5月8日(2):イン・樹海
来週の分は、投稿時点では未定です。なるべく金曜日。
――PTとしてバランスが悪い。
シャル、ズンダ、クレスケンス、ナギサ、ヒカズ。
俺以外の全員が物理型。
シャルは機動力とナイトメアなどで多少の魔法。回復も可能だ。ただし可能と言うだけで魔法攻撃も回復も弱く、更に言えば本体火力と魔法火力と回復は同時に発揮できない。
ズンダはカバーリング、クレスケンスは半ば不死身。
ナギサは障壁を使えて近接戦での回避能力が高く、ヒカズはカウンター型防御が可能で、瞬間火力は随一。
俺はバフと魔法攻撃が可能――お互い、大雑把には把握していたことだ。
だが、話し合ったことで、互いを認識しあった。
主張があり、譲り合いがあり、認めあったのである。
「不満そうね、ナギサちゃん?」
「……そうでもないです」
表情はなかったが、自分の拳でなんとか(隠語)したいと思っていたのだろう――ついっ、と視線をそらすナギサがいたり、
「あれ、奇妙丸、君のサブ職って――うん、設定できるネ、これで俺も本領発揮できるヨ」
「え、そうなのか? すまん、条件詳しく知らなくってなあ……金稼ぎの役にはたたないもんで」
「マイナーなサブ職だからネ……」
ズンダが遠い目をしたり。
「MP管理の件にござるが、ぶっちゃけ一任しとうござる。気にせず斬りとうござるよ」
「ふざけんなボケ」
ヒカズが(やっぱり)トリガーハッピーならぬブレードハッピーであることが判明し、シャルがヒカズを張り倒したりしたが。
そして、それを考慮した陣形は――
●
「「うおおおおお!?」」
二人で悲鳴をあげつつ逃げる。
〈漆黒大烏〉も、ア゛ー、と必死だ。
二人乗り。当然、速度は落ちるが、とにかくまばらな木々の間を抜ける。
瞠目すべきは、俺の手綱捌きか、ブラックバードの小回りか。
追ってきているのは、四足歩行の巨大な竜。木々をバキバキ折りながら、猛烈な速度で地を踏み鳴らしている。
――〈グローリーヘイズ高原〉のレアエネミー、レベル七十対応・PTランクの強敵、〈地竜〉である。
「〈グローリーヘイズ〉のだろこいつうう!?」
「知るかボケ飛ばせとばせェ! カスる! カスる! 〈ブレインバイス〉ぅうううう!」
ぎゃいのぎゃいの騒ぎつつ、〈パルスブリッド〉だけでなく、〈ブレインバイス〉――ヘイトもダメージもMP消費も多い、遠距離攻撃対策魔法――や、〈ソーンバインドホステージ〉なども連射する、と言うより、ヘイトを稼ぐ合間に〈パルスブリッド〉を撃っている。
いくら〈パルスブリッド〉の使い勝手がいいと言っても、これだけ撃てばヘイトもたまる。
そして、ブラックバード。
こいつは、『世界一後方に強い飛行生物』と呼ばれている。
〈ヤマト〉、〈アキバ〉近郊のゾーン――現実で言う東京都中心部に(大量に)存在する小カラス、〈夜鳥〉を大量に倒すとポップする〈漆黒大烏〉を倒すことで契約できるものだ。
最大の特徴は、攻撃方法が二つしかないこと、そしてその片方が非常に強力なことである。
「ブラックバード!」
林の中の一瞬の直線。
そこに入ったと同時、シャルが叫び、応じて、ブラックバードが大きく羽ばたいた。
黒い羽根が抜け落ち、木々や地面、そして〈地竜〉に着弾する。
――攻撃方法の一つは体当たり、こちらは最低限、と言うか大きさに比して妙に弱い。
こいつの本領は、後方に対する攻撃――『羽根爆雷』と呼ばれるもので、抜け落ちた羽根が爆雷のような判定を持ち、移動後にそれが降り注ぐ。
判定は強いし、ダメージも大きい。
後方にばら撒くので逃げながら攻撃ができ、滞空するので持続も長く、数も多い。
それでいて消費は普通――スペックデータにも、『強い』としか書いてない。
難点はと言えば、後方への攻撃である点と、味方にも当たるのでばら撒きすぎると邪魔な点くらいか。
〈地竜〉は、体表、鱗を羽根爆雷で吹き飛ばされながらも、俺たちを、俺たちだけを見て突進してくる。
ダメージを、数多く、大量に与えているのもあるし、紙装甲だし、ヘイトはほぼ俺たちに固定されてしまっている。
普通であれば、〈付与術師〉と〈召喚術師〉がヘイトを稼ぐなんて、悪手以外の何者でもないが。
視界の端に映る俺たちのステータスウィンドウには、いくつかのバフが表示されている。
移動力強化や、魔法攻撃力増強――そして、ヘイト上昇効果、だ。
今回のこれは、意図的である。
六人中、もっとも遠距離攻撃力に優れるのが俺であり、もっとも機動力に優れるのがシャルである。
これが一手目、俺とシャルのタッグで釣りだし、カイティング。
爪がブラックバードの尾羽を何本か巻き込んだ辺りで、位置に入った。
左右の藪から、人影が二つ飛び出す。
やっとか、と胸をなでおろしつつ、シャルの腰――うわ、改めて抱きつくと細ぇ――に腕を絡め、急制動、後の急上昇に耐える。
「行くでござるよ!」
「ウフフ了解っ!」
細かい打撃で苛立つ〈地竜〉は、足元の二人のことに気づかない。
上昇に入った獲物二人と一羽に夢中だ。
叫びですら足音にかき消されるほどの巨体だ。
その足は、周囲の大自然、その木々よりも太い。
「居合・〈一陣〉」
「ウフフフフ、〈クロススラッシュ〉!」
二手目――太い左右の脚を、二人が切り裂く。
刀が銀閃の後に血を引き、二連の大斧が大木を伐採するようにぶち込まれる。
〈地竜〉は怯み、たじろぎ、しかし殺意を持って反撃――その野太い尻尾を振るった。
振る先は半裸、高速で大木が来るような打撃に、
「んがっ!」
そして三手目の一、ズンダがカバーに入った。
体重差も速度差もあるが、そこはそれ、剣と魔法の世界、である。
左手の剣盾は光のエフェクトをまとい、右手の盾剣はただ武骨なまま、装甲靴は地を削って、止めた。
「ウフーフ、フ、フ! いい位置だわっ!」
その後ろ、大斧をぶんぶん縦回転、飛び上がった半裸が、斧ごと縦回転しながら、その技名を叫ぶ。
「んんん~っ、〈デモリッション〉!」
遠心力とエフェクトを伴った大斧は、〈地竜〉の尾へと降り下ろされ、鱗を破り肉を裂き骨を砕いて、地面まで到達――勢いで地が割れ、尻尾が血をぶちまけながら飛んでいく。
今度こそ、〈地竜〉は苦鳴をあげた。
そして、こちらも忘れるなとばかりに、反対側、ヒカズと、遅れて飛び出したナギサの和風タッグが前足に張り付いた。
尻尾を振るために、傷ついた前足には体重がかかり血が吹き出しているが、二人は容赦なく行く。
「〈虎響拳〉」
「居合・〈達磨落とし〉」
三手目の二、挟み撃ち――ナギサの貫手が僅かに先に入る、というよりは、ヒカズが遅らせたのか。
傷口に指先から肘までぶちこまれ、血が吹き出る中、肉の内奥で微細振動。
その衝撃は対象内部で跳ね回り、足を――砕きかけたところで、六筋の銀閃が走った。
〈達磨落とし〉。本来は回転攻撃のはずだが、今のはほぼ同時、瞬間の横薙ぎ六連撃であった。
砕かれかけていた骨が肉と鱗ごと寸断、前足を失った〈地竜〉は尻尾の喪失と合わせて盛大にバランスを崩し、地に倒れ付し、
「!」
それでも、〈地竜〉は戦う。
上顎をかち上げるように開き、土石流のようなブレスを俺たちの方向に向けて吐き出した。
それを見たシャルは、手綱を引いてブラックバードに意思を伝達。
「行くぜっ!」
ブラックバードはア゛ー!と鳴き、翼を開いて上昇の速度を消し大旋回、急降下に入る。
空へと打ち出される土砂が、ブラックバードの翼端をカスる。
バレルロール。
ぐいんぐいん揺られてムチ打ちになりそうなところであるが、とにかく、いいところに来た。
首いてえ、と思いつつも杖を構え、ブレスの撃ち終わりにパルスブリッドを――
「手綱任せたっ」
――撃とう、と思っていたら、なんか変なことを言って、シャルが飛び降りた。
「は、はあああああ!?」
車のハンドルじゃあるまいし、アホかてめぇああ俺か、と思ったのは、掴んでからである。
シャルはといえば、鞍から跳んで、空中にて宙返り――リアルじゃできないアクロバット。〈輝ける魔道の杖〉を振りかぶり一気に急降下している。
ええい、と片手の杖を構え、援護の覚悟を決める。クソだな俺。
「〈パルスブリッド〉!」
連射。
光弾が、再度ブレスを放とうとしていた〈地竜〉の口の中に飛び込んでいき、そして、
「――さあ。魔道を表せっ、〈輝ける魔道の杖〉!」
光刃が巨大化する。
大身の刀身を持つ薙刀と化した〈輝ける魔道の杖〉は、落下と振り降ろしの速度を加算して技を発する。
「――〈輝ける魔昇気〉!」
爆裂。
ゼロ距離でぶちまけられた光刃と波動が、〈地竜〉の眉間を割り開いた。
反動でか、シャルは跳ね上がり、くるくると回転、こちらに向かってくる。
見る先。〈地竜〉の頭部からは血が溢れ、立ち上がろうとしても立ち上がれず――虹色の泡に還っていく。
「――っしゃあ!」
ブラックバードに再度飛び乗ってきたシャルが、見栄を張り叫んだ。
討伐完了――いやさ。俺を踏んづけているクソの討伐開始である。
「ふざっけんなテメェコルァアアアアアアア!!!」
「あああ!? キレてんじゃねえようぜええええええ! ばああああああああか!!!」
●
――陣形は、『三人PT』として考えたものだ。
一、攻撃役にヒカズと半裸。
二、防御役にズンダとナギサ。
三、支援に俺とシャル。
主に俺とシャルが先行。俺たちがヘイトを稼ぎカイティング、引っ掻き回してヒカズと半裸が攻撃――反撃があればズンダとナギサが防御に入る。
なまじ六人PTとして動こうとしたのがいけなかったのだ。
役割を明確に分担することで、各人の迷いがなくなり、動きがよくなり、殲滅速度が上昇した。
長いことやってきたPTなら何とかなったかもしれないが、即席にそんなコンビネーションは望めない。
ワリを食うのはナギサだが、ヒカズが散らした敵をいい感じに殴れるポジションということで納得はしてくれた。
元々タイマン嗜好が強そうなやつである。暴れられればなんでもいいってわけでもないだろうに。
半裸とズンダがセットなのは、HPで耐える半裸は、障壁とは相性が悪いためだ。ナギサとヒカズの移動速度がほぼ合う、という理由もあるが。
「いててて……」
で、大休止。
〈地竜〉なんてもんが出たんで、それについての話し合いついでの晩飯休憩だ。
周囲の木々はまばら。
〈霊峰フジ〉麓の、ちょっとした広場である。
ゲーム時代であれば敵がたまっていた場所だったのかもしれない。
……明日はフジに昇る。
一日、戦闘をこなしつつ歩いても平気なのは行幸だったが、限界を試すのはまだいい。
そろそろ〈黄泉平坂〉からゾンビがあふれ出す時間でもある。
ここで無理して、わざわざ弱い面を敵に見せることはない。
強い点を押し付けてやれば、それで勝てるのだ――できるかどうかはさておくとして。やるのだ。
で、強い点を押し付けられたのが俺になります。
「大丈夫です……の?」
ナギサが妙な語尾で言ってきた。
頷きつつ、思う。
血は止まったが、あの野郎、いいパンチであった。
そう、あいつの強い点とはこれだ。――特技として回復できるのが、あいつのユニコーンだけなのである。
最近はアップデートがあるってことで様々なアイテムの値段が高騰していたこともあり、アイテムもそれほど用意できていない。
回復薬をちびちび飲みつつ、シャルを眺める。
普段使いにもしているんで、大事にもしているし、ユニコーンのほうも応えているように見える。
今も笑顔で、そのたてがみに櫛を通している。
「大丈夫だ、HPは回復してってるし……殴った回数は俺のほうが多いし」
「でもダメージは、奇妙丸さんの方が大きかった……どす。あのまま続けていれば負けてたと思うます」
「……そこまで不自然になるんだったら別にいーぞ」
「はい。ゆっくり慣れさせてもらいます」
「ウィ。……どうだ、ナギサ。ポジション的に」
「……案外、悪くないです。私は、どちらかと言えば、防御の方が得手なので。見極めてから殴りにいけるのは、とても楽でいいです」
あれでかあ、とマウントを思い出すが、マウントってのはあれで高度な格闘技術である。
下から、肩も腰も地面に押し付けられての打撃なんて通じるはずもない。
馬乗り、とも言われる子供の喧嘩のアレであるが、しかし、脱出はきわめて難しいとか。
防御してアレに持ち込んで殴り倒す。……なるほど。合っているかは分からないが納得はできた。
実際、マウントポジションが有名になった頃は、ヒカズくらいの、格闘家としては小柄で細い人たちが、ゴリラなのか人間なのか分からんようなヘビー級を次々と倒していたらしいし。
とは言え、それが通じるのは人型タイプのみだ。戦闘手段がリアルのそれに近い分、さっきの〈地竜〉みたいなのの相手はキツいのだろう。
「先に殴りたくなったら、言ってくだされば、対応するでござるよ。拙者たちの方は、交替可能でござるし」
「そうだな、ワリ食ってるの、ナギサだけだしな」
ズンダと半裸のタッグは、半裸のHP回復が面倒だからダメージを受けすぎないようにしろってことである。
素の移動力、回避能力は〈裸族〉のパッシブ効果でトップ。
また、ズンダも護衛については慣れているため、半裸はこれまでのところ戦闘中の吸血でHP回復をすべて賄っている。
そのかわり、状態異常にはかなり弱い。
やはり装備が限られるのは問題だ。午前だけで何回麻痺と毒をくらっていたか分からない。属性耐性も基本紙だ。
今のところズンダがガードしてくれているが、事故った時は面倒そうではある。
普通の〈守護戦士〉じゃいけなかったのかね、と思うが、ナギサの殴りあい主義と同じく――そして俺のスプリンクラーと同じく、突っ込みはしない。
どうやっても回らないならともかくとして、今のところうまく回っているのである。
問題はこれから――脱出系洞窟ダンジョン、〈黄泉平坂〉内だ。
当然通路は狭い――よって、まずシャルの機動力が弱る。
地底用の召喚生物はいるが、さて、このリアル化環境でどこまで維持できるものか。ゲームなら壁を擦りつつ方向転換とかできたものだが、今は不可能だろう。
かわりに、ヘイトを取る能力の低いヒカズと半裸が前衛として仕事をしやすくなるし、ズンダも盾として矢面に出やすいはずだ。
「……敵の種類にもよるが、洞窟内ではナギサが一番後ろかね」
彼女が言うところの『気配』は、〈ディテクト〉系魔法の初期段階くらいの範囲をカバーしているようだし。本当に人間か。
……その前にヒカズ、中は俺とシャル、ズンダがトップで二番に半裸……が、ベストだろうか。
「はい。分かりました」
「まあ、奇妙丸殿に一任するでござるよ。純後衛であるゆえ、指揮は任せた方がようござる」
押し付けてねーかこいつ……ら。
ポジション的に向いているのは俺だが、できるのは少なくとももう一人、シャルがいる。
なんせ俺である。
うむ、と頷いていると、火の準備を終えたらしいズンダと半裸が歩いてきた。
手にあるのは果実とパンと、皮袋だ。
「おーイ、リンゴ汁と桃汁とどっちがいいかネー?」
「「俺桃ー」」
聞き付けたクソとかぶった。
「「あ゛?」」
「またファイナルバウトする気かイ? ご飯前は止めておこうヨ」
「飯っつってもなあ、飯……」
「文句言わないノ」
「へいへい……」
そしてズンダが、
「とりあえず、桃は二人だけだネ?」
と言って、皮袋に桃を詰めて、
「〈シールドバッシュ〉」
ずごん、と木に叩きつけて押し潰した。
そしてズンダは袋から潰れた桃を取りだし、慎重にパンの上にのせた。
――今朝のこと。
俺たちは発見したのである。
食感はもそっとしているが、パンなら果汁を吸うし、サンドイッチ的な何かにはできることを――!
同様に、塩とかも一応振れることも確認済みである。だからどうした、だが。
「汁吸っても食感変わらねえとか奇跡の食材だよな……」
「言うな」
「個人的にはリンゴでござるな、次点でミカン」
「桃は手がベタベタになるのよね」
「俺は何でもいいかナ」
「私もです」
六人ではもはもパンを食い、飲料アイテムで手と袋を洗って、さて、と一息。
「……夜営だが」
「いるかナ?」
いきなり否定しやがって――まあ、
「いるだろ、攻撃されて目ぇ覚ましたら〈地竜〉がこんばんはとか失神する自信がある」
「あとは一応泥棒対策とかもかね、いねえだろうけど」
これからはこういう世界になるだろうし――なんてシャルのフォローに、皆が頷く。
「ふむ、確かに……道理でござるな」
「んで、だが。今から夜明けまで大雑把に十二時間。二人づつ、四時間交替で行こうかと思うんだが」
「寝る時間になってからでいいんじゃないかしら? 大体十時くらいから、かしら」
「確かに、今からやることないな……」
頷くと、半裸が言葉を続けた。
「なんにせよ、キツいのは真ん中……そこ当番は寝不足になりそうね、公平にくじ引きでもする? フフ」
「だな、そうするか」
なにかいいのはあったか、と思いつつ鞄の中を見る――と、ズンダが、
「いいのあったヨ」
ずるっ、とナイフを六本取り出した。
鞘に収まった投擲用ナイフだが、
「属性別二本づつだヨ。見た目じゃ分からない手抜きアイテム」
おおー、と俺とシャルが同時に拍手し、
「「――オラア!」」
拳を打ち合わせた。
拍手から全く同じモーションなのがすげえ腹立つ。
「テメエ顔面狙いかよ自殺志願かコラ」
「テメエもじゃねえかコラ、死なすぞ? 死なすぞ?」
「上等だ決着着けるかクソ虫」
「オーケーデッドエンド見せてやるよ」
打ち合わせた拳を引くと同時、逆手の拳をボディに、
「はいストップだヨー」
入れようとしたところで、ズンダが両盾を挟んできた。
拳ががいんと音をたてる。超いてえ。
見ればシャルも痛がっている、ルッキンざまあである。
「……仲悪いのでござるか?」
「同族嫌悪っぽいネ」
「ふうむ」
「ま、引いた引いた、組分けするヨ」
ズンダは、俺とシャルの間にナイフの群れを出してくる。
近い方から手に取れば、衝突は起きない。
ナイフを鞘から引き抜けば、ひやりとした感触が手に来た。
シャルは――炎系らしい、よし。
最後に残った一本を、ズンダが自ら引き抜いて、組分けが確定する。
俺とナギサ、シャルと半裸、ヒカズとズンダ、だ。
「あとは組分けだが――」
「ジャンケンポンよしお前ら後出しな勝った!」
「おい日本語版翻訳機能インストールしろよ。……はん、クレスケンス」
「ウフーフ。恨みっこなしね――じゃん、けん?」
と、半裸が振りかぶりつつズンダとヒカズに目を向け――ヒカズが前に出た。
「拙者が。拙者の眼、特別製にござる」
「ウフ? そう? じゃあ行くわ、じゃん、けん」
ぽんっ、と、パーを出す。
半裸がチョキ、ヒカズがパーだ。
ん、と、ナギサが反応するのが見えた。
「ぬあ。……最初か?」
「いえ、最後にさせてもらうわ。夜更かし厳禁、よ」
「ああ、そうか――じゃん、けん」
頷き、向き直りながら拳を振りかぶる。
「「ぽんっ」」
俺はチョキ、ヒカズはパーである。
「「特別製にござる(笑)」」
下がった馬鹿と声が被った。
今度は杖を構えた。
向こうも構えているのでお相子である。しかももう光刃を展開していた。
「負けたからって暴力に走るのかァ~? ――最低だなお前」
俺ってこんな表情できるんだ! と、新鮮な驚きが胸を襲う。
殺意を固めようとしたところで、今度は半裸が割って入った。
体の方向は俺。シャルを背にかばうように、俺をさえぎるように、だ。
「ウフ、煽らないの。奇妙丸クンも、我慢ね?」
「ケッ。……まあ、悪いが最初にさせてもらう」
「了解にござる。……申し訳ない、ズンダ殿。敗北にござる」
「いいヨいいヨ」
笑顔で手を降るズンダ。
自由枠だったら、ズンダは自分から半ばに行きそうな気配があった。
ともあれ。
「よし、じゃあこの組分けで準備するか。テントと、警戒と、薪集めかな」
「ウフフ、じゃあ、私たちが警戒に回ろうかしらね。シャルちゃんのカラスさんにも乗ってみたいし?」
「いや、そろそろ夜だからナイトメア使うぞ、ブラックバードは鳥目なんだ」
「ウフ、それは残念」
「っつかお前素で馬並みに早いだろ」
「やだ、馬並みなんてひわいっ……!」
「おい誰か鏡用意しろ、全身用な」
「では、拙者らは……キャンプでござるな!」
「……まあ、いいけどよ」
少年の心を忘れていないサムライマンと、ズンダにテント周りを任せる。
実際、〈ディテクト〉と気配察知、この二つがある俺たちが行くのが、面倒がない。
「遊び心出すのはいいが、遊びじゃあないぞ」
「無論理解してござる……が、人生楽しんだもの勝ちにござるよ。本気であるなら、問題はのうござる」
「……おう」
早まったかなー、とか思いつつ、ナギサに視線を向ける。
ナギサは頷き、鞄から鉈に近い短刀を取り出した。
「行きます」
「おう、はい。行きましょう」
連れだって、二人で歩く。
明日は〈霊峰フジ〉――そして〈黄泉平坂〉に入る。
地下にいくらいるかは分からないが、
「……気を滅入らせてても仕方ないのは確かだな」
「です」
さくさく歩くナギサも、頷いた。
では、まずは。
この薪集めも、楽しんでいくことにしよう。
→5/9(1)
●〈幻灯の鎧〉
クレスケンスの〈秘宝級〉のアクセサリ/全身鎧。
チョーカー、ブレスレット、アンクレットからなる。
ダメージを受ける際にのみ、幻影の鎧が出現する。
本来〈秘宝級〉が――そして、全身鎧とアクセサリが持つべき能力・補正・効果を、すべてHP補正にぶちこんだ逸品。
耐性、防御力、特殊効果は、ない。……ない。
当然というか、その分HP補正は非常に高い。やばし。
また、全身鎧扱いながら露出度が極めて高いため、実用と紳士的外見の両立に使われることもある。
ただし、およそ全ての装備部位を潰すため制限も多い。
その他、(本来なら)きわめてどうでもよく、特殊効果として扱っていいかも微妙な利点だが、〈裸族〉の効果発揮条件を阻害しない。
●〈森羅万象の意を借る衣〉
とある作品とコラボレーションした〈製作級〉装備。
露出の多い改造巫女服。
女〈神祇官〉、つまりは巫女専用の装備であり、レベル10から始まり20ごとに強化できる。
10.30.50の段階ではごく普通の、入手難度に比べて高性能な装備。障壁を強化する能力がある。
……しかし、70からは性能(と見た目)が大幅に変化し、『回復特技が〈武道家〉の攻撃特技と入れ替わる』という能力を得る。
コラボレーションの、原作再現だからこその大規模改編であり、物理系巫女の福音……と思いきや、〈神祇官〉は小手やナックルを装備できないという致命的な問題があるため火力がさっぱり出ない(当然ナギサも火力が出ていない)。
ステータス強化も半端で、総じて言えば『独特ではあるがとっても微妙』な装備である。
ちなみに、サラシと褌が見える。
●〈従者召喚:漆黒大烏〉
〈召喚術師〉の特技・幻獣召喚。
『世界一後方に強い』と謳われる鳥型召喚生物。
体長三メートル、翼長は六メートルをこえるカラス。
〈ヤマト〉、〈アキバ〉近郊のゾーン――現実で言う東京都中心部に(大量に)存在する小カラス、〈夜烏〉を大量に倒すとポップする〈漆黒大烏〉を倒すことで契約できる。
高速で飛行しながら、通り抜けざまに強力な攻撃を繰り返す難敵である。
従者としては、飛行可能・騎乗可能、移動速度も早めで、術者以外に追加で一人乗せることができる。
〈大災害〉後は、三人以上もかろうじて乗れるようになったが、速度が落ちたりする。
最大の特徴は、『攻撃方法が二つしかないこと』、そしてそれが非常に強力なことである。
一つは体当たり、こちらは最低限、と言うか大きさに比して妙に弱い(ボス時代は強い)。
そしてもう一つは『羽根爆雷』と呼ばれるもので、抜け落ちる羽根が爆雷のような判定を持ち、使用後一定時間、移動後にそれが降り注ぐ。
判定強い、ダメージ大きい、逃げながら打てる(置ける)、数も多い、消費は普通、と、『強い』としかwikiには書いてない。
直接の攻撃はやりにくいのだが、しばらく滞空するため、追いかけてくるモノにやたら強い。と言うか、上空を旋回するだけでそれなりに強い。
また、AIの頭がいいのも特徴。
騎乗して操るより放任の方が強いとすら言われる。
飛行生物としては大型で比較的タフなのだが、その分判定も大きく、総合的にはあまり頑丈ではないことが弱点。
また、広範囲攻撃や誘導攻撃には流石に弱い。ついでに、鳥目なのため夜には性能が落ちる。
爆雷は火炎系攻撃であり、それが効かない相手も辛い。爆雷はともかく、召喚コストも安くはなく、持続時間もあまり長くない。
『世界一後方に強い』が、それ以外はそれほど強くないのが弱点と言える。
頭がよく、気が回る方なのだが若干気弱。メス。




