強くなったみたい
私の名前はアトラス。この町を代表する者だ。先日、私たちの町へ竜が2頭も襲って来たが私たちはいま何事もなく生活している。
ありえない。2頭がやってきた日、去って行ったあの白竜を見ながら私はそう思った。竜は私たちを小動物としか思っていない。中には憂さ晴らしとしか思えないような竜の行為によって、多くの人間(仲間)が亡くなったのを私は目の前で見ているのだ。
町の人びとの多くは、白竜を救いの神として称えているが私はただの偶然だと思っている。幼少期のころから竜の行動を観察し、竜が気まぐれな生き物だということをよく知っているからだ。
なにはともあれ、今回はラッキーだったがまた次も同じことがあるとは思ってはいけない。私は町を竜から守るため、色々な考えをめぐらせた。
*・*・*・*・*
あー、痛かった。けれど心はスッキリ!!
自分の大切なものを守れたことと、初めて竜に戦いを挑み勝ったという事実が私の自信につながっていた。
きっとそれがあったから、次に別の竜(今度は青い竜だった)が人間たちを襲ったときも、勇んで戦いに行けたんだと思う。
前より大きくなった人間たちの住処は、周囲に石で造られた城壁が建てられ、襲って来た青竜に対して弓矢で攻撃していた。前はワーギャーしていただけなのに、人間もやるもんだなあと半ば関心する。
・・・・人間たちが頑張って戦っているのを見ると、邪魔しちゃ悪いかななんて思っ・・・いや、やっぱり絶滅しそうだから戦いに行こう。
ったく、どいつもこいつも、竜ってのはちっちゃい生き物を襲うことに快感でも見出してるのかね。分からんでもないが。
口の中で炎を溜めながら、人間を相手に夢中になっている青竜にぐんぐん近づく。相手が気づいてこっちを向いた瞬間に、私はありったけの炎を吐き出した。モロに顔面に炎を受けて青竜はギャウゥ!!と悲鳴を上げるけど、そこで逃がすほど善人(竜)じゃない。私はとどめの一撃と言わんばかりに空中とび蹴りを相手の腹にぶちまかした。
突然の連続攻撃にうろたえた青竜は、頭をしっかりさせようと首を振った。ギロリと私をにらむと、グルルルと凶暴なうなり声を空に響かせる。
はんっ! 私だって怒ってるんだよ! 私のかわいい人間たちを殺すんじゃない!!
ちょっと人間たちに情が出てきた私は、そういう想いを込めてうなった。
グルルァァー!!!
叫んで気付いた。あ、人間たちの耳のこと考えてなかった。鼓膜とか破れてないと良いけれど。
相手の青竜は驚いたように目を見開いている。
なんだろう。段々と私を変なものでも見るような目になってきたぞ。そりゃ、他の竜に比べれば――元人間だし――変だろうけれど、失礼な竜だ。
その後、よく分からないうちに青竜は去って行った。
なんだ、結局戦わないんかい。最後までよく分からない竜だったなあ。変なのはあっちじゃん。いや、私が強くなったのかもしれない。
下では人間たちがワーワー騒いでいる。私はそれが歓声だと知らず、てっきり自分への悲鳴だと思い早々に帰ったのだった。
*・*・*・*・*
信じられない。青竜に襲われ、もうダメだと思った瞬間に現れたのはかつて黒竜を追い払ったあの白竜だった。しかも、耳が壊れるほどの咆哮を上げてまた竜を追っ払い、そして白竜は我々に見向きもせず去って行ったのである。
私は疲れ果てた兵士たちをねぎらい、一人静かに部屋へ戻った。
あの白竜の存在が分からない。何故、我々を守ろうとする? いや、そうと決まったわけではない。ただ、白竜の縄張りの中にたまたま我々がいたというだけで、白竜は縄張りへ入ってきた竜を追い出しただけ。分からないのは、攻撃的な白竜がなぜ我々を襲おうとしないのか。やはり、小動物としか我々を見ていないのか?
私は答えが見つからず頭を抱えた。それもそのはず、答えは白竜しか分からないからだ。
しかし、もし私の考えが当たっているとすると、この土地はなんと安全な土地なのか。他の竜を全て白竜が追い払ってくれるのならば、そして、我々には一切関心を持たないのであれば・・・。竜をなにより恐れる我々にとって、これ以上ない安住の地ではないか・・・!?
外では国民たちが喜び、興奮したように歓声を上げている。白竜を崇めているような声もした。
ガチャッ
「アトラス王!! あの竜は一体・・・!?」
若い大臣の一人が、扉をノックせずに入ってきた。よほど急いで来たのかひどく息を切らしている。
私はハッキリと「分からない」と答えた。
そして私がお前のようにまだ若かったころ、かつてこの土地へ襲ってきた黒竜を同じように白竜が追い払ったという話をした。大臣は当時、まだ生まれていなかったためその話を聞いてひどく驚いていた。
「ただの作り話だと思っていましたが、本当だったとは・・・。その白竜と先ほどの竜は同じだということですか?」
「おそらく・・・な。私も戸惑っているのだ」
コンコン
だが、次に部屋へ入ってきた人物を見て、私と大臣は息を飲んだ。全身、白い服で覆われ手には頭ほどもある木の杖を持つ、老女がそこにいた。
彼女はこの国へつい先日、訪れた魔術士である。この世界には魔法を使う者がたまに生れ出る。その者たちは魔術士としてこの世界を導く役割をしていた。
魔術士は私の顔を見据えて、白竜について言葉を吐いた。
「あの白い竜はこの国を守護するため天が遣わした神竜じゃ。じゃがアトラス王よ。神竜といえども、竜は竜・・・。完全に信用してはならぬぞ」
私はうろたえた。この老女の言うことを真に受けていいのか?
私は魔術士に言う。
「だが、国の者たちはすっかり白竜を神聖なものとして崇めている。無理もない、あの竜には二度も救われているのだから。そんな白竜を信じるなと私が言えば、国民は私に刃向ってくるだろう」
「ならば、この国の支配者である王が信じなければいいのじゃ。そうすれば、いざあの白竜が裏切ったとき適切な行動が出来るじゃろう」
国民より私はあの白竜を信用していなかったため、老女の提案を受け入れた。そして私はその話を次の後継者である息子に伝えていくことで、この国を竜から守ろうとした。




