*1 真夜中の電話
充電器の上に置いていた携帯電話が鳴った。
それまでPCのキーボードを叩いていた手を止め、携帯を手に取る。
“着信 佐伯奈津”
ひとつ溜息を吐いて、電話に出る。
「……──はい?」
「あ、市田?」
ちょっと酔っているような、テンションの高い彼女の声がした。
「うん。どうかした?」
時刻は夜中の12時を少し過ぎた所。
明日は日曜だから、今まで飲みにでも行っていたのだろうか。
「今から市田の部屋に行ってもいい? ダメならいいんだけど」
「は? ……今から?」
「うん。ダメならいいよ。真っ直ぐ帰るから」
「いや……、構わないけど……」
こんな夜中に? まぁ、困りはしないけど……。
こんな風に、彼女は時々僕の部屋を訪れる。
本当なら、男の一人暮らしの部屋に女性が一人で訪れるなんて……とは思うが。
結局の所、僕は安全パイと思われているのだろう。
勿論、何かをするつもりもない。
「どこにいる? 迎えに行こうか?」
「ううん。今、タクシーを拾うから。そうだなぁ……、10分くらいで着くと思う」
車通りの多い場所らしく、携帯の向こうから車の走る音が聞こえる。
タクシーを拾うくらいなら自宅に帰る方が早いんじゃないか?
「わかった。待ってる」
携帯を充電器の上に戻し、PCに展開したままだったデータを保存する作業を始めた。