臨戦態勢
路地を出た泳斗と拳堂は銀行の駐車場入口を抜け静まり返った銀行の入口にたどり着く。
そして泳斗は無線機を右手に持ち発信ボタンを親指で押す。
「火ヶ丸さん。銀行入口着きました」
「泳斗 拳堂、突入しろ。気を付けろよ」
「拳堂、いくぞ」
「はい!!」
拳堂はそう言うと、かけていた眼鏡をとりケースにしまい腰につけていたベルトポーチしまう。
そしてUCAに合格したとき装備品届けとして出しておいたライダーゴーグル状の高機能ゴーグルと特注のグローブをつけた。
「準備OKです!早く泳斗さんも……」
「いや俺はもうOKだけど……」
泳斗はアイマスクをつけたまま飄々とした様子で言った。
「アイマスクつけたままなんですか?」
拳堂は本当に大丈夫なのかというように苦笑いをする。
「そうだ!! よしいくぞ」
いよいよ二人は銀行内に入る。
銀行内に足を一歩踏み入れると強烈な鉄の匂いが鼻に刺さる。血の匂いだ。
銀行内の様子は悲惨なものだった。元は綺麗であっただろう白い床は、血で赤く染まっている。
さらに特殊部隊の隊員や制服警官がそこらそこらに血を大量に流し、倒れていた。
倒れた一人の警察官から音が聞こえ、二人は耳を澄ます、すると警官の無線機から聞き覚えのある声が聞こえることに気づく。
その声の主は声を荒げる八村だった。
「どうした!! 応答しろ!! 状況は!?」
泳斗はその無線機をとる。そして無線機の相手向けて口を開いた。
「おっさん、あとはUCAに任せな」
「……」
すると八村はうんともすんとも言わなかった。
受付の奥に足を運ぶと黒い目出し帽の人物が一人撃たれ倒れていた。
泳斗はその人物の目出し帽をとると、素顔を見せたのは白髪の70代ぐらいのおじいちゃんだった。
意識はなかったが、まだかろうじて息があるようだ。
「こいつはノーマルだ。有名な鍵師だな」
泳斗はその顔をじっくりと眺めたあとに口を開いた。
「まだ奥に犯人いますかね?」
拳堂がそう言うと、突然、ヌルッという音とともに、土伊が銀行のタイルを一枚壊し地中から出てくる。
突然出てきた土伊に、二人は驚き後ずさりをした。
「まだ金庫の方にいるみたいよ。鍵師が死んで、金庫を開けるのにとまどってるみたい」
無線機から火ヶ丸からの連絡が入る。
「泳斗 拳堂は、そのまま黒猫を追え。土伊はまだ息のある警察官を保護、そしてその倒れてる鍵師の身柄を拘束し戻って、羊谷と待機だ。俺は正面入り口に待機する」
「二人だけで大丈夫ですかね?」
土伊は、心配そうに声を小さくさせながらそういった。
「大丈夫だ。泳斗がいるからな。それと万が一のために逃走経路をマークするためにはこっちにも人員が必要なんだ」
火ヶ丸は土伊の不安を振り払おうとするような強い口調でいった。
「頼んだぞ拳堂 泳斗」
拳堂と泳斗は鍵師に手錠をかけ、土伊に引き渡す。そして受付室のさらに奥へと進んでいく。
しばらく通路のゆくままに進み二人で手分けをして両側にあるドアを開き中を確認するが、どこも人はいなく侵入した気配もない、そのままどんどん進んでいくと、一つの曲がり角を迎える。
二人は警戒しながら曲がり角の先を覗く。そこには、大きな金庫があった。
金庫の前に犯人の一人が座り込み金庫を開けようとしていた。
そして両脇でそれを見守る二人。そしてもう一人はライフル銃片手に周囲を警戒。
「どうしますか泳斗さん」
気づかれないような小さな声で泳斗に訪ねる。
泳斗は少し考えた後にあるアイデアを導き出す。
「ちょっと俺にいい考えがある。犯人を減らそう」
泳斗はそう言うと、まだ息のある警察官から制服を借り、泳斗の異能の力を使い、水の分身を作った。そしてそれに血塗れの制服を着させた。
「作戦開始だ」
血まみれの制服を着た警官。その警官がその曲がり角のところで倒れた。
その音に気づいた犯人の四人組は、一斉に振り返る。
長身の男はライフル銃で警戒していた男に様子を見てくるように言う。
ライフル銃を装備した男は曲がり角に倒れた警官にゆっくりと一歩一歩近付いていく。
その男が曲がり角に倒れた警官の体をライフル銃の先でつつき様子をうかがった。
「問題ないです」
「了解。戻ってこい」
そう言うと長身の男は、金庫の方へ顔と姿勢を戻す。
ライフル銃を持った男も金庫の前に戻ろうと振り返る。
しかしその瞬間、その男の左腕が曲がり角の方に強く引っ張られた。
呆気に取られた男が見上げてみたのは、二人のUCAの制服を着た男。拳堂と泳斗だ。
そのあと男は、拳堂にドカンと一発の拳を浴びせられ気絶した。
その音に気づいた長身の男は、両脇で金庫を見ていたもう一人の小柄な男に指示を出す。指示を受けた男は振り返り、ものすごい速さで曲がり角まで到達。
その男と拳堂の目があった。
その男はニヤリと笑い長身の男へ報告する。
「透道!! UCAが二人もいるぜ!!」
「一人はお前に任せた速世」
長身の男はそう言うと拳堂達の居る曲がり角を凝視する。
「りょーかい」
「だそうだ、拳堂お前は、ここを頼んだ」
泳斗はそう言うと拳堂の肩に手を回しポンと一回肩を叩く。
「分かりました」
拳堂はこれから訪れるであろう困難への緊張を振り払うかのように大きな声でそう答える。
「よしチビちゃん相手してやるよ」
挑発するようにそう言うと泳斗は、もときた道を全速力で走る。
しかしすぐに速世の圧倒的なスピードで追い抜かれる。
それをあとに拳堂は、透道がいる金庫の方へと一歩一歩踏み出していった。