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お話ししよう!

作者: 雲雀 蓮




君は僕を見て少しだけ顔を綻ばせる。

その理由はきっと彼女が人見知りの気があるから。

顔見知りの僕を見た瞬間、ほっとするのだろう。



無防備すぎるその笑顔がこちらを向くたびにどれほど僕がよろこんでいるかなんて。

考えたこともないのだろう。


こっそりとした仕返しで頭を撫でてみたって彼女は少しむくれ面をするだけだ。








一つ下の後輩の彼女は、最初に会ったときはいつも無表情だった。

僕が部活の同期と話している間中、彼女は一人で部室の窓辺に座って本を読んでいた。

ある日僕が偶々一人きりになった時、ほんの気まぐれで声を掛けたのが初めての会話だった。




「ねぇ、何読んでるの?」

「・・・・」



無言で本の表紙を見せてくれた彼女は、依然として無表情。

会話が続かない、この気まずい状態がとてもつらい。

とりあえず一通りテンプレの会話を続けよう。



「それ面白い?」

「・・・まだ読み終わってないです」

「・・・ぁっと、おすすめの本とかってある?僕あんまり本読まないからさー」

「・・・特にないです」

「・・・」



取り付く島もない。

僕この子に嫌われてるのかなって思った心は重傷。

その時丁度、同期が部室に入ってきた。

これ幸いと僕はそっちに移動した。

僕の背中を見送ることもしない彼女を一瞥してから。





また別の日。

彼女はいつも通り、僕はまた一人ぼっちになった日。

まぁ多分またすぐみんな来るから、と思って彼女に近づいた。



「やぁ、こんにちは」

「・・・・こんにちは」

「えっと、元気?」

「・・・・・・・・まぁまぁ」

「そっか」



会話は相変わらず続かないけど、別によかった。

今日は一段と疲れがたまっていて、会話する体力がなかったから。

心もすり切れてしまっていて、誰かと接することにつかれていたから。


普段から人との会話はどこかの掲示板で見たようなテンプレばかり。

だから自分の言葉を忘れていってしまう。

会話の種類に幅がない、そう思われたくない。

でもそうするしか僕には方法がないのだ。



彼女の様に、塞ぎ籠っているなんて選択肢僕にはない。

一人はいやだ。誰かといつでも繋がっていたい。

どうしようもなく小さくてみじめで、しょうもない人間だってわかっている。

それが僕だ。





彼女が、僕よりも圧倒的に強い彼女が羨ましい。

僕にはできない事をやすやすとやってのける彼女が。






「あの、」

「・・・っえ」

「どうしたんですか?」



いつもと違って本を閉じた、不思議そうな表情をした彼女が問う。

ふいにかけられた言葉にびっくりして反応が遅れたのが悪かったのかもしれない。

首を傾げて僕の顔を覗き込む彼女が目の前にいた。



「え、あ。だ、大丈夫だよ、なんでもない」



その言葉を聞いて漸くいつもの体勢に戻ってくれた。

驚いた。

彼女の真っ白な顔が目と鼻の先にあったのだ。

真っ白っていっても単純に日焼けしてないだけだろうけれど。


いつもは無表情・無口な彼女が、今日は違った。

少しだけ自分から会話をしようと声を掛けてくれた。


それだけが僕の記憶に強く残った。








また別の日。

彼女に近づいてみた。

彼女は少しだけはにかんで本を閉じた。



「やぁ、こんにちは」

「こんにちは」

「元気?」

「まぁまぁ?」



彼女とのテンプレ会話はいつもこれから。

いつも自分の状態を返す時微妙な?をつけてくる。

「なんで」と訊けば単純に「なんで訊いてくるのかわからないから」と。

勿論語尾は丁寧語だった。

彼女はあまり敬語は得意じゃないと言っていたが、懸命に使おうと努力しているようだった。

たまに敬語がぶっ飛んで、まるで友人に話しかけるようになった時の焦りがすごい。

いつもの無表情なんて嘘みたいに思えるほどだった。



彼女はどうやら人見知りをしていたようだ、と気づいたのは2週間ほど。

そこから先はとても好意的で、笑顔な彼女が僕と話をしてくれていたのだ。


最初の近づき辛さがまるで嘘の様で、今はにっこり笑顔で迎えてくれる。





最近は彼女の無防備さが露わになってきた。

暑い日はぼんやりしていたり、髪の毛で顔前面がおおわれるように机に突っ伏していたり。

まるで目の前に僕という男性がいるのが理解できていないかのようにふるまうのだ。

安全な奴だと思われているのは別に構いやしない。

でも、少しだけ自分の行動を理解する必要があるんじゃないかな?



僕にだけ笑顔を振りまいたり、

僕にだけ優しい気配りをしたり、

僕にだけ向けるその穏やかな両目もね、勘違いされちゃうから。



まるで僕のことを好きだとでも言わんばかりのその態度。

いくら僕がそう言う気がなくたって、勘違いしてしまうんだよ。

きっと直接そう言わなければ君は気づかないのだろうけれど。



少しだけ心のひねくれた僕が問う。

「僕のこと、好き?」



そう言うと彼女はにっこり笑って言うのだ。







「はい、大好きですよ?」








当たり前だけど他意はない。

それがとても、嬉しく思ってしまう馬鹿な僕がつられて笑った。




「君に会って漸く、僕自身の言葉を思いだした」なんて。

そう言ったら彼女はなんて返すのだろう。


僕のテンプレが対応できないような返しをする、彼女は。






なんて考えて僕は今日も彼女の頭を優しく撫でた。











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