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隊長さんちのわんこ《ミシェル》  作者: 芳賀さこ
第九章 さよならを言う同居人
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間話 ー人生最大の贈り物ー

 出勤したフェリックスは、隊長室のデスクに積もれたプレゼント用に包装された箱に目を丸くした。いつからここは物置になったのだろうか。とくかく座ってみたが前すら見えない。 


「おはようございます、コールダー隊長」


 クリスがにこやかな笑顔で入ってきた。正確には声で判断したのだが。


「なんだこれは」

「お忘れですか? 今日は隊長の誕生日じゃないですか」

「来週だ」


 フェリックスが顔をしかめて訂正したので、クリスは笑顔のまま固まった。


「またまたご冗談を」

「自分の誕生日を偽る冗談があるのか?」

「あれ? 確かプロフィールには今日って・・・・・・」


 クリスは慌ててパソコンに駆け寄り操作し始める。どうやら日付の見まちがいだったらしい。しばらくしてぎこちなく振り向いた彼は顔面蒼白だった。


「・・・・・・どうしよう。みんなに今日が誕生日って言っちゃいました」


 だから。この有り様か。

 フェリックスは納得した。他の部署はもちろん、『高嶺の花』である彼にお近づきになりたい女性隊員も参戦したのだ。直接渡せないので、フェリックスが不在の時間を狙って置いていったというわけである。


「とにかく片付けてくれ。仕事ができない」

「はい、ただちに!!」


 キレのいい敬礼をして、ただちにプレゼントを床に置き始めた。クリスが出ていったあと、改めてプレゼントの山を見つめてため息をつく。

 どうやって持って帰れるんだ?

 

 このあともプレゼントと祝いの言葉が続いた。廊下を歩いていると、背後からパタパタと走ってくる足音がした。


「コールダー隊長、お誕生日おめでとうございます!!」


 振り向くと、真っ赤な顔の女性軍人三人である。互いに肘でつつき合う後ろでなにやらプレゼントらしき袋見え隠れしている。こんな様子を見て「来週だ」と言いづらい。

 やっと一人の隊員が勢いよく綺麗にラッピングされた袋を突き出した。


「三人で選びました。受け取ってください」


 一瞬断ろうかと思ったが、周りにいた軍人の視線が刺さった。ここで断ったらまたどんな噂がたつやら。


「せっかくだから貰おう」


 受け取った途端、もう一人の女性が泣き出した。驚いたフェリックスに他の二人が言った。


「この子、ずっと渡すかどうか悩んでいたんです」

「よかったね」


 泣いている彼女の肩を二人が抱き合っている。


「あーあ、また女を泣かせたよ」


 と、言わんばかりの男たちに、フェリックスはやるせない思いだ。


 

 これがきっかけとなり行く先々でプレゼントを渡されて、隊長室はたちまちギフトで埋め尽くされた。仕事が一段落してデスクからじっと見つめる。食べ物があったらまずいので取り敢えず中身だけは確認しておいた方がいいだろう。

 まずは一番上の箱を手に取る。包装紙を剥がして現れたのは赤いマグカップ、これは使えそうだ。次は軽いく中身はシャツだった。ファッションに疎い彼にはそれがブランドとはわからない。

 数箱開けたところ、自分に対するイメージが見えてきた。お洒落な大人の男、プライベートではガウン姿でワイングラス片手にただずむ・・・・・・。

 実際の彼はだらしない部分が多々ある。今はミシェルがいるので少しはマシになった方だ。


「おいおい、店でも開くつもりか?」


 マシューが足の踏み場がない隊長室に呆れている。どうにか着地地点を見つけてフェリックスの所へ辿り着いた。


「オレガレン少尉が今日私の誕生日とふれ回ったせいらしい」

「お前さんは来週だろ?」


 なぜこの男は自分の誕生日を知っているのかフェリックスは不思議だった。顔に出たのか、マシューが迷惑そうに言う。


「お前さんに直接聞きづらいか俺に回ってくるんだよ」

「それはすまなかった」

「まったくだ」


 マシューはソファーまで占領していたプレゼントを端に寄せて座った。


「これ、全部持って帰るのか?」

「そうせんと片付かんだろうな」

「お嬢ちゃんがなんて言うか」


 フェリックスがはっと顔を上げた。ミシェルの存在を完全に忘れていたのだ。こんな大量の贈り物を自宅へ持ち込んだら彼女はどんな反応を示すだろうか。なにより、自分の誕生日をアピールしているようで嫌だ。


「モーガン軍曹、代わりにもらってくれないか?」

「やなこった。女に恨まれたくないんでね」

「困ったな」

「ほいほい貰うからだ。お前さんは昔からそう、『来る者拒まず去る者追わず』」


 反論しようにも、腐れ縁のマシューはすべてお見通しなのだ。


「しょうがねえ。帰りは車で送ってやるから元気出しな」


 フェリックスは、好意をありがたく受けざるを得ないのが悔しかった。



 仕事が終わり、約束通りマシューに送ってもらった。ミシェルに口添えしてくれるかと思いきや、こういうときに限ってさっさと帰ってしまった。

 紙袋を両手に提げて呼び鈴を押すと、すぐにミシェルが玄関を開けた。


「お帰りなさい」

「ただいま。今日は荷物が多くてな」

「ほんとだ。すごいですね」

「話せば長くなる。とにかく家に入るぞ」


 この中で一番軽い紙袋をミシェルに渡してリビングへ行く。やっと落ち着いて、フェリックスは今日の出来事をミシェルに話した。


「たいちょーさんは人気者ですね」

「そう思うか?」

「はい。好きでもない人に贈り物はしません。みんなたいちょーさんが大好きなんですよ」


 ミシェルがそう言うならそうだろう、と根拠のない仮説に一人納得する。


「そもそも私の誕生日は・・・・・・」

「来週ですよね」

「知ってたのか?」

「はい。さきほどクリスさんがいらっしゃって」


 責任を感じたクリスが事の発端を急いでミシェルに伝えに来たとのことだ。


「本当の誕生日はごちそう作りますね」

「別に催促しているわけではないからな」

「わかってます」


 ふふふと笑ってミシェルはプレゼントを開けるのを手伝った。そんな彼女の横顔を見てふと思う。

 お前はどんなプレゼントをくれるのだろう・・・・・・。いや、すでに貰っているか。おミシェルという最高の贈り物を・・・・・・。


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