拳堂には、羊谷の頭に生えた二本の角が、いつもより大きくなっているように感じた。
「さあ、はじめようか」
火ヶ丸は前のめりに座り机に肘を立て口元を組んだ手で隠しながらそういった。よく見ると泳斗を除く他の2人も同じ格好もしている。
「ちょ、ちょっと待ってください!! いったい何をはじめるんですか!?」
拳堂はただならぬ空気感に不自然さを感じ、そう尋ねた。
「HELLOのグループ見てないの?」
羊谷は呆れたような顔を見せそういった。
HELLOとは……。
一年前から配信されたトークアプリで、個人とのトークやグループでのトーク、無料通話などの機能を兼ね備えた人気のアプリ。今ではメール機能の代わりにこのアプリがダウンロードされ使われることが多い。
拳堂は昨日の晩。HELLOのグループが賑わっていたのを思い出した。
拳堂はすぐに携帯を取りだしグループのトーク履歴を見た。
【羽枦GO!!レンジャー】
〈火ヶ丸〉明日会議やるよ~(>_<)
〈土伊〉しね(σ≧▽≦)σ
〈羊谷〉やだ( ≧∀≦)ノ
〈泳斗〉wwww
〈拳堂〉なんの会議ですか~('_'?)
〈火ヶ丸〉向かいの喫茶のマスターから候補の中から新メニューを決めてくれないかって、それの会議よーー!!
〈泳斗〉www
〈土伊〉一応聞くが候補は((o( ̄ー ̄)o))?
〈火ヶ丸〉①オムライス ②ステーキ ③ラーメン ④グラタン
〈火ヶ丸〉ちなみにだが俺はラーメン!!
〈土伊〉ステーキに一票(-o-)/
〈羊谷〉オムライス\(~o~)/
〈泳斗〉じゃあ、グラタンww
〈火ヶ丸〉じゃあってなんだよ泳斗
〈拳堂〉なんでもよくないですか(笑)?
〈土伊〉は!? なにいってんの(-公- ;)
〈火ヶ丸〉……とりあえず明日は会議だー!!!!
「あーそう言えば…」
拳堂はあまりにくだらないことだったので、すっかり忘れていた。
「拳堂君、きまったかな?」
「えっと……いや……」
拳堂は四人からの痛い視線に怯え額にも汗をかく。
「ププ……あのそれぞれ好きなとこをアピールしたらどうすか? ……ププププ」
泳斗は必死に笑いをこらえながら火ヶ丸にいった。
「よしそれでいこう羊谷からな!!」
羊谷は手でオムライスを作るようにジェスチャーしながら話しはじめた。
「オムライスのあの卵のフワフワそしてトロトロ。見事にマッチしたケチャップライスとのハーモニーがたまらないよねー拳堂くん」
「よし次は土伊だ」
土伊は思いっきり椅子を引き立ち上がった。そして唾をごくりと飲み話しはじめた。
「ナイフを入れた時に溢れだす肉汁。そして口に入れた時に広がる肉汁。ん~~たまらん」
「ん。よし泳斗」
「んーと……うまい……以上」
笑い声混じりの声で泳斗はそういった。
「泳斗さん、ほんとにグラタン好きなんですか?」
「いやきら、……ん、いやいや好きよ」
泳斗はそういうとトイレに行くといい部屋を出ていった。
異能犯罪対策室にトイレに入っている泳斗の笑い声が微かに聞こえてきた。しかし拳堂以外の3人はメニューのことに夢中で耳に入ってないようだった。
「よし俺だ!!ほどよい麺に絡んだスープそれを引き立てるメンマやチャーシューそしてナルト。あーーラーメンってうまいよなー」
「さあどれにする?」
「どれもおいしそうですよ……うーん」
拳堂はさらに汗をびっしょりかく。
「じゃあクジにしません?」
トイレから戻ってきた泳斗の提案に乗り、火ヶ丸が割りばしでクジを作った。
そしてその一時間足らずの会議の結果は神様に委ねられた。
そして、拳堂は運命の割り箸を引いた。引いた割りばしにはステーキと書かれていた。
「やったーーー大好き神様ー仏様ー拳堂様ーー!!」
そういうと土伊は、拳堂に思いっきり抱きついた。
羊谷と火ヶ丸は、その光景をただただ睨み神様を呪っていた。
泳斗はというと椅子から転げ落ち床で大笑いをしていた。
その会議の結果がカフェのマスターに告げられ次の日から早速ステーキが販売されることになった。