表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/6

王子がうまれたみたい

 青竜を追い払ってから、どれくらい経っただろう? 相変わらず竜になってから時間の感覚がつかめない。でも、人間たちの生活がだいぶ変わったのを見ると軽く100年くらい経っているのかも知れない。


 その間、国ほど大きくなった人間たちの住処へ他の場所からたくさん人間が来るようになった。というか、どこからか人間たちが国へ移ってきているみたい。移民のようなものかな。それでどんどん人が増えて、森の中で存在感がハンパなくなってきている。国が森を侵食するように広がり、遠くからでも人間たちの住処の大きさが伺えるくらいだった。

 

 国へ移ってくる人間たちはみんな、大きな荷物を背負っている。私は彼らが一体どこから来るのか気になった。なので、ちょっとひとっ跳びして後をたどってみた。



 人間が作った道に沿って飛んでいくと、海に出る。その海辺に大きな港町があった。船がいくつか海に浮かんでいるのを見ると、海の向こうにもなにかあるのだろうかとワクワクが止まらない。やばい、冒険心が湧きあがってくる!


 でも、私の趣味(人間観察)を長時間お留守にするわけにはいかない。ちょっと外遊びして戻ってきたら、人間たちが竜に襲われてたとか笑えないから。そんでもって絶滅していたらもっと笑えない。


 なので私は港町をちょっと見たらすぐに帰ることにした。お約束というか、私が飛んでいると港町の人間がパニックになっているのが分かる。やれやれ。


 ――ん?


 私は竜の本能というか動物の直感でなにかを感じ取った。すごく嫌な予感。


 それは当たった。港町から爆発音と共に黒い小さな玉が飛んできたのだ。絶対に中に火薬が入ってる。私はそう確信してなんとか避けたけれど、次々にそれが飛んでくるものだから私は逃げるしかなかった。



 人間、恐るべし。



 ああやって竜から身を守っていたんだな。そう、分かっているけれどなんかちょっと寂しい。そう思う私は変なのだろうか。


 でも、仮にあの港町から移民が来てるとして、それは一体なぜなんだろう? 竜(私)を追い払うだけの力があるんだから、竜以外の理由があるのかな。生活のルールが厳しすぎたりして。


 色いろ考えたけれど結局分かるはずもなく。私は港町を後にした。


 実は私のせいだったなんて知るのは、もう少し先の話・・・。





 港町から戻ってきて、いつものように人間観察をしていたある日。国の人間たちが大騒ぎしているのに気付いた。どうやら王子様が誕生したらしい。


 え? なんで分かるのかって? ふふふ、人間の言葉を盗み聞きするうちに、人間の言葉を覚えてしまった・・・なんてチート能力があるはずもなく。単にお城で王様らしき人が男の赤ん坊をお披露目しているところが見えただけだ。


 お祭り騒ぎしている人間たち。いつもと違う国のようすに、私は興味を引かれた。何に興味を引かれたかというと、国中に飾られた見たことのない「花」にだ。


 ここら辺ではお目にかかったことのないそれらの花たちは、きっと他国から運ばれてきたに違いない。じゅるり・・・すごく美味しそう。



 でもこの姿ではお花を手に入れるために、人間たちを襲わないといけない。これはもしや・・・襲うフラグ!!!



 あれ、なんかどっかから冷たい目線が来てる。うん、やめよう。でないとこの物語終了しちゃう気がするし。大した山もなく「BAD END」を向かえそう。

 

 それに、せっかく国になるまで人間を守って来たんだから壊すのはもったいない。


 なので私は頑張ってお花を食べる方法を探した。寝る間際も考えて、ご飯の合間も考えて。洞窟へ帰ってきたとき、ふと足元に咲いている白い花が目に入る。その白い花を見ながら思う。国へ竜だとバレずに行く方法は実はこの時点でもう出ていた。「人間」になればいい。その人間になるために、この白い花が使えるんじゃないかと私は考えていた。



 では、どうやって人間になる? この世界には魔法に似たなにかがある。私が口から火が出せるのは何故? この巨体で普通に空を飛べるのは何故? 全部、魔法のようなものが関係しているんじゃないかと私は常々考えていた。こう見えても、意外と考えてるんだよ。暇な時間が多いから。



 ふっと一本の白い花に息を吹きかける。ふるふると小刻みに震えたその花は、私の目の前でポンッと人間の形になった。

 白い花だからか、白いワンピースと白い肌、白い髪をしていた。今は目を閉じているので分からないが、たぶん目も白いのだろう。私は意識をその人間の形をした何かに移そうと眠りに入る。


 すぅと目を覚ました瞬間、目の前には丸まって眠る白い竜がいた。




 *・*・*・*・*



 遠くでしか見られなかった人間たちの国のようすが、こんなに近くで見られるなんて。本当に不思議な気持ちだった。


 私は今、お祭りのど真ん中にいた。もちろん、人間の姿でだ。人間たちは通り過ぎざま、私を不思議そうに振り返るが、私は気にしない。人間たちの国に、花に夢中だったからだ。レンガ作りの街並みが永遠と続いて、家々は色とりどりの花々で飾られとても美しかった。国中に良い花の香りがする。なんて楽園なんだろう。痛い思いをしてまで、竜から人間を守ってきて本当によかった。



 幸せな気分で街中を歩きながら、こっそり家に飾られた花たちを食べていると大きくて立派な城が見えてきた。白い、美しい城だ。気になったのは、さっきから町中で同じデザインのエンブレムをよく見かけるということ。そのエンブレムは城にはためいている旗と一緒で、驚いたのはそのデザインに白い竜の姿が描かれているということだった。


 白い竜ってもしかして、もしかすると私? 私以外に白い竜を見たことがないから、きっと私なのだろう。私がこの国を竜から守っていたから? 自分の知らないところで、いつの間にか国旗にされていたら驚くよね。ていうか、その前に遠くからでもエンブレムに気づけよ。赤ん坊の性別くらい分かったのなら国旗にも気づくだろうに。私は自分にちょっと呆れた。



竜の考えている少しと、人間が考えている少しはかなり差があります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ