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プロローグ
あれはしとしとと秋雨が降る日のことだった。
彼女は雨宿りする場所もなく、ずっぷり濡れて道の片隅にうずくまっていた。
空腹と寒さで思うように動けない彼女に、人々は一瞥だけを残して通り過ぎていく。
一瞥するだけならまだましで、なかには存在すら気付きもしない人もいた。
ふと雨の雫が落なくなったので見上げると、一人の男性と目が合った。
紺の軍服を着た彼がしゃがんで傘を差し伸べる。
自分が濡れるのも気にせずそっと傘を立て掛けたのち、鞄から取り出したパンを目の前に置いた。
彼女がじっと見つめていると、彼が頷いたのでそれを合図に夢中で食べ始めた。
やがて、大きな手で彼女の頭を撫でると立ち上がり去っていく。
彼女はその広い背中を一生忘れない。
何故なら、生まれて初めて知った人の温もりだから……。
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