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竜になったみたい


 目が覚めると、そこは一面の白い花畑だった――。



 あれ? おかしいな・・・さっきまで――ん? なんだか前の記憶があいまいで思い出せない・・・?


 私は周りを見渡した。洞窟の中にいるらしく、周りはごつごつとした岩肌に囲まれている。けれど、天井のにかすかな隙間があるおかげで、一筋の光が降り注いでるおかげで暗くなかった。


 ん? なんだろ、アレ。


 少し離れたところに両手で抱っこ出来るくらいの大きな“卵のカケラ”を見つけた。近づいてまじまじと見つめる。


 なんだろうコレ? ・・・アレ? なんか私より大きくない?


 よくわからないが、意外と自分がすっぽりと入りそうなくらい大きかった。生まれたばかりなのか、まだカケラの内側が濡れている。


 えー、ついさっき何かが生まれたの? なんか怖いなあ、怪物だったらどうしよ・・・。



 ぐぅぅ・・・。


 考えたらお腹が鳴ってしまった。


 なにかないかとキョロキョロとまた見渡すと、小さな水辺とその周りに咲く白い花畑が目に入る。



 ぐぅぅ・・・。



 とりあえず、お水でも飲もうっと・・・。


 私はそう考えると、のそのそと小さな水辺へ歩いて行った。なんだか、いつもより視点が地面に近いなと思いながら。ひょっこり顔を水の上に出して、大きな口でお水を飲もうとする。



 ん? “大きな口”??


 すると、揺れていた水面が静まり自分がそこに映し出されて、私は目を見開いた。


 グオオオオオオ!?


 大きな怪物の鳴き声が周囲に響き渡る。


 私は、何故か小さな竜になっていた――!?




 そんなこんなで、元人間だった私は何故か竜の姿に生まれ(?)変わっちゃったみたい。あの卵も、私のだったのかも?


 現在、私は水辺に咲いていた白い花をムシャムシャ食べている。


 だって他に食べられるものがないんだもん。でも、意外と花っておいしい。


 それと、最近、なんだか体が白くなった気がする。前の色、なぜか全然覚えてないけれど。なんでだろ? 白い花ばっかり食べてるからかな?


 花はくさるほど咲いているし、水も湧水なのかいくら飲んでも減るようすがないので実に快適な日々を私は過ごしている。花ばっかり食べていたからか、最近、草やコケには全くといってもいいほど食指が動かなかった。花に完全にハマったのかも。


 元来、なにかに一度はまるとそればかり食べたり、熱中してしまう性格なので私はそれについてさほど不思議に思わなかった。


 上を見上げると、空ではなく茶色の岩が覆いかぶさるようにこちらを見下ろしている。かすかに天井に裂け目があり、そこから太陽の光がちょうど水辺に降り注いでいた。そのため、洞窟の中でも生き生きと花が咲いているのだ。何故か、白い花しか咲いていないが。もっと色んな花を食べてみたい、そう思った私はとうとう洞窟を出ることにした。



 背中に目はないが、身体を動かすと背中に生えている何かがチラチラ目に入るので、私は自分に翼があるんじゃないかと踏んでいる。まあ、竜だし。口から火が出るし。飛んでも不思議じゃない。いや、そうではくては困る。だって、ここから出なきゃ他の花が食べれないんだもん。

 

 私は天井の唯一の裂け目に向かって、背中の何かを広げた。背伸びの要領で広げたものを確かめようと、水辺に身体を突きだすと、確かに“それ”は翼であるようだった。その翼を上下に動かしてみる。意外とスムーズに動いたし、すぐにでも飛べそうな気がしたので私は裂け目に向かって飛んでみた。


 風圧で花びらが洞窟中に舞う。


 私は飛んだ。


 ぐんぐん裂け目が近くなり、ポンっとはじかれたように外の世界に飛び出す。とたんに目の前に広がるのは果てしない緑の世界だった。出た場所が山のてっぺんだったらしく、外の世界が一望できる。見渡す限りの森、森、森・・・と、山、山、山。


 大自然! と名前が付きそうなくらい、そこは緑豊かなところだった。



 出てきた裂け目の近くに、ちょっと盛り上がった場所があったのでそこへ降りて休憩する。ふと、足元に爪の先位の小さな花が咲いていた。すみれ色のその花をパクリと食べると、白い花とはまた違った甘さでおいしい。他にないかとキョロキョロ探してみると、転々と色とりどりの花が咲いていた。地上に出てよかった・・・!


 幸せな気分でのんびりムシャムシャ食べながら、壮大な景色を眺める。すると、遠くの山と山の間に、巨大な竜が飛んでいるのが見えた。


 自分より遥かに大きいその竜は、身体が黒くてすごくいかつかった。他にも私の仲間がいるのかなあ、とぼーっと考え、いつの間にか竜に染まっていってる自分に気付く。元人間の私はどこにいったんだ。でも、まあいっかと私は深く考えるのを止めた。




 *・*・*・*・*



 私はその日から、あの洞窟を拠点にして少しずつ外へ出かけるようになった。もちろん、目的はいろんな花を食べることだ。


 もうこれくらいになると、自分が花を食べることに違和感なんて感じなくなってくる。竜の本能にどんどん近づいているのか、自分が元人間だったこともなんだかどうでもよくなってきた。私はこのまま竜として生きるんだーなんて思えちゃう。


 これが「慣れ」っていうものなのかな。え? ちょっと違う?



 でも、不思議なことに、どうでもいいやと思いつつもどこか意識の片隅で自分は元々、人間だったっていう記憶が残ってるから、どこか竜になりきれなかった。生き物を殺して肉を食べる竜じゃなくてよかったとか、お花を食べるのも花がかわいそうだけれど、生き物の肉を血をしたたらせながら食べるよりマシだと思うのも、私がやっぱり人間を捨てきれない証拠なんだと思う。


 でも、まあ自分が人間じゃなくなった以上、人間を捨ててありのままの姿で生きた方が楽なんだろうけれど。世の中、上手くいかないなあと思いながら今日も竜として生きていく。





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