余韻
昨日捕まえた黒猫の犯人を羽枦署の地下にある留置所に拘束したあと、疲れを癒すため翌日に事情聴取をすることになりメンバーは帰宅した。
そして翌日。
異能犯罪対策室の取り調べ室では、先日捕まえた黒猫メンバーの取り調べを行っていた。
ノーマルの二人は取り調べ室で話を聞き、異能者の透道と速世は異能の危険性を考え留置所内で行うこととなった。
泳斗は透道が入っている留置所の前にパイプ椅子を一脚置いた。
「さっそくだが、お前らが盗んだ盗品はどこに隠した?」
「…………」
透道は何も話す気はないのか無言で泳斗の顔をじっと見つめる。
顔には不気味な笑みが浮かんでいた。
「おい!!」
泳斗は痺れを切らし立ち上がり声を荒げる。
泳斗の座っていた椅子は、勢いで後ろに倒れる。
「…………」
しかし透道は何も答えず不敵に笑って見せた。
泳斗は深いため息をつき、頭をかきむしる。そして席を立った。
留置所を後にしようとする泳斗に透道がポツリと一言。
「……さようなら」
一方、速世の取り調べを担当していた土伊は、お得意の鬼の形相を使い、黒猫がいままで盗んできたお金や宝石などの在りかを聞き出すことができた。
そして取り調べした黒猫のメンバーを一旦、羽枦署地下の留置所に連れていった。
その間、火ヶ丸と羊谷は本部への報告書の作成をしていた。
土伊と泳斗が報告書作成はもうとっくに終わっているだろうと部屋に戻ってくると、そこにいたのは羊谷だけだった。
「あれ……火ヶ丸は?」
パソコンと向き合っていた羊谷は声の方向を向き唖然とした。
目の前にいたのは、鬼。
いや鬼の形相を見せる土伊の姿だった。
「…………知らないですねアハハ」
羊谷はその鬼に刺激を与えないように必死に作り笑いをする。
それを聞くと土伊は、あてがあるのか部屋を出ていった。
部屋を出て廊下にいた土伊は真っ直ぐ隣接しているカフェを見つめる。
マジックミラーとなっており向こうのカフェにいる火ヶ丸の方からこちらの様子は見えなかった。
しかし土伊の方からはしっかりと見えた。
火ヶ丸がマジックミラー側の席に座りコーヒーを飲み幸せそうな顔を向けている様子が。
土伊はマジックミラー越しに睨みをきかせた。
火ヶ丸は嫌な予感がしたのか背筋をピンと伸ばして静かにコーヒーを机に置いた。
そしてゆっくりと椅子を後ろに引き、席を立つ。
土伊は非常口からカフェ内へと入った。
それを見た火ヶ丸は怯えて机から転げ落ちた。
火ヶ丸はなす術なく土伊に引きずられ異能犯罪対策室へと戻ってきた。
戻ってくるなり泳斗は椅子から転げ落ち爆笑。羊谷はポカーンと口を丸く開けた。
その後、土伊監視のもと火ヶ丸は報告書作成を行い無事仕事が片付いた。
仕事が一旦落ち着いた異能犯罪対策課の4人のメンバーはコーヒーを傍らに置き部屋の机に座っていた。
……10分後。
「……よし。俺と泳斗は黒猫の盗品の回収だ」
そう言うと火ヶ丸は椅子を思いっきり引き、立ち上がった。
引いた椅子は火ヶ丸の後ろの壁に大きな音を立てて当たった。
「いまの無言の時間なんすか?」
ニヤニヤしながら言った泳斗は、今日は牛柄のアイマスクをつけていた。
「休憩したくてさ……」
火ヶ丸は疲れ果てた口調でそういい放つ。
「無言ではなかったわよ泳斗くん、あなたプププって笑ってたじゃない」
土伊はまたも的確な指摘をした。
「それに火ヶ丸さんあんた充分休憩してたでしょ」
土伊は強めの口調で言う。
「朝からバタバタでしたもんね」
羊谷は土伊をなだめるかのように割って入る。
「火ヶ丸と泳斗くんは盗品回収ですよね、私と羊ちゃんはどうすれば?」
すると土伊は隣に座る羊谷に席を寄せて肩を抱いた。
羊谷は顔を赤らめ困惑したような様子をみせた。
「ああ2人は拳堂くんの具合を見てきてくれ」
透道との戦闘で大怪我をした拳堂は、羽枦区立病院に搬送されていた。
「りょーかいです。いくわよ羊ちゃん」
「はい!!」
土伊は羊谷の両肩を後ろから掴み電車のようにガタンゴトンと左右に揺れながら部屋を出ていった。
「俺達もいくか泳斗」
火ヶ丸はそういうと座っている泳斗の肩をポンと叩く。
「ういっす」