異能者専門病院 後編
火ヶ丸は315号室のドアをトントンと二回叩く、そして中からどうぞという声が聞こえるのを確認してから火ヶ丸は引き戸式のドアを開けた。
ドアを開けると最初に目に入ったのは病院のベッドの脇に立つ拳堂の姿と白衣を着た医師の後ろ姿だった。
「あ、お疲れさまです」
そういった拳堂は頭と下腹そして右足の太ももに包帯をしていた。
「おお、大丈夫なのか?」
火ヶ丸は拳堂の痛々しい様子を心配するかのようにそういった。
すると、拳堂の前に立っていた医師が突然、火ヶ丸達のいる方向に振り返る。
「久しぶりだな。火ヶ丸」
振り返り手を挙げた医師は、眼鏡をかけた30代半ばの男性。
額のところで半々に分けられた髪は両脇に耳の下まで垂れ、髪はパーマがかけられているのか先がくるくると回っていた。
火ヶ丸はその医師の顔を端からみたら不審に思える程、じっくりと覗きこむ。
「もしかし……復家か!?」
火ヶ丸は旧友にでもあったかのような口調でそういった。
するとその言葉を聞いた羊谷は、自作の異能者ノートをリュックサックから取り出し開く、そしてあるページを開く。
羊谷の両脇にいる泳斗と土伊はそのページを覗きこむ。
復家 治
異能は手術。両手が変形し治療器具が何種類も出る。
両方の手を使うことで同時に二人の患者の治療を行うことができる。
どんな難手術も成功させる元UCA A級隊員の医師。
ある異能犯罪者との戦闘で左足と右腕を失ったことが異能犯罪対策課引退の決定打となり研究課に移動する。
現在は義足と特殊な義手を着け異能者治療の第一人者となっている。
火ヶ丸と復家が昔話に花を咲かせている中に土伊が割って入る。
「あの……拳堂くんは、もう大丈夫なんですか?」
「ああ、大丈夫だよ。彼は回復力が特別に高いみたいだね。きっと……」
そこまでいうと復家は不自然に口をつぐんだ。
「ああそういえば退院できるのか?」
火ヶ丸は拳堂が帰りの用意をしている様子を見て復家に尋ねる。
「ああもう大丈夫だよ、火ヶ丸せっかくだ、ちょっと話さないか……」
「うん?……じゃあ、お前らは先に車戻っててくれ」
火ヶ丸は複家の不自然な様子を察知したのかそういった。
火ヶ丸にそういわれた拳堂 泳斗 羊谷 土伊の四人は部屋を出ていった。
四人が車に着いてから10分ほどすると火ヶ丸も戻ってきた。
火ヶ丸が車に戻ってくると四人は車の中に座っていた。しかし、誰も運転席には座らずに後部座席と助手席に座っていた。
「……お前ら、俺に運転させる気満々だな」
早速、五人を乗せた車は羽枦署へと走っていった。