5月6日(1):ハイテンション
次からたぶん毎週金曜日18時更新です。……そうできたらいいな!
PvP――プレイヤー対プレイヤー。
〈エルダー・テイル〉はプレイヤーとモンスターの戦闘がメインであるが、闘技場のような、プレイヤー同士の対戦をするコンテンツも存在した。
彼らは、それが好きで集まったプレイヤーたちだった。
ごく小さなギルド――時に団員同士で戦い、時にタッグを組んで出場し、――時に道すがらの冒険者を狩る。
まっとうな楽しみ方をしているかと言われれば、否だ。
各々、メインキャラを別に持っている。
だが、〈ノウアスフィアの開墾〉が適用されるとき――六人は六人とも、サブキャラでログインした。
「新しい冒険に行くってことで準備万端で出発するやつ多そうだよな」
「それを狩ればおいしいよな」
――そんな会話が、あったせいだろうか。
それとも、他人に対する優位性を実感できるためだろうか。
……かくして彼らは、後に〈大災害〉と呼ばれるモノに巻き込まれる。
万遍なく、例外なく。状況は等しく襲い来る。
そんな中、
「せっかくだしさ、外行ってみようぜ!」
提案。
メンバーの一人が、さっそく復活した武士の少年を目撃したのも一因だっただろう。
他五人も同意し、外へと出る。
雑魚を倒し、遠出し、キャンプを張り、料理の美味しくなさに辟易しつつも、急速に自信を深めていく。
適性があったのだろう。
彼らは一日でレベル三〇程度のモンスターには対応できるようになっていた。
ゲーム時代のコンビネーションの再確認。
現実に動く、超人的な身体。
スキルの確認も、モンスターの確認も行い――そして、一人で道を行く少女を見つけたのだ。
適性があったためだろう。
彼らは一晩で慢心していた。
モンスターと戦うことは楽しかった。
レベルにして六〇近い差があるモンスターたちとの戦いは、それこそゲームのようだった。
そして成果と呼べるものもあった。それはアイテムだったり、金貨だったりしたが、暴力で何かを得ることは簡単だと、認識してしまったのだ。
「なあ、そこの姉ちゃん」
――声をかける。
狐尾族、巫女服の少女は振り返る――切れ長の視線も鋭き、美少女だった。
振り返ったその勢いで、さらしに押し込められた豊かな乳房が、ばるんと揺れた。
「……うは、」
ここはまばらに林のある草原――アキバの街から三〇キロほどは離れた場所。
こんなピンポイントに遠出している者がいるかと言えば、残念ながらほとんど存在しえないだろう。
そして彼らは、倫理規定が働いていないことを、着替えと排便の時に知っていた。
「俺たちと……楽しいことしようぜぇ……」
期待に胸と股間を膨らませ、彼らは武器を抜いた。
●
「クククククク……ハハハハハハハ!!」
朝。
曙光を浴びながら高笑いをする。
馬車の上。高さにしておおよそ三メートルの位置だ。
超テンション上がる。上がってる。準備で徹夜したせいだろうか。
「……さあ、車輪の歌を奏でろ、おもちゃ箱……!」
キャッシュで一発デカい買い物。
〈車輪の歌を奏でるトイ・ボックス〉――四輪駆動で移動能力強化。さらに車軸を浮かせることによって揺れを低減し常に水平を保つ機能。
〈魔法の鞄〉系列の中では最大級の積載能力。重量軽減、容積削減も当然のように兼ね備え、見た目よりも中は広い。
豪華さを謳うように、中にはリビングがあり応接間があり風呂トイレも完備である。さらにちょっとした工房もあるし調理場もある。
外観も当然のごとく優美。それでいて華美なわけではない。
この性能で、必要な馬はなんと二頭。標準的な馬車と同じなのである。
過剰にもほどがあると言わば言え、これこそが最高級だと言わんばかりの充実具合。
そう、これはほぼ唯一の、馬車の〈秘法級〉アイテム――しめて金貨四〇〇〇〇枚である。
「アイタタタタ……」
眼下。ジャンケンで負け、御者台に座ることになったシャルが、……なんか言った。
額を抑えてなんかやってるが病気だろうか。
脳の病気だと、モトが同じ俺も病気になるかもしれない。気をつけねば。
アバターは違うので、肉体依存の病気はならんかもしれないが。
馬車の窓からひょっこりと顔を出したズンダが、心配そうな笑みを浮かべた。
「笑ってるところ悪いケド、昨日一日で準備、本当に終わったのかイ? 奇妙丸?」
「勿論だ、水も食糧も積んだ。ルートも思い出したし、馬車の方も完璧だ!」
「オーケー、オーケー……よくこんなの持ってたネ?」
「ククク……買った!!!」
「ワォ! 剛毅!」
ともあれ、空は晴天。
絶好の、出発日和である。
二頭の馬――〈力強き双子馬の笛〉で呼び出した、馬車などの荷物を引く際にボーナスが入る馬たち――は、力強く馬車を引く。
こちらも購入は即金、それを四つ――二十四時間戦える個数である。しめて金貨六〇〇〇枚。
「ククク……初期投資は怠らない! それが金稼ぎへの道!」
「かけすぎじゃねーかな……っつーか、降りろよ。落ちて死ぬぞ?」
「あ、おう」
よいしょ、と屋根から降りる。
別に。
今の身体ならば、この高度から落ちても大して痛くないだろうが、意識というのはそんなすぱっと変わるもんでもないのである。
ほとんど音のしない、まったく振動しない馬車の進みは早い。
この分なら、御者の尻も痛くならないだろう。
シャルの隣に座ると、御者台までふっわふわのふっかふかだった。
朝日は上り、だんだんと気温が上がっていく。
すこし暑くなりそうだな、と思ったところで、シャルが上に手を伸ばす――がこん、と引き出すのは、ボンネット……というのだろうか、雨避けだ。
それで日差しはわずかに遮られ、上半身に対する直射日光はなくなった。自然に溢れ、遺跡のようにリアルの面影を残す風景が、ゆっくりと流れていく。
……心地よい。わずかな揺れが眠気すら誘ってくる。
目を閉じると、車輪の歌が聞こえてくる。
上げたテンションを少し鎮める。
一日くらいの徹夜なら平気だが、それでも、ここから先は何があるか分からない。すこし、休んでおくべきだろう――俺は、この身体の限界すら知らないのだ。
……そも。
俺たちはレベル九〇とは言え、レベル九〇のエネミーと戦えるかと言えば、きっと否、なのだ。
確かに、兎くらいなら苦も無く倒せる。
熊やイノシシくらいならたぶん余裕だ。
だがそれがドラゴンや悪魔とかになったらどうだろうか――目的地近辺はそれなりに高レベルなゾーンが点在しているし、それが、ゲーム時代は安全だったゾーンに存在しない保証はあるのか。
死なないことを知ったのは帰った後だった。
一昨日、世界の変異その当日に出たのは、正直言って、市場の点を差っ引いても、失敗だったように思う。
この世界は、変わってしまった。
こうして柔らかい椅子に座って心地よい振動に身を任せて眠ろうとすることなんて、できなかった。
この世界は、リアルになってしまった。
不安がある。
何があるか分からない――なんてのは、トートロジーに近くすらある。
ただ、それ以上に、わくわくする。
新しいものを見に行く。
未知だ。しかもそれで金を稼げるかと思うと、わくわくしてたまらない。
「……寝るのか? ……ったく、人が女の身体で苦労してるっつーのに……我ながら、のんきなやつだな、まったく」
シャルの声が聞こえてくる。
「……ああ。すまん……」
「謝られたってどーしようもねーっつの、トイレとかよぉ……男の夢とか言いはすれど、正直なってみりゃ困ることだらけだ」
おう、そうか、と頷こうとして、それすらも曖昧だった。
ふ、とシャルは一息を吐き、言った。
「……おやすみ」
頷く。
交代したくなったら起こしてくれ、と。言葉にできたかどうか――俺は、この世界に来て初めて、睡眠を取った。
●
「……おい、起きろ」
……声がする。
体が揺られる。
不愉快だった。
手をふるう。
受け止められた。
「おい、起きろっ」
腕を掴まれたままがこんがこん振られる。
仕方ないので目を覚ますと、銀髪碧眼褐色肌の美女がいた。
……なんでだ。
と思ったところで、ウィンドゥが表示された。
……シャル=ロック。
「…………ああ。そうか……そうだった…………」
俺は〈エルダー・テイル〉の世界に入ってしまったんだったか。
思い出してきた――寝起きの脳が起動してきた。
頭を振って、なんとか眠気を追い払う。
時刻は……正午、といった頃合いか。
昼飯か、と一瞬思うが、それにしてはシャルの顔がシリアスだ。
「あー……なんだよ?」
「戦闘……っぽいネ」
上から声。
ズンダが、屋根に上っているようだ。
「戦闘……?」
だからなんだ、と思う。
〈霊峰フジ〉――その麓、〈フジ樹海〉までの道のりには、高くともレベル三〇程度のモンスターしか出現しないはずだ。
レベル三〇以下のキャラクターがここまで足を延ばすこともまだないだろうし、高レベルプレイヤーなら――
「……いや、なに、ピンチなのか?」
「うん、ピンチみたいだヨ」
よ、とズンダが屋根から飛び降りる。
……ゲーム時代の感覚でものを言っていたが、レベル九〇だろうが、このあたりまで足を延ばしてしまうと、戦闘に慣れていなければ大変かもしれない。
基本的に、横殴り――獲物の横取りは推奨されないが、そういう事情なら介入もやぶさかではない。
俺たちも慣れていないが、ゴリ押しでどうにかできるはずだ。
「よし、行こう。助けがいるかは、聞けばいい」
「オーケー、馬車は置いていこう」
「うん、了解」
鞄から二本の杖を取り出す。
シャルも同様に杖を。
ズンダは両手に盾――正確に言えば片方は盾付きの剣、もう片方は打突杭付きの盾。
俺たちも御者台から飛び降り、ズンダの先導に従い歩き出す。
「もし助けがいるようなら、ズンダが前で頼む」
「勿論」
「で、状況は?」
「ああ、――PKだヨ」
●
「……うわぁ、なんかすげえのいるぞ……」
そこでは、戦闘が行われていた。
狐耳、狐の尾をもった巫女服の爆乳少女――VS、五人の男。
一対五。
普通に考えて勝てるはずがない。
だが、優位に立っているのは狐巫女少女の方だ。
今も見る先で、
「ふッ!」
巫女少女は、二本の指を立てた突きで、最前列に立つPK――〈守護戦士〉の目をえぐりに行く。
「いぃっ……!?」
それをなんとか回避する守護戦士だが、バランスを崩した身体を、狐巫女少女は体当たりで押し倒す。
肘を構えてそのまま倒れこめば、全体重を肘にかけた突き落としとなる。
「ぶっ……!?」
衝撃でか、守護戦士がくぐもった悲鳴を上げる。
ダメージとしては、そう強くもない。
何故ならば。狐巫女少女は無手――何も持っていないのである。
追撃に入ろうとした狐巫女少女は、乳をばるんと揺らしながら、飛び退った。
〈妖術師〉が、炎の矢を放ったためだ。
続けて詠唱に入る妖術師を見て、狐巫女少女は舌打ち。
守護戦士と交代するように前に出てきた〈サムライ〉と相対する。
サムライを壁にするような位置取りが素晴らしい。
「くそっ、なんだこいつっ!?」
サムライは叫び、スキルを発動する。
「〈猿叫〉!」
きええええい、と叫ぶサムライ――タウントだ。
挑発特技を受けてか否か、狐巫女少女はサムライをターゲットに据えたようだ。
顔の横で刀を構えたサムライは、少女に飛びかかり、
「〈兜割り〉!」
サムライとしての第一手を打ち下ろす。
少女は半歩右にずれた。すると刀は空振りした。
ただそれだけの結果であったが、同時に不可思議な現象が発動した。
「〈無影脚〉」
瞬速の蹴り脚が、サムライの股間を襲う。
無影脚は、カウンター特技だ。
攻撃を回避した時、一定確率で発動。レベルが低い相手には即死判定もあるが、MPはきっちり使うし足も止まる。
逃げたいときには不便なスキルだ。
だが、少女は逃げる気などまったくないようだった――ごちょっ、と、湿ったような、音。
「……ひ」
サムライは刀を落とし、股間を抑えて白目をむいた。
膝が落ちる、泡をふく。
PKたちが股間を抑える。俺たち三人も股間を抑えた。ひゅんってした。
「…………」
サムライのHPはまだまだ残っている。目測で九十五パーセント。
だが、スタンしているようだ。……あれをスタンと言っていいのかは置いておくが。
それを少女は見下ろし、つい、と視線を切って、
「次」
と、平坦な声で言った。
「こっ……の! 調子に、乗りやがって!」
復活した守護戦士が、再度突っ込んでいく。
今度は援護付きだ――その横に〈盗剣士〉。さらに背後には、妖術師が火球を浮かべている。
「〈ファイア・ボール〉!」
十二発の火弾が、弧を描く軌道で少女に向かう。
「……む」
一発を回避。
二、三、四、と回避して、五発目がヒット――障壁が展開され、弾くも、六、七、八と来て、九発目で割れた。
十発目以降は、前に出ることで回避。
――そう、無影脚に対する違和感とは、これだ。
少女の職業は、俗に言う巫女――〈神祇官〉である。
回復職の一つ。ダメージを遮断するバリア、を張る能力を持っている。
決して、格闘技を――〈武闘家〉の特技を扱う職業ではないのだ。
「狐尾族の種族特性か……?」
狐尾族には、特技の入れ替えが起きる場合がある。
不便だったり、思いもよらない隠し玉ができたりするものだが、この場合は後者だろうか。
炎を巻いたまま、少女は右拳を握りこむ。
守護戦士はそれに反応したが、避けず、叫び、
「ぬぅりゃっ!」
ごっ、と鈍い音。
拳を額で受けたのが、見えた。
「くっ……!?」
拳を痛めたのか、少女の表情が歪む。
守護戦士も痛そうな顔をしているし、一瞬止まったが、それでも大した影響ではなかったらしい。
双方の硬直。そのはざまを狙い、盗剣士が走る。
レイピア一刀流――ごく常識的なフェンサーらしき男は、スキルを発動する。
「〈ブラッディ・ピアシング〉!」
回避率を下げる、足への刺突。
少女は痛めた拳で払うも、刃が肌に触れ、出血する。
「チッ、〈トリッキーエッジ〉ッ!」
「……ふっ!」
変速軌道の突きを、少女は受けた。
負傷した右拳。それを貫かせ、振り回したのだ。
「おおっ……!?」
盗剣士の体が崩れる。
同時に少女は踏み込み、守護戦士の一刀を、盗剣士の体の陰に隠れることで回避。
そのまま盗剣士を一本背負いで投げ飛ばし、跳躍。
「せっ!」
飛び蹴りは首狙い。
リアルでやれば確実に死ぬ一撃だ。また、回避も不可能だっただろう。
だが、
「うおっ!?」
投げ飛ばされた盗剣士は、その蹴足を回避した。
投げ飛ばされた衝撃で動けなくなるようなこともなく、だ。
少女が目を見開く。
ステップし距離を取ろうとしたところで、再度火球が飛んでくる。
「〈禊の障壁〉!」
今度の火球は一つ――その分威力が高かったためか、障壁は一撃で損なわれ、少女のHPにわずかにダメージが入る。
……少女の切れ長の目が細まった。
同時、眉の位置は変わらぬまま、口端だけがくっ、と上がる。
酷薄な笑みだった。
妖術師に向け、歩き出す。
「待てコラぁ!」
荒っぽい言葉を伴いながら。
守護戦士と盗剣士が、左右同時に少女を襲う。
少女は慌てず騒がず、守護戦士の懐に先に入る。
そして足を上げ、その胸鎧にひっかけ、
「〈飛龍脚〉」
守護戦士の身が、発射台となる。
蹴り脚の向かう先は、反対側の盗剣士だ。
「うおっ!?」
スキルを発動しようとしていた盗剣士が、慌てて防御する。
草鞋の蹴り脚を腕で受け、大きく跳ね飛ばされ、
「おぐがっ!」
反動で跳ねた少女に、狙いすましたかのように、踏みつぶされた。
……またも、〈武闘家〉のスキルだ。
運がいいのやら悪いのやら――リアルでも格闘技の類をやってたと思しき動きを見れば、運がよかった、と言うべきだろうか。
ゲーム時代はさぞ微妙な性能のアバターだったことだろう。
ともあれ。
これも、常人だったら死んでいる――と思う間もなく、今度こその、首へのストンピング。
「ぐおっ……ぐあぶっ!」
HPは、やはりそれほど減っていない。
だが、それ以上に、恐怖が、PK達に蔓延していた。
目突き。肘打ち、金的。首踏みつけ。
それをする少女には笑みが浮かんですらいる。
「こ、この――どけよっ!」
守護戦士が大きく剣を振る。
少女はかがんでそれを避け、
「〈無影脚〉」
コサックダンスじみた動きで、守護戦士の、踏み込んだ膝を蹴る。
本来曲る角度から、きっかり九十度角度をつけた蹴りだ。
「ぐあっ!?」
たたらを踏んだ守護戦士。倒れこんでくるそれを跳んで回避し、トンボを切って少女は降り立つ。
そして目を見開き、
「んっ、〈早九字〉っ」
詠唱――そして指での九字切り。
盾状の障壁が展開され、飛んできた火球を弾く。
少女の笑みは消えない。
右手からの出血は止まらず、巫女服はわずかに焦げ目を残しているというのにだ。
「……すげえなあアレ」
「格闘技でもやってたのか……? でも不利だぜ、突っ込むか?」
「そうだネ、ありゃ数の大小じゃないでショウ、どーみても悪役だヨ、アレ。助けに行こう」
「ウフフ、でも頑張ってる女の子って素敵じゃない? どうしても、って場面まで、待たない? あの娘も、今をエンジョイしてるみたいよ?」
「まあ確かにすげえ楽しそうだが……」
うん、と一息。
三人で振り返る。
するとそこには痴女がいた。
ウェーブのかかった茶髪は肩のあたりまで。
猫のように吊り上がった目、悪戯っぽい大きな青い瞳。
リップのひかれた唇には笑みが乗る。
目鼻立ちのくっきりした美女だ。そこはいい。
問題は首から下。
スタイルのいい女性だ。
筋肉があることが一目でわかる。そしてその上に、柔らかな脂肪を一層。
しなやかな、猫のような体であり、同時に非常に抱き心地のよさそうな―― 一言で言えば、実に魅惑的な身体というか、エロい体をしている。
そして巨乳だ――狐巫女な少女もデカいが、こちらもランクで言えば爆に入るだろう。谷間は深く、男を誘うようだ。
へそもいい。腹筋が腰を引き締め、縦長のそれが刻まれて、その上下にあるモノを意識させてやまない。
……それが分かるのは、その衣服のためだ。
チョーカー。ブレスレット。アンクレット。サンダル。髪の合間からわずかにイヤリングも見える。
そして黒い下着。すっけすけのレースが実にエロティック。
――以上である。以上であった。
「誰だあんた」
「ウフーフ、誰でもいいじゃな――って、あら?」
半裸の痴女が、表情を驚きのそれに変える。
「くっ……!」
位置取りを変えた少女が、いつの間にか目を覚ましたサムライに足を掴まれていた。
少女は腕を頭を肩をストンピングするが、サムライは手を離さない。
「てめぇ……ゆるっさねえぞ! ぶっ殺してやらぁ!!!」
サムライの顔が、わずかに見える。
よだれと涙の跡を残す、壮絶な怒りの顔だ。
「やってくれッ!」
叫びと同時、何かが夕日を遮った。
それは広場を高く跳ぶ人影。
弓矢を構えた――〈暗殺者〉だった。
「六人PTだったのかっ……!?」
シャルが焦りをにじませて言う。
少女の厄介さは、理解しているのだろう――暗殺者は、弓を引き絞る。
そして放たれるのは、暗殺者最強の一撃だ。
「――〈アサシネイト〉」
「っ!」
少女の反応は、見事だった。
脚を掴まれ動けない――避けきれないと悟り、身をのけぞらせはじめたのだ。
幸いというべきか、矢はほぼ真上から放たれた。
のけぞれば直撃だけは避けうる――と、思ったのだろう。
そう、確かに直撃は避けた。
代わりに、巫女服の前面が裂けた。
谷間の前を通って、一直線に、縦に。
「……あ」
少女は、二秒硬直した。それから、股を閉じ、胸を抑え、しゃがみ込み、ぷるぷる震えだした。
そして、俺たちの背後、
「ウフフ、ウフ! ウフフフフ! ウフーフ!」
半裸の痴女が、派手に笑い出した。
隠れていた茂みから立ち上がり、かき分けて、PK達に近寄っていく。
「いけない、いけないわ! それはいけないわッ!」
半裸の痴女は、胸の谷間に指を突っ込むと、――ずるり、と長物を取り出した。
「ひどいじゃあない、女の子のオパーイをさらけ出させるなんて! お嫁に行けなくなっちゃうじゃないの! ウフーフ! でも大丈夫、アナタたちが消えれば万事解決よね! お嫁に行けなくなりそうなこと知ってる人がいなくなればいいんだものね!」
長物は、真っ赤な大斧だ。
どう考えても入るはずのない場所に、とんでもないモノが入っていた。
「私はクレスケンス――〈裸族〉のクレスケンスよ、ウフ、ウフフフフ!」
半裸の痴女は大斧をぶんぶん振り回し、笑い、叫んだ。
「――PKさんたち! 精根尽きるまで付き合ってあげるわ! ウフーフ!」
おかしな女の乱入で、PKたちの表情が……微妙なものになる。
なんだアレ、と、六人全員が考えていそうだ。
そんなものは関係ない、とばかりに、半裸の痴女が走る。
――速い。
狼牙族の全力疾走並みか、と考えた瞬間には、横振りの大斧が守護戦士の盾にぶち当たっていた。
守護戦士は耐え、半分泣きそうになりながら叫んだ。
「なんだお前ぇっ!?」
「ウフフフ! フフフッ! 〈アーマーブレイク〉っ!」
半裸の痴女は、笑いながら逆回転。
鎧と大斧の間に火花が散り、ごっきん、と音が響く。
エフェクトが発生し、鎧にひびが入るのが見えた。
「うおおっ!?」
「ウフーフ!」
体勢を崩した守護戦士に、半裸の痴女が追撃を加えんとする。
だが、
「〈ライトニングショット〉ッ!」
「〈ストライクアームズ〉ッ!」
暗殺者と盗剣士が、同時に大斧を狙った。
さしもの重量武器――両手持ちの大斧と言えど、振り上げた瞬間を同時に狙われては対抗できない。
弾かれ、半裸の痴女の体勢が泳いだ。
……仕方ない。
「〈パルスブリッド〉」
二連射。
左右の杖から出た光弾は、追撃しようとしていたPKたちの眼前をよぎり、詠唱していた妖術師にヒットする。
「ぐわっ!?」
叫び、詠唱を途切れさせる妖術師。
PKたちの視線が、こちらを向く。
「まだいやがったのかッ……!」
「フォーメーション組みなおせっ、やるぞっ!」
「応よッ!」
茂みをかき分け、三人で出る。
「……ほっとけねえよなあ」
シャルは言った。
「まあ……そうだな」
俺たちは――『俺』は、迷った。
金にならない。
狐巫女も半裸の痴女も、どっちもどう考えてもヤバい人間だ。
だが、
「死なねえからってさ――ちょっと、こういうの、腹立つよなあ、おい!」
二挺の杖を構える。
「――〈キャストオンビート〉!」
そうして、俺たちは、この世界に来て初めての本格的な戦闘を開始する。
→5/6(2)
●〈車輪の歌を奏でるトイ・ボックス〉
〈秘法級〉の、最高級の馬車。
〈秘法級〉は譲渡不可属性がついていることも多いのだが、馬車を使わないプレイヤーも多い(交易など〈妖精の輪〉を使わないプレイをしない限りは必要ない)ため、譲渡可能。
〈魔法の鞄〉と同じようにストレージに容積以上のものを入れることが可能で、積載量も最高級。
移動速度も強化され、悪路耐性もあり、ちょっとした工房や調理所があり、フレーバー的なものながら応接間なども兼ね備える。当然頑丈でもある。
これでいて必要な馬は二頭(一頭でも引けるが引けるが速度ペナルティがある)。
まさしく最高級――なのだが、過剰性能であるため、維持費のこともあって、デザイン面以外ではあまり人気はない。