死者への祈り。
土伊は警察官に先ほどの犯人の一人を引き渡し、火ヶ丸と入れ替わりに羊谷と合流し脇道へと来ていた。
羊谷は土伊の姿が近付いてくるなり、心配にしていたことを聞く。
「泳斗さんと拳堂さんで突入してるっていってましたけど、大丈夫ですかね?」
「私も心配なのよね」
土伊はそういうと不安そうな表情を見せた。
ちょうどその時、無線機から待ちに待った連絡が入ってきた。
「土伊 羊谷そこは警察に任せて、二人とも正面入り口に来てくれ」
左を見ると先ほど拳堂と話していた白髪の刑事 八村と若い刑事、それに制服警官がこちらを向いて立っている。
「ここは、わしらに任せてくれ」
「警察で大丈夫なの?」
「こんな細い道だ。これなら俺達でもなんとかできる」
八村は特殊部隊の敗戦に責任を感じているのか、先ほどの横柄な態度とは違っていた。
が、若い刑事の顔は納得がいかかないような顔を見せていた。
「じゃあ任せたわよろしくね。羊ちゃん行くわよ」
そう言うと土伊と羊谷は、八村達をあとに走って銀行へと向かった。
銀行の周辺にはパトカーが何台か停まっており、警察官が警戒態勢をとっていた。
駐車場入口に着くと警察官が警戒テープの前に立っており、二人はUCA手帳を見せ中に入る。
中に入ると火ヶ丸が銀行入口の横でしゃがんでいるのが見えた。
「おーおつかれ」
火ヶ丸の方も走ってくる土伊と羊谷に気付いたようで手を振る。
「どうですか状況は?」
火ヶ丸のその手に答えることなく火ヶ丸の横に同じ様にしゃがみ尋ねる。
「泳斗から交戦中と無線がきてから通信できなくなってる」
「泳斗の無線機が水で壊れたってことも考えられますけどね」
土伊は冷静に分析したことを火ヶ丸に話す。羊谷は泳斗の異能について知らないためポカーンとした顔をし、口と目を丸くさせる。
「まあそれもあるかもな……」
そのあと銀行内部の動きが分からないまま、しばらくの沈黙とともに時間は過ぎていく。
やがて一本の無線が入った。その主は泳斗だった。
「火ヶ丸さん。倒しました。至急、救急車の要請お願いします」
「ご苦労さん。倒したってよ。……羊谷、救急車の要請頼む」
火ヶ丸はそう言うと無線機を置き深いため息を吐いた。
「はい。分かりました」
「ダンくんもなかなかやるわね」
羊谷は携帯を出し119に電話。
その時だった、銀行入口から血まみれの制服を着た警察官が一人出てきた。
「大丈夫ですか!?」
土伊がその警察官に駆け寄ろうとすると、火ヶ丸が土伊の前に手を出しそれを静止。
「こいつから金と金属の匂いがプンプンする」
火ヶ丸の顔は人間と犬が混じったような顔に変化し犬の鼻がピクピクと動いていた。
その警察官の様子をよく見ると、左手にはボストンバッグを抱えている。
その警察官は火ヶ丸達が警戒しているのを悟ると、走って逃げようとした。
火ヶ丸はそれを見越して、腕を組みその警察官の目の前に仁王立ちをしていた。
「お前……鍵師だろ」
ニヤリと笑い、その警察官の顔を下から覗き込みながら言った。
「えっ……いやちが……」
慌てふためきながらその警察官は答える。
火ヶ丸はその警察官に近づき、右手をその警察官の頭の前に出す。
その警察官は怯えて、目をつぶったがすぐ目を開ける。
目線を上に上げると額に人差し指が当てられていたのが分かった。
「なにを……」
「お前から金の臭いと金属の臭いがプンプンすんだよ!!」
そう言うと火ヶ丸は、警察官の額にデコピンをした。
その威力は絶大で、警察官は後ろにバタンと倒れた。
倒れた警察官が持っていたボストンバッグから札束と黒い目出し帽が顔を見せた。
その時、またも無線機からの連絡が入った。
「火ヶ丸さん。金庫を開けていた鍵師がいないんですが……」
「あー、それならいま捕まえたところだ」
火ヶ丸が視線を向けた先では、土伊がその男に手錠をかけている最中だった。
それから4分ほどして救急車のサイレンが聞こえ救急車が銀行の駐車場にやって来た。
救急隊員はすぐに拳堂を救急車に運んた。
そして救急車は赤色点滅灯を点けサイレンを鳴らし、銀行の駐車場を出て病院へと走り去っていった。
そのあと火ヶ丸、土伊、羊谷は銀行内にいる黒猫の犯人達を銀行の駐車場へと連れてくる。
「さて黒猫の犯人どもも連れてきたことだし、署に連れてって事情聴取だ」
「じゃあ私、パーキングの車回してきます」
「とりあえずノーマルの二人も一緒に署に連れてくぞ。それでいいですか八村さん?」
火ヶ丸が振り返った先には八村刑事と若い刑事 新馬がいた。
「ああ……そっちが終わったらノーマルの二人は、こっちに引き渡してくれよな」
そして土伊が運転する車が駐車場についた。
「あの……この車5人乗りなんですけど」
数を数えると4人の犯人プラス土伊 羊谷 火ヶ丸 泳斗 の計8人。
「乗れないじゃーん」
すると火ヶ丸は上目遣いで、餌を求める子犬のような表情で八村刑事を凝視。
「……パトカー貸してやるよ……気持ちわりぃな」
間近に迫り上目遣いで火ヶ丸の視線を感じた八村は煙たがるようにシッシッと火ヶ丸を追い払いそう言った。
「アザーす!!」
そう言うと火ヶ丸は、いったん銀行入口前まで歩いていく。
そこで火ヶ丸は両手を目の前に合わせて目をつぶった。
「あいつなにしてるんだ?」
八村は不思議そうな顔をしながらポツリとこぼす。
「私たちも分からないですけど、お疲れ様って意味らしいですよ。あとは怪我をしてしまった人への祈り」
「さあ羊ちゃん私達もいくわよ」
八村は呆気に取られたような顔をしていた。
土伊は羊谷の肩を抱き銀行入口に立つ火ヶ丸の隣に並び、手を合わせ目を閉じる。
後に続いて泳斗も。
手を合わせ終えると火ヶ丸達、異能犯罪対策課のメンバーはそれぞれパトカーとUCAのワゴン車に乗り込み、銀行を後に羽枦署へと戻っていった。
「行っちゃいましたね」
新馬は八村の横まで歩いていくとそう言った。
「ああ」
八村はそう言うと歩いていく。
「どこいくんすか?」
八村は鼻を人差し指でこすり、年甲斐もなく顔を少し赤らめ言う。
「死なせちまった仲間に祈りに行くんだよ」
八村に続き新馬、他の警察官も続いて銀行入口まで行き仲間に祈りを捧げた。
『悪かったなみんな。』
この事件での警察官の死傷者数。14人。
UCAの死傷者数。1人。
一方車中では……。
「あのパーキング代。払って貰ってもいいですかね」
「……えっ?なにそれ?」
火ヶ丸は背中に冷や汗をかく。
「3000円もかかったんですけど」
そう言うと土伊は自分の財布をまじまじと見つめる。
「……」
火ヶ丸はゴクリと唾を飲み込む。
「払えよ」
土伊は鬼の形相を見せる。
隣で運転していた火ヶ丸は顔を見ることは出来なかったがとてつもない威圧感を感じた。
「…………経費出るかな……」
火ヶ丸はボソッとそう言い肩をすぼめた。