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〈BKK〉  作者: Neo_Nue/鵺野新鷹
第二章:外面と外見
23/23

5月23日:Go Back

私の辞書に、安定投稿とかそういう言葉はないらしいですごめんなさい!


『で、どうだよそっちは』

「オッケー。あと、ナギサ釣れたし連れて帰るわ」

『ちょっと意味わからんぞ』

「いや、ほっといたら詐欺にあいそうでなー」

『釣れたのあたり説明しろよTS患者』

「長くなるぞ」

『そうか。嘘だな?』

「嘘だ」

『――よかったな、射程外だ』

「その負け惜しみやめねぇか、俺」

『お前がくだらねぇコト言うからだろが。あ?』

「ええー? 沸点低すぎなぁ~い?」


 煽ると念話が切れた。我ながら心の狭い奴である。こっちからの報告も途中だったってのに。

 ……まあ、こっちとしちゃあ、大したこともない。

 ナギサを拾ったのが一番の収穫、後のことに関してはまたおいおい。

 経緯についても特別なことはなし。

 拾ったって事実だけ伝えておけば特段の問題はないだろう――


「シャルさん」

「ッとぅぇええええい!?」


 いきなり背後から声。

 噂をすれば影ってやつか――振り返ってみれば、ナギサが果実を抱えて立っている。


「貰ってきました」


 そう言って、彼女は果実を――トマトっぽいそれを差し出してくる。

 ……トマトって果実だっけ、まあいいや。

 別に、貰ってきてくれって指示を出したわけじゃない。

 となると、


「くれるのか?」

「はい」


 確認すると、ナギサはゆっくりと頷いた。

 そういう事ならありがたく。

 瑞々しいそれにかぶりついて、一息。


「……そういえばだけどさ。良かったのか? 山籠もりしばらくできない約束だが」

「はい。身体の慣らしは、ひとまず終えましたから」


 慣らしねえ、と思う。

 〈大災害〉が起きたその時から、俺の身体は俺の身体だったと言うか、特別の違和感なく動かせていた。

 わずかなズレはあったような気がしないでもないが、『気がしないでもない』ってレベルだ。

 変わってしまったって自覚はあったが――男から女に変化したが、身体のサイズそのものはそう変化していなかったのが大きいのだろうか。

 まあ胸部前面とか、臀部後方に重量物というか、まあ、脂肪がついたな! と言う感じではあるが。

 あるいは、ナギサにとっては、ズレが大きかったのかもしれない。

 確か、前に温泉に入った時、体格はともかく体型は違う、みたいなことを言っていたし。

 ああでも、それを言ったら俺も骨格からして違うのか。

 我ながらちょっと不思議。もしかしたら、一生発覚することはなかったはずの才能だったのかもしれない。VRゲームとか強かったのかもしれない。

 現状、これ以上ないってくらいVRゲームなわけだが。


「次は実地で」


 ふーむ、とうなる俺にそう言って、ナギサは踵を返した。

 すたすた去っていく彼女を見送りながら、思考を巻き戻す。


「実地ねえ……」


 彼女を誘ったのは、ちょっとした布石というか。

 話は単純。敵が来るから護衛してくれ、報酬は桃と人を殴っていい大義名分――って話だ。

 ナギサは話を聞く前に即答で快諾をくれたが、結果としてWin-Winの話にはなったと思う。

 なぜって、あのとおり――視線の先では、狐の尾がふりふり揺れているからである。

 機嫌、すげぇ良さそう。

 朗報だ。控えめに言ってアレは狂犬の類だが、猟犬にして噛む先を限定できるなら悪くない。

 そして、朗報と言えば、もう一つ。

 目的にしていた薬草があったことだ。




 ●




「すまん、今回は外れだと思う。詳しく見てもらわないと分からないが」


 昨日の晩。

 そう言って、狐の姐さん――相も変わらず喪女一直線な外面のままだ――に採取してきた薬草を渡す。

 目的以外の薬草も薬草だ。薬を作る材料くらいにはなる。

 どじゃばーっ、と今回の成果物を机の上にぶちまければ、草のにおいがすごいことになる。

 一番多いのは、やはり雑草。

 ちょっと考えていた可能性としては、このあたりの雑草の中に、俺たちが特殊なアイテムと認識していないだけで、実は――ってのが混じっていること、だったが。


「うむ、そうさな……」


 姐さんはざんざかと、それなりに大きな壺に草をぶち込んでいく。

 後できちんと見るのだろう――と、思っていたところで、姐さんの手がとまった。


「あ」


 草の山の中。

 もうすでに動かない、〈走っていた松茸〉が埋もれていた。


「っと、すまん、変なの混じって――」

「こやつだ!!!」

「えっ」

「そう、こやつよ……こやつになんらかの加工を加えたものが、あの薬のはず」

「えっと……。〈走り松茸(マツタコニド)〉……に?」

「まつたこにど、と言うのか。こやつは」


 ――ここでちょっとハイライト、一昨日の会話。

 『母がたまたま見つけた薬草を捕まえて』。

 捕まえて――なんて、言ってたっけ。

 〈走り松茸〉は〈オクタマ山林〉の固有種でもあるし。

 ここから歩きじゃ遠いが、行っていけない距離でもないし。

 現代の、ホモ・サピエンス基準で言えば遠いし過酷だが、レベルが三十程度もあれば大地人でも十分歩いていける場所だ。


「キノコって言ってくれたら楽だったんだけど?」

「……言っておらなんだか?」

「そうだね」


 隣、こっちは几帳面に束にして鞄から草を出していたアムバが言う。


「ともあれ、当たりがあったならいいことだね。それで、今から加工を?」

「そうさなあ……今からやってもよいが、ちと数が足らんな」

「あーと、どんな加工をしたんだったかは分からないんだったか?」


 色々試すのか、と含みを持たせれば、狐の姐さんは頷いて、


「すべてが一日二日でできるものでもないが、並行してできるものもある。もう少し数が欲しい」

「いかほど?」

「所詮は試しよ。他の薬草も干すなりせねばならん。今すぐはいらんが、……一週間後にまた、十匹分ほどさな」

「分かった。ひとまずはこれで、ということかな?」

「うむ。助かった」

「どーいたしまして、っと。それじゃあ、ひとまず一週間後に、また、かね」


 予想外に早く用事が済んでしまった。

 時間が空いたなら、一度<アキバ>に戻るのもいいだろう。

 顔をアムバに向け、


「戻るのか?」

「ああ。……次は、外に出られる人を誘って収集に行こうかなと思うよ。一人では効率も悪いしね」

「そうだな」


 ……実際に作れたとして、その影響力は計り知れない。

 <ロデリック商会>が覇権すら握りうる一手となるだろう。

 あるいは、俺たちが――否、正確に言えば、奇妙丸がやってるメシについての策よりも効果が高いかもしれない。


「じゃ、ひとまずは解散か。俺は俺で用事があるもんでね」


 視線をナギサに向けると、なにか。とでも言いたげに首を傾げられた。護衛だ護衛。

 ……ここで解散を口にするあたり、友達ができないんだろうな、と自己分析する。

 帰る流れであるなら、一緒に帰ればいいものを、と。


「分かったよ。君は君で事情があるんだね」

「ああ。……ただ、ポーションは欲しい。協力させろ」

「なんて押し売りだ。……ああ、試作品ができたら、真っ先に君たちに渡すよ」

「いや、できれば完成品が欲しいんだがなあ」


 笑みを含んだ声で、アムバは言う。

 同じく笑みを含みながら言い、どーですその辺、と姐さんに視線で問えば、姐さんは肩をすくめた。


「用が済んだなら帰るがよい。邪魔者故な」


 それほど邪見にでもなく、姐さんは言う。


「へいへい。それじゃあ、また。……行くか、ナギサ」

「はい」


 話に入ろうともせず、控えていたナギサを伴って、外に出る。

 俺たちを追うように、アムバも外へと出てきた。

 真っ白なマッスルが目に毒だ。気色悪い系の意味で。


「それじゃ、ちょっと食料品買い込んでから出るから……そうだな」


 空を見上げれば、昼まではもう少しかかる――というところ。

 このあたりまで足を伸ばしている〈冒険者〉も少ないだろうし、在庫はある程度だぶついているはずだ。交渉に難航する要因はない、と判断。


「正午くらいかな、ここに集合だ」

「分かりました」


 頷いて、とことことナギサは歩いていく。

 ……いや、あいつも独立独歩なやつである。

 ひとまずその辺の農家の人に声をかけようか、と思ったところで。

 背後から、アムバの声が上がった。


「ところで」


 ところでだよ、と、アムバは言う。


「……なんだよ?」

「ああ、設定とか、仮定の話さ」


 両腕を開き、アムバは語る。


「レシピとして卸せたならば、それはつまり、再現性があるはずだね」

「……まあ、そうだな。レシピっていうシステム――ある種の魔法と解釈できるが、それをそうしたらこうなる、ってのはあるはずだよな」

「うんうん。……最初は、レシピから作られていないということだよね」

「…………そうだな」


 姐さんは、一日二日かかるものもある――と言っていた。

 レシピ生産ならば、十秒程度で完成するのだ。

 逆説的に言えば、彼女は今から、レシピに寄らない生産をする、と言うことになる。


「もしもそれが作れたなら、僕らの方でも作れるかどうか試したいと思う」


 アムバは言う。

 熱を込めた声で、愉快そうに。


「……何かがそこにあるのかもしれない」


 その言葉は。

 一片の疑問すらも、感じさせなかった。











→5/24

●〈従者召還:鋼竜鳥ワイバーンバード〉

 〈召喚術師〉の特技・幻獣召喚。

 鋼の翼をもつ大型の鳥。ブラックバードより更に大型。二人乗り可。

 基本スペックが高く(特に防御、速度)、風属性のブレスを吐くことも可能。

 スペックのわりにコストが安いのだが、半分くらい竜であるためか、習得度が低いうちは命令に従わないことがある。

 ただし、本体性能については習得した段階で奥伝段階とほぼ同じスペック。

  手っ取り早く飛べる肉壁としては最初から使える。

 主な攻撃は突進と風ブレス。投擲武器に対するバリアを張ることもできるが、魔法防御はやや低く、風雷系以外の属性耐性も脆い。

 シャル=ロックの直接攻撃用飛行乗騎。

 鳥目ではない(=夜間の性能低下が起こらない)ので、ブラックバードを使えないときはこちらを使う。

 メスで、プライドが激烈に高く、かなりツンデレ気質。ただしちょろい。

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