ウォーターハザード
「俺の音速に勝てると思ったのか」
速世はそう言うと、黒い目出し帽をとり床に放り捨てた。
顔を見せたのは、青いオールバックの髪形で後ろに髪を尖らせている男。
そして速世は、ズボンのポケットからサングラスを取りだしてかけた。
足には先が通路の蛍光灯で光り鋭く尖った靴を履いていた。
ビュンッという音が聞こえたと思うと速世は、泳斗の前から一瞬で消え、その場で壁 床 天井を一周するかのように音速の速さで駆け抜ける。
そのあまりにもの速さに泳斗の目には速世の姿が分身してるかのように見えた。
「一発で仕留めてやるよ」
速世のスピードはさらに早くなる。
泳斗の目に速世の残像が何度も横切っていく。それと同時に空気を切る音が耳に刺さる。
「スピードスター!!」
両脇の壁を何回もバウンドするかのように蹴っていく。速世の足は壁に着地する度に器用に足を曲げ壁から壁へとジャンプしていく。そして、その勢いを利用して泳斗に向かってくる。
「そんなくだらねぇ、アイマスクつけたままで勝てるほど甘くねぇーんだよ!!」
「おっと、やばす」
泳斗は咄嗟にしゃがんでかわそうとしたが、音速の速さに間に合うことはなく、泳斗は腹に尖った靴先の直撃を受け3mほど後方へと飛んでいき床に叩きつけられる。
「もう終わりかよクズが」
速世は着地したその場で高笑いした。
が、やがて速世のものとは別のところからフフフという笑い声が聞こえた。それは、次第に大きな笑い声となっていく。
「ん? なんだ」
速世はたったいま吹き飛ばした泳斗が口元から血を流しながらも起き上がり、口元を緩ませ笑っている姿を見た。
「気味悪りぃな頭打ったか? ……ん!?」
泳斗の体から、汗とは思えないほどの大量の水が流れ、床に大きな水溜まりを作っていた。その水は速世がいるところまで届こうとしていた。
「いってぇな、ちょいと間に合わなかったな」
泳斗はズボンのポケットからグローブを取り出す。その伸縮性に富む特殊な金属製のグローブには、手のひらの部分が丸く空いており、そこに円形の突起のようなものがカメラのレンズのように突き出ていた。
「ようやく、本気か?」
速世は泳斗の余裕じみた態度が気にくわないのか舌打ちを打った。
速世は追い討ちをかけようと、泳斗に再び向かって突進。
その勢いのままに今度は音速の早さで拳を突きだし胸から腹にかけて連打。しかし速世の拳は確かな感触を得ることは出来ずに、とらえたのは冷えた水で、ただただ拳が濡れていくだけだった。
それならばとナイフを取り出し切りつける。またも、切り裂いたのは水で、その水が自分の体に跳ねるだけで泳斗は微動だにせずに笑い、腕を組み仁王立ちしていた。
「俺は水になれる水男だ」
泳斗はそう言うとニヤッと笑みをこぼす。
その言葉に速世は驚いた顔を見せる、しかしすぐに平静を取り戻す。
「チッ……だったら水になれないほどの速さだ!! 特別にみせてやるよ!!」
速世はまたもスピードスターと同じ動作を始めた。しかし泳斗にはスピードスターのスピードの倍ほどの速さに感じられた。
「サウンドォォ!!……」
速世は顔を真っ赤にして足を踏ん張り力を込める。
「さようなら」
泳斗は足を開き、腰を落とし、グローブをはめた両手を前に突きだし、グローブの発射砲を開放する。
「ハイドロ……」
「スピードォォー!!!!」
速世はまるでロケットが向かってきたかのようなスピードで泳斗に突進した。
「コンボォォー!!」
泳斗はそれに対抗するかのように、グローブの発射砲から大量の水を発射。
その水は棍棒のように真っ直ぐ突き進み正面の速世に向かって進んでいく。
速世の突進は、最初こそ泳斗の手のひらから放たれる水の棍棒を砕いていたものの次第にスピードを失い、ついには水の棍棒を直接体に受けた。
速世は10mほど先へと飛ばされ気を失いその場に倒れる。
泳斗はすぐに駆け寄り、速世の腕に手錠をかけた。
そして仕事を終えた泳斗はポツリと一言。
「ふぅ~……。洗浄完了っと」