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*5 見たことのない

 あれからコンビニに行って酒やおつまみやお菓子なんかを買って(代金は僕持ちで)、自宅で二人で飲んだ。


二人きりで飲むのは、久しぶりだったと思う。


 空が白み始めた頃、ようやく寝ようという話になって、ベッドは彼女に明け渡し、僕はソファで寝た。




 目覚ましはほとんどセットしない。


なんとなく、毎朝7時くらいには目が覚める。


それでも心配な時はセットするけど。


「……あ~、今何時だ?」


 目が覚めて、壁の時計を見上げると7時を少し過ぎたところ。


体内時計は酔っていても健在のようだ。


 ベッドの方を見ると彼女はまだご就寝中のようだ。


そりゃ、あれだけ飲めばな。


昨日買って来た酒類はほとんど彼女が飲んだようだ。

 

「……シャワー浴びて来るか」

 

 彼女の目が覚めるまではまだしばらくかかるだろう。

 

 今日は大学の研究室に顔を出す予定だったが、この調子だと午後になりそうだ。


 幸いトイレと風呂は別なので気兼ねなく頭から熱めのシャワーを浴びる。


 しかし、自分は臆病だなと自嘲する。


好きな女に嫌われたくなくていい人を演じてる自分に嫌気がさす。


一晩一緒の部屋にいても何も出来ないし、それに乗じようとも思わない。


それはこれから先も変わらないだろう。


もし彼女が誰かを好きになるとしても。


彼女の事を好きだという誰かが現れたとしても。


多分、僕は変わらない。


表面上は平静を装って、また彼女にとっていい人を演じる。

 

そして、そんなことを考えてる僕に気付きもしない彼女はかなり鈍感だ。


でも、それでいい。


 水の音で目が覚めた。


携帯を見ると8時を少し過ぎたところ。


思ったよりも寝ていないけど気分は悪くない。


 辺りを見回してしばらくしてここが市田の部屋だと気付いた。


昨日の夜にここへ来て、二人で酒を飲んで泊まったことは覚えていたが、夜にしか来たことのない部屋は朝日の元ではだいぶ雰囲気が違う。


 ソファを見やると畳んだタオルケットだけが置いてあり、家人はすでに起床していたことを示している。


 顔、洗わなくちゃ。


 洗面道具のポーチを片手に洗面所へ向かった。 そろそろ染めなおさなくちゃなぁ。


 伸びて来た髪を見てそう思いながら、ヘアバンドで顔に掛からないようにする。


 持ってきた歯ブラシに歯磨き粉を付けて咥えた。


ガラッ


「……あ」


 すぐ脇のバスルームのドアが開いて、市田が顔を覗かせた。


濡れた髪からポタポタと雫が落ちる。


「……悪い。そこの棚からバスタオル取って」


「これ? はい」


 バスルームのドアから伸びた手にタオルを渡す。


「うん。さんきゅ」


 なんとなく気まずくて無言になる。


気まずいと感じたのは私だけかもしれないけど。


 あんまり意識してなかったけど男の子なんだなぁ。


ちらっと見えた首筋や鎖骨にそう思った。

 

「……まだしばらく寝てるかなって思ってた」


 沈黙を破るようにドア越しに話しかけて来る。


「うん。なんか目ぇ覚めたから」


「そっか」


 再びドアが開いて下だけ履いて頭からバスタオルを被った市田が出て来た。


前言撤回。


胸板うすーい。あばら浮いてそう。私より細いんじゃ?


「……何じろじろと」


 じろじろ観察されているのに気付いて、市田が訝しげに聞いて来る。


「いや、なぁんも。あ、眼鏡」


「普段はコンタクトだから」


「知らなかった~。眼鏡似合うじゃん」


「そう? あ、シャワー使うんならどうぞ。ドライヤーも洗面所にあるから」


 普段とちょっと違う市田にドキドキしている私を余所に、市田はごく普通に平然としていた。


「あ、うん。ありがと」


「じゃ」


 私は洗面所に取り残された。

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