【作者樣向け】設定考察~冒険者ギルド編~
読者としてなろう150作品ぐらい読んだ私が、その中で見た「ギルド(冒険者ギルド)」について考察します。
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目次
◆はじめに
◆ギルドを登場させるメリット
◆ギルドを登場させるデメリット
◆例
◆あとがき
◆参考文献
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◆はじめに
前回は学園について考察しました。[→N4746CP]
今回はギルド、いわゆる冒険者ギルド・冒険者組合について考察します。
学園とは違い、冒険者ギルドというのはかなり多くの作品で出てきます。
ファンタジーといえば、まず魔法!
そして登場キャラクターはエルフやドワーフに始まる異種族、そして敵となる魔族!
やがて味方となる彼らと出会うのは、冒険者ギルド!
……このように、冒険者ギルドはかなり王道的な扱いとなっているように見受けられます。
いわゆるテンプレファンタジーモノですね。
しかしテンプレ要素というのは、いろんな作者様方が数限りない作品で使用しています。
しかも、前述の魔法や異種族の設定と違い、ギルドが存在する理由というのは基本的に大体どの作品でも似たり寄ったりです。
実際、私はいろんな小説を読みましたが、作品ごとのギルドの扱いの差は本当に少ないです。
“非常に使いやすいテンプレ要素だからこそ、扱いが難しい”
そんなギルドという存在をどのように扱えばいいのか、考察していきます。
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◆ギルドを登場させるメリット
・まずギルドを登場させる最も大きなメリットは、そこに行けば冒険者になれる、ということです。
いったい何を当たり前のことを、と思われるかもしれませんが、これが最大のメリットです。
なぜなら、カネも身分もコネも実力も持っていなくても、そこに行けば冒険者としての身分が手に入るということは
も・の・す・ご・く便利な設定だからです。
現実で言えば、だれでもなれる職業(※給料その他全て実力次第、死亡する可能性あり)という感じですね。
基本的に、ギルドが登場する作品の主人公というのは、その4つ全てを持っているということはありません。
冒険者ギルドという“会社”を用いて、それら4要素を増やして成り上がっていくわけですね。
もし、お金持ちで・貴族で・王様と知り合いで・騎士団長ぐらい強い、そんな人物が居たとしたら、ギルドで薬草の採集なんか普通するでしょうか?しないですよね。
いや、そもそもギルドに所属する必要すらないでしょう。大抵のモノは自分で手に入れられるのですから。むしろギルドに依頼を出す側です。
それでもギルドに所属するならば、駆け出しの頃からギルドに所属していたから、そのまま所属して恩返し、とか
何らかの理由(身分など)でギルドに所属していないといけない、とかでしょうね。
・ギルドの依頼という資金提供があれば、世界の端から端まで行くことが比較的簡単に出来ます。動機付けも不要。
もし依頼がなければ、費用は全て自分持ち。
自分で金を出して装備を買って、冒険しても、行きて帰れるかどうかもわかりません。
その上、お宝を発見しなければ帰ったら無一文。
これではなかなか探検などしようと思わないでしょう。
現実でも100年ほど前に、各国が誰も到達したことのない南極へと探検隊を出す計画を立てましたが、これらの資金は援助金や義援金をかき集めたものでした。
それだけの膨大な人と資金が動き、国をも巻き込んで何年もかけて準備して、初めて成し得たことだったのです。
・また、他者から評価してもらう“場”としての意味も大きいです。
成長して成り上がるというのは、日本の漫画・小説ではよくある要素であり、総じて読者にウケが良いです。
成長する場、成り上がる場、名声を高める場として、ギルドは大きな意味を持ちます。
ランクシステムはその最たるものですね。ランクが高くなるイコール成長した証であり、
高ランクイコール誰からも優秀な冒険者として評価されるのですから。
特に若い人ほど、いやお年を召した読者層であっても、誰からも評価されない孤高の天才となるよりも、誰からも賞賛される立場になろうとする主人公を選ぶ事のほうが多いでしょう。
・冒険者の友人・知人を増やす場としても優秀です。(前項とやや重なりますが…)
そこに行けば、必ず冒険者がいます。冒険者を偽装した盗賊…なんてことはまずありません。
ランクシステムであれば、彼らの強さも同時にわかります。
ギルドがあれば、“町中や山中でたまたま冒険者と知り合うシーン”という作為的な偶然を作らなくても良いのです。
・これは設定によりますが、モンスターの生態・ダンジョン知識・野営・探索・狩猟・採集・etc..の基礎を、
冒険者講習などと称し、新人に知識を与える場であることもあります。
常識が抜け落ちている主人公や、冒険者として右も左も分からない主人公であっても、これで最低限の冒険が出来る様になるのです。
・なろう作品に慣れた読者様なら、既にギルドとは何か知っているので読みやすい、というのも一応メリットです。
けれど、これは書籍化するまで人気が出た場合、一般の読者は慣れていない方も多いので、受け入れられるとは限りません。
…こうやって挙げてみるとメリットばかりに聞こえますね。けど、デメリットは存在します。
以下、デメリットです。
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◆ギルドを登場させるデメリット
御存知の通り、ギルドというのはさまざまな作品で登場します。
それら他作品と似てしまうというのはそれだけでデメリットです。
作者様方の個性を出したギルド設定をすることができれば、よりその小説は映えることでしょう。
しかしそうすると、既にギルドというものを他作品で知っている読者が混乱するというデメリットにもなります。
銀貨が金貨より価値がある、のような設定をするようなものです。わかりにくい。
また、ギルドに所属することは、ギルドに縛られるということでもあります。
基本的にフリーランスなのが冒険者であり、ギルドのルールというものも最低限しかありませんが、それでも最低限は守らないといけません。
狩猟や採集の場を無闇に壊すような真似は出来ませんし、町中で人殺しをすればさすがに捕まります。
モンスターが大発生した時の緊急クエスト等はよくあるギルドの縛りです。
設定によりますが、ギルドのシステムを便利なものにするほど、その理由付けが必要になります。
“達成時、魔道具に報酬が支払われる”“他人の採ってきた品を横取りしてもバレる”“僻地や治安の悪い所にもある”
例えばこんな設定をしてしまうと、なぜそんな事が出来るのか?を説明しないといけなくなります。
(そんな優秀な魔道具を冒険者になれば全員もらえるのでしたら、国民全員が形だけでも登録するでしょうし。
横取りしたらバレるのでしたら、全ての商売人は必ずそのシステムを使うはずです。盗賊が発生しなくなります。
僻地・治安が悪い土地で、規律正しくギルドを運営する事は難しいです。赤字になったり、盗賊団等の構成員がギルドに侵食する。)
最後に、これを軽んじている作者様が結構いるのですが、高ランクの冒険者は“戦力”として数えることができるということです。
強ければ強いほど、国やギルドはその人物を放っておきません。必ずや首輪をつけようとするはずです。
例えば騎士団長並に強いのがAランクとしましょう。
もしあなたが国の王様だとして、Aランクの人物をみすみす他の国に渡すでしょうか?
もしあなたがギルド長だとして、Aランクの人物をみすみす他の土地に渡すでしょうか?
……しないでしょうね。金銭や地位、宝物などを与え、なんとしても自分の手元に囲い込もうとするはずです。
御国のために働け、敵国との戦争に参加しろ、となる。
そしてギルドからの要請であれば、それを拒むことはなかなか出来ない。
強くなるほど、地位が上がるほど、しがらみが増えるほど、自由に動けなくなる。これは現実でも同じです。
作者様が、自由に主人公を動かしたい、束縛を受けないようにしたい、というのなら、この難問を解決しないといけません。
例えば、無理矢理拒む。要するに力ずくです。
この場合、その国や、場合によってはギルドまでを全て敵に回すことになります。そうなってはストーリーを展開する上で大きな障害になるでしょう。
例えば、自分の強さを見せつけ、他国を巻き込んで交渉する。
「お前の国には加担しない。圧力を加えるなら別の国に渡る。モンスターが大発生などが起これば手伝う」とかですしょうか。
こうやって水戸○門のように諸国漫遊しても許される形を作らないといけません。
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◆例
・八男って、それはないでしょう!
冒険者ギルドは序盤で出てきますが、主人公がその時点で既に最強と言えるレベルの強さであり、しかも直後に龍を討伐して王族へのコネを得て、叙勲されます。
カネ・身分・コネ・実力の全てがこの時点で殆ど揃ってしまうのです。
そのため、冒険者としての活動はわずかです。
ギルドは成り上がりの場ではなく、序盤の重要な友人知人を作る場として使われています。
・無職転生 - 異世界行ったら本気だす -
こちらもテンプレよりはやや外れた登場の仕方。
名声や、友人知人を増やすために冒険者ギルドに登録するのではなく、
魔大陸という見知らぬ土地で生きていくために、まともな収入を得る為に、便利な職業である冒険者になっています。
その後、Aランクまであがりますが、これも直接名声を得たいという訳ではなく、名声によって自分の名が知れ渡り、そうすることで世界の何処かにいる母を探そうとしているのです。
この主人公は転生前の歳が34とやや高く、そういう名声や中2病的なカッコよさにはあまり拘っていないからでもありますね。
・二度目の人生を異世界で
これが私の見た中では最も王道的なギルドの使い方かもしれません。
異世界に来た直後の迷い人の主人公は、まだ何も持っていません。強さだけは授けてもらったものの、衣服にも苦労しているのです。
まずギルドでギルド員としての身分を得て、その後カネ・身分・コネを増やしていきます。
他にも依頼ということで他国に出向いたり、モンスターと戦ったりします。
・こちら討伐クエスト斡旋窓口
むしろギルドの運営側なのがこちら。
ある程度、読者が「冒険者ギルドってこんなものだよね」と理解していることを前提としています。
窓口として冒険者ギルドあるあるな展開がよくあります。
窓口員として優秀で、地位や身分的にもその職を失うわけにはいかないため、
外堀からうめられています……ので、主人公はあまり自由ではありません。
主人公に自由さを求める読者様には向いていないでしょう。
・エルフ・インフレーション ~際限なきレベルアップの果てに~
こちらの作品のギルドはかなりギルドのシステムがシビアです。
1つランクが違うと、全ての待遇がガラッと変わってきます。残酷なまでの実力制度。
他にも冒険者が次のランクに上がる割合や、死亡率などを、きちんと説明しています。
読者はファンタジーの中のリアル、冒険者の夢の代償を思い知るのではないでしょうか。
まぁ、主人公たちはタイトル通りインフレ成長を遂げるわけですが……(笑)
・くま クマ 熊 ベアー
こちらは上のエルフ~とは逆で、基本的に主人公に関わる人物は全て優しい世界です。
今までに出てきた敵は、せいぜい守銭奴貴族と盗賊と悪徳商人とモンスターのみ。
女主人公であるからか、主人公は知り合った人々を守れれば十分なスタンスです。地位や名声も嫌がります。特に依頼がなくても食べ物のためにあちこち行きます。
ギルドは序盤の最低限の身分のためと、たまに素材を売ったり依頼を受けたりする程度。
使えるシステムだから使っておこう、程度のかなりゆるい扱いです。
・月が導く異世界道中
こちらは珍しく、「なぜギルドのシステムがきちんと制度化されているのか」
「なぜ冒険者としてのステータスプレートという高度な魔道具が出来ているのか」
そういったありがちな設定の裏側がきちんと述べられている作品です。
主人公は2人の頼もしい味方を得て、独自で商会を持ち行動するのがメインなので、
ギルドはどちらかと言うと序盤、利用する側です。中盤以降はあまり出てきません。
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◆あとがき
まだ見ぬ場所へ行き、まだ聞かぬ知識を知り、まだ知らぬ発見をする――
こういった冒険心は、子供の頃なら誰でも多かれ少なかれ持つものです。
特にファンタジーな世界であれば、男の子は伝説的な英雄や、国を護る騎士団長、そして冒険者に憧れるのが当然でしょう。
子供の頃からの夢を、諦めず実現する。
そんな職業が、ファンタジーにおける冒険者だと思います。
読者の私達にも、どうか彼らと同じ夢を見させてください。
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◆参考文献
八男って、それはないでしょう!(n8802bq)
無職転生 - 異世界行ったら本気だす -(n9669bk)
二度目の人生を異世界で(n6332bx)
こちら討伐クエスト斡旋窓口(n1383bo)
エルフ・インフレーション ~際限なきレベルアップの果てに~ (n0006cn)
くま クマ 熊 ベアー(n4185ci)
月が導く異世界道中(n0942bb)