脱走
盗品整理が終わり一息つく異能犯罪対策室に一本の電話がかかってくる。
真っ先に受話器をとったのは火ヶ丸だった。
「はい、こちら羽枦署異能……」
火ヶ丸はここまでいうと電話の相手に主導権を取られる。
火ヶ丸は事の重大さに気づき、咄嗟に電話をスピーカーモードに切り替える。
『‥‥透道が脱走しました…‥‥』
五人は大急ぎで羽枦署地下1階にある留置場へと移動する。
「透道……」
拳堂はそう呟いた。
透道と速世の護送が明日と迫ったなか起きたことだった。
事件は15分前に起きた。
羽枦署地下 第一留置場
羽枦署生活課警備部の隊員が一人ずつ透道と速世の収監されている檻の前に監視役として立っていた。
檻の中にいる透道は、丸い電球の僅かな光に照らされながら、腕を鉄の拘束具で拘束され、顔を下げパイプ椅子に座っていた。
一方の速世はパイプ椅子には座らずに放心状態で体育座りの形をして座っていた。
「おい、お前の異能者収監所行きの日程が決まったぞ。急遽だが明日になった」
檻の監視役を勤める警備部の男性隊員は今さっき本隊から届いた書類の内容を告げる。
「ということは…………そうですか、最後に聞きたいことが」
羽枦署の留置場に運ばれてからいままで無言を貫き通していた透道はいきなり口を開く。
「なんだ、言ってみろ」
「俺を倒した隊員はどうなりました?」
いまだ下を向いたままの透道は、目の前に立つ監視役にそう尋ねた。
「ああ、拳堂ダンなら無事だ」
「そうですか…‥‥よかった」
透道はそう呟くと、顔を上げ口元を横に引き伸ばし不気味な笑みを浮かべた。その表情を見た監視役は背中に寒気が走るのを感じた。
そして透道は、檻の中で異能を使い姿を消した。
監視役はあわてた様子を見せたが、そこが黒い強固な鉄で囲われた檻であることを再確認すると落ち着きを取り戻す。
「そんなところで異能を使っても無駄だぞ。お前の異能は姿を消す岳の透明だってことは分かってる。そこから出られやしない」
その時、監視役の隣を何かが横切った。
咄嗟に監視役はその方向を向く。しかし当たり前だが、そこにはなんの姿も見当たらない。
その時だった、監視役は首に冷たい感触と鉄のような固いようなものが触れているのを感じる。
そして、その首に触れた鉄は監視役の首を絞めはじめる。
の体は誰もいないはずの後ろへと引っ張られ足が宙に浮く。
苦しみでバタバタと足を動かし続ける監視役は助けを呼ぼうにも声が出ない。しかし、なんとか薄れゆく意識のなかで腰のホルダーから銃を取り出した。
しかしその銃は発泡されることなく、やがて監視役は意識が薄れ泡を吹いた。
すると宙に浮いていた監視役の足は地面につく、そして体全体が大きな音を立て地面に叩きつけられる。
その音に不審を感じとった、速世の檻の前にいる警備部の隊員は駆け足で音のした方向へと駆け寄る。
「おい!! 大丈夫か!?」
そういうと監視役は腰のホルダーから拳銃を抜き震えながら周囲を警戒する。
そして檻の中に透道の姿がないことに気付く。
その時だった、監視役の目の前に突然、金色の短髪にこちらを睨む鋭い目そして不敵に笑みをこぼす顔が現れる。さっきまで檻の中で拘束されていた透道だった。
監視役は驚きのあまり腰が引け尻餅をつく。
透道は尻餅をついた監視役の目の前に立つ。
「なななんで、お前が檻の外……」
監視役が最後まで言い終わるのを待たずに透道は監視役の顔面を思いっきり蹴り飛ばした。
「あと一人…‥‥」
透道は空の檻を三つ通りすぎ四つ目の檻の前に立つ。
「速世」
透道がそう呟くと放心状態で檻の中で座っていた速世はパッと顔を上げる。
「…‥‥透道か? なんで檻の外にいるんだ?」
透道は速世の魂の抜けたかのような言葉を聞くと、まるでそこに檻がないかのように、檻をすり抜け速世の檻に入った。
「なんだ、その異能」
「そんなことより、お前異隊に盗品の在処吐いたそうだな」
透道は座っていた速世の髪を上へと引っ張り睨み付ける。
「なんでそれを…‥‥」
速世は怯えた様子を見せ震えた声でいった。
「クオーツ様からの情報だ」
「クオーツ? お前、まさか…‥‥」
速世はそういうと驚いた様子を見せる。
すると、透道は速世の胸ぐらを掴み立ち上がらせる。
その時、速世の視界にあるものが見えた。
「REVOLuZ…‥‥」
速世は透道の肩口にREVOLuZメンバーの証であるタトゥーが入っていることに気付く。
突然、速世の視界が揺らぐ。
気づくと透道に投げ飛ばされ地面に叩きつけられた。
透道は不気味な笑みを浮かべ速世をめったうちにする。
速世の意識がなくなるまでめったうちにすると落ち着きを取り戻す。
そして透道は深呼吸を繰り返す。
「煙己さんのところへ行かなければ……」
…‥‥そのあと透道は姿を消した。