9月1日:〈カコブツ研〉にて
『ログ・ホライズン』二次創作です。
不定期更新ですが、楽しんでいただければ幸いです。
※〈大災害〉の日を間違えていた(5/3中、ではなく正確には5/4の0:00だったようです)ので修正しました。顔真っ赤。
※7/6から9/1に変更しました。
〈ロデリック商会〉――現在では〈ロデリック研究所〉、〈ロデ研〉と呼ばれることも多いギルド。
〈アキバ〉のはずれに所有する、元々はデパートだったと思しき、大きな四階建ての、元廃ビル現研究所。
そこが、前触れなく爆発した。
その天井の三割ほどが飛び、壁が弾け、ピンクと紫の入り混じったナゾ炎が一瞬空を焦がす。
周囲。まばらながら歩いていた人々――〈冒険者〉、あるいは〈大地人〉が、
「ん?」
と反応し、
「なんだ、またか……」
そのようなことを呟き、あるいは表情に出し、視線を戻して歩き出す。
――まあ、慣れたものである。
飛んでくる破片を〈パルスブリッド〉で撃ち落としつつ、落ちてくる天井を見やる。
あれは死にうるなあ、と思う。
〈カコブツ研〉の研究成果によれば、物理法則として強い攻撃は、〈エルダー・テイル〉的にも強いダメージになるという。
まあ『車がたくさん走っていたら渋滞になりやすい』とか、『たくさん投げれば実際当たりやすい』とか、そっち方面の成果ではあるが、はっきりとした実証は大事だ。
爆発のダメージと重量のある落下物のダメージ。
爆発はともかく、落下物のダメージ――吊り天井なんかに代表される特殊地形ダメージ、俗に言うトラップダメージは、防御力で減算される。
これが溶岩や特殊なバリアだと防御力を無視したり属性耐性で計算したりするのだが、爆発した場所にいつもいるメンツは紙装甲が多いはずだ。
死にうる。
「――覇ぁっ!」
と、頷いた瞬間、高い声が響く。
轟音、同時に再度打ちあがる天井。中心から放射状にひび割れ、周囲にコンクリの破片をぶちまけていく。
……あいつがいて、爆発には耐えきったらしいと見える。
角度的に見えないが、おそらくはウチの謎の生物四号だろう。
相変わらず、物理法則を慈悲容赦ゼロのウィリーで突っ切るやつである。
再度の破片を撃ち落としつつ、建物へと向かう。
ゾーンは建物より少し広く、建物を中心に道路一本建物一個の余裕がある。
ゾーンに入った瞬間、そこの情報がウィンドゥで表示される。〈|(物理)《かっこぶつりかっことじ》研究所〉――所有者は〈ロデリック商会〉、攻撃行為は無制限。
ここは、その目的のために攻撃が無制限となっているのである。
入口あたりで座っているフード付きローブ、というよりはパーカーに目元を隠す帽子姿の〈召喚術師〉が、
「〈従者召喚:エレメンツ〉」
言葉と同時、短杖を指揮者のように振るう。
すぐに、風が吹いて身から埃が飛ぶ。そして周囲に霧が発生、空気中の埃を取り去って、霧で湿った体を熱が乾かし、落ちた土埃はすぐにどこかに転がっていく。
入口につくころには、服は乾いてふわふわだ。
相変わらず手早く、しかもいい仕事である。
「お疲れ様、ありがとう」
「あい、……ああ、お疲れさん」
顔パスである。
短杖を指揮者のように振るい精霊と交信――というよりおしゃべりする男の脇を抜け、建物内に入る。
機材置場や準備室にもなっているそこは、空間をかなり広く使っている。
今も出入り口のあたりには、爆発でびっくりしたらしい馬を宥めている商人や、困ったなあという顔をするドワーフ、武具の手入れをする人影も――と。
「お」
武具の手入れをしているメンツに、ウチの謎の生物二号と五号がいた。
それぞれ、剣付きの盾を二つ持った鎧姿のエルフ、いつもニコニコ笑顔の糸目――ズーン・ダーン。
刀を佩いた狼牙族、向かって左目に刀のつばで眼帯をした、自称生粋の金髪碧眼日本人――金ケ崎ヒカズだ。
「おや? 奇妙丸殿、奇遇でござるな」
草履の手入れをしていたヒカズの方が先に反応した。
ズンダの方は、まだ気づいていないのか、兜を磨いている。
「奇遇奇遇。ヒカズがこっちにいるなんて珍しいな」
「うむ。拙者、最近防具の方も作ってござってな。拙者趣味じゃないので兜なぞかぶりたくもなく、かと言ってズンダ殿にかぶせて出ようにも二人ではなあ、と、仲間を募りに来たのでござる」
「ほおーう」
ズンダが磨いている兜がそれらしい。
サブ職から〈鑑定〉スキルを起動、ズンダの肩越しに凝視すれば、
「……金貨六五〇枚が相場だな。ギリッギリ下位〈魔法級〉ってトコだ」
……ということが分かる。
「まあそのくらいでござろうなあ……拙者、〈刀匠〉でござるゆえ。一応刀扱いにしたのでござるが……やはり、少々苦しかったようでござる」
「これじゃあ防具カテゴリーなんだろうな。このあたりのセンスはヒカズに任すしかないが。もう、PTは組んだか?」
「まだにござる。回復さえあれば万全なのでござるが……」
「じゃあ、待っててくれ。ここにも用はあるんだが……仕事が入ったんでな、そろそろウチの物理巫女を返してもらおうかと」
「おお、おお。承知でござる。半裸殿も上に来ているでござるよ」
「お? そうか、さんくー」
頷くヒカズにひらひらと手を振って、歩き出す。
ズンダは最後まで兜磨きに熱中していたが、アレ気に入ったのだろうか。
珍しく、周囲に気を配らず、一心に磨いていた。
確かに、ダメージ反射系能力のある装備が欲しいみたいなことは言っていたが、
「〈モヒカンブレードの兜〉……か」
相も変わらず、珍妙なセンスのやつである。
歩みを向けるのは端の方、エレベーターの跡を利用した螺旋階段だ。
自動で動くようなことはないが、きっちりと製造されたそこは、しっかりとした踏み応えを送ってくる。
二階を経由して三階へ。
二階は半分ほどが。三階はほぼすべてが、研究室然としたスペースが間仕切りで作られた階層だ。
二階のもう半分は仮眠室であったり事務室であったり休憩室であったりシャワー室であったり、とにかく生活スペースの類である。
階段側からは見通せないため、どちらもスルーしてさらに上へと向かう。
四階は、実験場だ。
「あら? ウフフ」
新造された踊場、その窓際に、我らが謎の生物三号――クレスケンスが嫣然と立っていた。
「奇妙ちゃんも来たの? そろそろ〈BKK〉メンバー、勢ぞろいするんじゃあないかしら?」
襤褸布に身をくるんだ女である。
わずかに茶色の入ったウェーブのショートカット、楽しげに揺れる猫のような瞳。
若干化粧が濃いが、元の目鼻立ちがくっきりした女であるためか、妖艶、という言葉が似合う雰囲気に仕上がっている。
かるく腕を組んで、襤褸布に包まれていても分かる巨乳を歪ませ、窓の外に顔を向けつつ、瞳は俺を向いている。
「ん? ……ふうん? ――フフフ! ヒカズくんとズンダくんは見た?」
「ああ、見たよ。……で、今回は何を?」
「ウフフ、突発腕相撲大会からドーピング乱捕り」
「なるほど、そりゃあ爆発もするわな」
「でしょう? フフフ?」
フフフのフ、と笑いながら、クレスケンスは腕組を解いた。
「――あらいけない〈聖骸布〉が。」
すると、襤褸布が落ちて半裸が見えた。
下着姿である。
水着の類ではない。
下着である。
巨乳をゆっさりと主張させつつのポージングが入る。
生地に始まり縫製、レースの細やかさ、色やデザイン、何から何までなんともエロチカ。さすがは〈エルダー・サキュバスの勝負下着〉。
ゲーム時代、男性人気を集めまくっただけのことはある。
「……ウフフ? ……フウ、最近奇妙ちゃんつまらないわ、シャルちゃんみたいね? ウフフ!」
「うるっせぇ。人前でぽんぽん脱ぐんじゃねえよ、戦闘中でもねえのに」
「ウフフ! 照れ隠しね?」
「札束ビンタするぞこの野郎。……女郎!」
「ウフーフ! まあ中はいんなさい、ナギサちゃんはアムバくんお片付けしてるからね」
まったく、テンションの落差が激しい。
ため息を吐き、
「そうだな、そうするよ。あとな、出る準備しておいてくれ」
「うふん? フフ、そう、出るのね、前言ってたペリカンさん?」
「そうそれだ、俺たちも微力ながら協力する」
「そう、新しいルートが欲しいのね?」
「本音読むんじゃねぇ」
ウフーフ! と笑う半裸をいっぺん睨みつけて、四階フロアに入る。
風通しのいいフロアだ。三割くらい天井は飛んでいるし壁もない部分が多い。爆裂の結果である。
〈大地人〉の〈エルダー家政婦〉や〈メイド〉〈掃除人〉らが清掃に走り回る中、薄汚れた白衣を着つけた青年が、狐耳の巫女にマウント取られて今にも殴り殺されようとしていた。
ゴスゴスパウンド。打ち下ろしの拳は的確に眼球とか眉間とか鼻の頭とか歯とか喉仏とかこめかみとか、ヤバいところを容赦なく襲う。
マウントの取り方も見事である。相手の胴をまたぐように座り、暴れてもがく白衣の犠牲者の脚を尻尾と脚で捕らえ、ロデオのように乗りこなしている、そして殴っている。
辛うじて防御を続けているので、まだ意識はあるようだ。
だが、殴る拳は的確に防御を抜いて顔面とかを殴打している。
この分なら邪魔にはなるまい、と、挨拶する。
「よう、ナギサ」
「……ああ、ギルマス。こんにちは」
黒髪、狐耳の巫女服姿。素拳の両手は血に塗れスプラッタ、振り返り挨拶する間もパウンドは止まらず打撃音は鳴りやまず。
実に据わった切れ長の瞳は、それきり興味を失ったかのように再度打撃対象を向く。
殴られている白衣が血を吐きながら、笑って言う。
「やあキモ丸クン! 助けてくれ!」
「金」
金貨が飛んできたので受け止めて、
「足りん」
財布の中に入れつつ再度言う。
今度はたくさん飛んできたのできちんと受け止めるが、投げるために防御をおろそかにしたのがまずかったらしく、ハンマーのごとき拳が顔にめり込み、浮いていた後頭部が床と接地して、ゴバァ、と突き抜ける。
ひいい、と階下から悲鳴が聞こえたのは聞き間違いでもあるまい。角度とめり込み的に、ボッコボコにされた顔だけが天井からコンニチワしてるはずだ。
辛うじて〈大神殿〉送りにならなかったと見える。首を支点にびたんばたんと暴れだす白衣からそっと視線を外し、馬乗りになっていた巫女へと移す。
立ち上がり拳に付いた血を緋袴でぬぐい、埃をはらう巫女。
人の頭蓋を凶器に、地形にダメージを与えた撲殺ウーマン。
それがウチの誇る謎の生物四号――ナギサ・フォレストである。
「そろそろやめてやれ、ナギサ」
「……ギルマス」
す、とナギサは振り返り、裂けるような笑みを浮かべた。
当人的には会心のスマイル。
他人的には残虐超人スマイルである。
表情がない方が美人に見える、――というより、表情全般が殺気に満ち満ちている、長身の少女だ。
肉がついていないわけではないが、身長のせいで―― 一六五センチの俺より二センチばかり高い――のっぽに見える。
露出度の高いコラボ装備系の巫女服をまとっているが、すとーんと落ちる胸元が空しい。ああ、惜しい。
「もうやめた」
「そうだな、よし」
依頼達成、ミッションコンプリート。金の分は働いた。
「アムバー、依頼の品な」
〈魔法の鞄〉からポーションセットを取り出し並べる。
それから、その倍以上の重さがある資料――産地と生産者、設備から周辺の歴史、それが作られるに至った経緯のインタビューなどをまとめたものを、置く。
「ああ、ありがたいね。――助けてくれ!」
床をぶち抜いたまま、白衣の青年――アムバは言う。
〈ロデ研〉所属、〈(物理)研究所〉、略して〈カコブツ研〉所長の、〈暗殺者〉にして〈毒使い〉――毒特化ビルドのインファイター。
しかしその正体は医療系機械技術の若き天才、あとマッドサイエンティストの青年であるが、
「金」
とりあえず金払いはいいので贔屓にしている人物である。
金を二秒で勘定し、よ、と引き抜いて、ぱすぱすと頭を叩き埃を払ってやる。
「……ああ、依頼の品だね。ありがとう」
懐からポーションを取り出し飲み下し、人心地付いたあたりで、アムバは言う。
レジュメを手に取りぱらぱらめくるのを確認しつつ、補足をする。
「スキルで作る限り、スキル――レベルの差しか価値――つまりは薬自体の強度の上下はない、なかった。が、最近になって、アキバからの〈手製法〉が流出したろ?」
「ああ」
「一章二ページ目だが、アキバからの製品は本当に普通のものであっても価格が高騰する傾向にある―― 一種のブランド化、が進んでいそうだ」
「うん」
「ブランド化が進むこと自体はいい、実際調剤師リアルでやってたやつのほうが、今までスキル便りだった『達人』より薬の扱いには手馴れてるだろうさ。価値も上がるし強度も上がる」
「そうだね」
「それを利用した悪質な値の吊り上げが散見される。まだまだ〈手製法〉は安定しないし、普及もしていない。完成品とは見た目も大して変わらんのがアダになった形だな」
「うん」
「俺のところでは、瓶……に限らず、製造物に刻印を刻んでブランド化を推し進めようかと思っているんだが、アキバの方でもその手の対策を取るべきかもしれないな」
「なるほどね……半分くらいちょっと僕の分野から外れてるが、ポーションの効果には……興味がある」
「『薬草×水=ポーション』。これ自体はほとんど変わってないが、『採りたて新鮮薬草×濾過した水=ポーション+』になるってことはこの前の簡易レポートで見せたよな?」
「うん」
「リアルで言えば『その辺の雑草×水道水』でも、『摘みたて七草×海洋深層水』でも……後者はアイテムとして別にありそうだが、とにかく『低ランクの薬効のある草×水系素材』でポーションになるわけだ」
「うん」
「結論に飛ぶが、水の美味しい場所、もしくはきちんと栽培した薬草を作れるような土地は良いポーションの名産地たりうる。ススキノの方とか六甲山とか調査したいところだが。あと欧州行ってアルプス」
「うん……ん、そう言えばだけど、」
「ああ、勿論というか、とっかかりくらいの調査はしてきたぞ。美味しい水の方が効果が高いのは間違いない、美味しさは個人の感覚なんで当てにはしきれんが」
「ああ、うん。僕はボルフォッグ党だったよ」
「俺はその辺の安いミネラル。――料理と同じく素材が効果を左右する。ということは、ある土地の固有種に付随する特殊な作用で様々な効果が表れるかもしれないってことだ。ゲーム時代は一緒くたにされたような差でも、調合によって差は出るかもしれない」
「つまり?」
「ブランド化ができる。NASA共同開発と一緒だ、ロデ研製とか銘打って輸出すると末端価格が少なくとも倍になる。あとはそうだ、同じレシピで生産して違う結果<プラス>が出たなら、その薬効を掛け合わせて新薬が作れるようになるかもしれん」
「ほほう?」
「つまり金になる、……ということが書いてある」
「……うん、お金の話はこの資料にはほとんど書いてないね?」
「そうだな」
だからどうしたというのだろう。
まあこいつはマッドサイエンティストなので、俺のようなリアル派閥とは路線の違う、いうなればロマン派閥の人間だ。
なにかこう――そう、改造されたポーションの悲哀とかそういうものを期待していたのだろう。
「まあ、詳しい調査はそっちで頼む。これは確認資料の類で、学者さんから見たらそんないい資料じゃないだろうしな」
「いや……過不足はあるけれど、十分に役立つ資料だね。ありがたいよ」
「ならよかった、金の分は働けたか。……さて、」
と、ナギサに向き直る。
いつの間にか半裸が手をわきわきさせながらナギサの背後に接近していたのでナギサに指で示しつつ、言う。
「ナギサ、ちょっと手が足りんので〈BKK〉全員集合だ」
「ん。了解」
「ウフフフフフフフナギサちゃぁん! 私そこまでMじゃないの! 違うのよ! 違うの! あああ飛んじゃう! 跳ねちゃうぅううっ!」
常日頃の脳内と同じくらい関節をキメられて飛び跳ねて逃れようとする半裸。
ナギサは首を傾げている。『なんでこの半裸女は私に触ろうとするんだろう?』……ってところだろうか、『手が足りないってなんだろう?』じゃないことを少しだけ祈る。技をかけてる間くらいそいつのことを考えてあげてほしい。
母親の胎の中に慈悲とか寛容とか容赦とかを置き忘れてきた――というか、たぶん、そういうものを両親からして持ってなかったのだろう。そうとしか思えない少女である。
とはいえ格闘のルール、お約束は守る――半裸の必死のタップを受けて、捻っていた手を放す。
「ウ、ウフーフ……もげちゃうかと思ったわ……」
半裸は乳の谷間からハンケチを取り出し、目元の涙をぬぐう。
……〈ディメンジョン・ポケット〉だったか。
便利な特技ではあるが、正直習得したくはない。
「ん、……ああ、そう言えば、シャルちゃんにはもう言ったの?」
「いや、まだだ。……あいつ念話に出ないんだよなあ」
「ウフフ。まあ、朝はいつも通りだったし、いつもの場所じゃない?」
「かもなあ……行ってくる」
はじけ飛んだ壁から上体を出して、〈魔法の鞄〉から杖を取り出す。
〈トラツグミの呼笛・独唱〉だ。
ひょー、と少し変な音が出る――トラツグミの鳴き声を再現しているのか、俺の演奏が下手なのか判別しにくい音だ。
すぐに、遠くから大きな影が飛んでくる。
流動する、鳥のようなシルエットを持った何かだ。
ヒョォ、と少し鋭い鳴き声を発しながら、そいつは俺の肩を鷲掴みにして、空へとさらっていく。
「家で待っててくれーっ!」
最後に、手を振る二人に叫んで、飛んでいく。
●
丘の上に建った、マンションらしき高層建築物の廃墟。
元々は十階、二十階建てだったのだろうが、折れて砕け、周囲に落ちた大きな破片は道をふさぎ視界を遮り、丘を天然の要塞に変えている。
区分けされた屋内は天然の繁殖場。ベランダは空を行く者たちの発着場であり羽休めの場でもあり、地下駐車場は邪悪な蟲どもの巣窟と連結されてしまっている――。
……とまあ、本来はちょっとしたダンジョンなのだが。
ちょっと無理して背後を振り返れば、すぐ、という距離にアキバの街が見える。
アキバの門から飛べば三分、歩いても一時間はかからない場所で、適正レベルにして十、地下のダンジョンでさえ平均レベル二十程度のPTであれば余裕でクリアできる場所だ。
レベル九十ともなれば、〈付与術師〉である俺の手にかかってもボスがワンパンだ。やるならワンショットキルだろうか。
ともあれ、その最上階――天井がないフロア――には大量の羽毛が舞っている。
おそらくは、ボスドロップ――その辺の雑魚を倒すとたまに手に入るような素材を、すごい量で落とす――ボスドロップとしては外れの類だ。
その羽毛の嵐中に、こちらを見上げてくる女がいる。
銀髪の狭間に揺れる狐耳、褐色の肌。眩しそうに細めた碧眼。
パレオのように身に着けた布の上から、銀色の胸鎧と腰鎧、なんて珍しい装備を身に着けた〈召喚術師〉だ。
女は長尺の杖を背負うと、俺から視線を外し、寝転がった。
――シャル=ロック。〈BKK〉の誇る、謎の生物第一号。
そいつの横に降り立ち、言う。
「よう、金の話をしに来た」
「あ? ……おう」
女にしては、少し低い声での返事が来る。
ゆっくり着地したつもりではあったが、大量の羽毛が風に舞う。
丘の上の高層建築。景色は良く、天気も素晴らしく、見晴しも通っている。
シャルの視線は空に向いたまま。
……遠い目、だ。シャルは、空を見上げているようで、まったく、なにも見ていない。
こんなにもいい天気だというのに――だ。
まったく、――気持ち悪い。
「おい」
「なあ」
声が重なった。
ん、と眉をひそめ、引くタイミングまで同一。
復帰は、シャルの方が早かった。
「……あんだよ?」
聞き返しの声は、苛立ちが強い。
おい、なんて呼びかけられたためだろう。
「金の話だろ、早くしろよ」
「……ああ、金の話な――」
――シャル=ロック。
狐尾族。
あるビルドのために二十六のキャラクターをデリートした鬼子。
全〈召喚術師〉中、〇.〇一パーセントいるかも怪しい奇矯なビルド。
混合装備の半分痴女。
カイティングと突撃の達人。
見た目は女。声も少し低いが女――だが中の人は男である。
中の人は、ヌコ動にて、両声類、として少しは有名だった。
その背景を、知っている。
なぜならば。
彼女は、俺だからだ。
→5月4日(1)
●〈従者召喚:エレメンツ〉
〈召喚術師〉の特技。精霊召喚。
習得するクエストでは、サラマンダー、ウンディーネ、ノーム、シルフと契約していなければならない。
四属性をまとめて使える他、性能自体もそれぞれの長所を合わせたようなものになっている。
それぞれの持っていた特技もほかの精霊と組み合わせることでパワーアップしており、対応力が高く、使い手によって大きく姿を変える特技である。
〈エレメンタルレイ〉を使用した時の、四属性ビームのエフェクトがカッコいいと評判。
ただし四体同時制御は難しいという設定のため、習熟度に応じて、火力は上がるが、再使用規制時間やMP消費、持続時間などの性能が落ちる。
また、これらの精霊が必要なクエストでは、この召喚枠一つで済ませられるという特徴もある。
〈プチ・エレメンツ〉という下位版特技も存在する。かわいい。
……という感じでちょっとしたオリジナル設定とか開示していこうと思います。