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獣のテュラノス  作者: sajiro
孤独のバルフ/虎王編
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襲撃と闘争

「亜龍はヒトを喰う」

「マジか……」

 想像して吐き気がした。

 常に隣に龍がいる新野にとって、それは悪夢のような事実だが、考えてみればなんの不思議もない。

 現代でもそれはよくあることだった。

 野生動物、一般的に愛玩用ではない動物は、誰しもその可能性をもっていた。

 新野の職場でも、世界中の同業者で「事故」があった場合すぐ情報の共有化がされる。

 肉を食べたかはわからないが、かみ殺される、ということならそんなに珍しくない。

 動物園でそうなのだから、野生下では尚更だろう。

 動物はヒトも当然肉に見えているのだ。

 どんなにがりがりで美味そうに見えなくても、目の前を動いたら攻撃対象になる。

 そして味をしめたら、人間など通常の餌よりも狩りやすいに違いない。

 納得できるな、と頷くのは新野が職業柄少し一般の捉え方と違うせいかもしれなかった。

「まあそれで準備してるってのはわかったが。で、虎王はどうしたんだ?」

 眉根を寄せて床板を見つめている三条を見る。

 ロクが苛立たしそうに指でその床を打った。

「貴様の問題だ、貴様で答えるべきであろう」

「俺、あの子どもたちに裏切り者って言われたんだけど、それと関係してるのか?」

 三条ははっと顔を上げた。

「そのようなことを……」

「二年前に村から裏切り者が出て、とも言ってた。それで龍が攻めてきて纈は怪我をして眠っていたってな」

「申し訳ありません……」

 うなだれた後、顔を上げた三条の瞳には強い光が戻っていた。

「裏切り者とは、亜龍に組した者のことです。つまり、私の、王のことです」

(虎王が……!)

「虎王は今は、バルフの端に残る旧遺跡、亜龍の住処である大聖堂にいるようです」

「そっか、感じるんだ。じゃあ纈の怪我ってのは」

「虎王様……いえ、虎王が私の活動を停止したものと」

 そんなことができるのか、と隣の龍王を仰ぐ。橙の眼は三条を静かに見据えていた。

「でもだからって自分の王を倒すなんて、できるのか?」

「……」

 三条はそれには答える気は無いらしく、口を開こうとしなかった。

 その時ぴんと頭に糸が張り詰めたような感覚が新野に生じる。

 そしてずん、と地響きが一度。

 そう遠くない。

 三条が横ですかさず立ち上がった。

「ロク、村は頼んだ」

「心得た。隠れる日々はもう来ないと、約束しろ」

 鉢巻を結び直した三条の凍える目は細くまるで笑っているようだった。

「約束しよう」

 重い音とともに槍を持ち上げる。

 刃先が鎌のごとく湾曲した、禍々しい刀身の大槍を抱え、三条は建物を出た。

「俺達も行こう」

 龍王とともに続いた新野の背中に、ロクの声がかかる。

「ユハタの邪魔だけはしてくれるなよ、客人」


 村の外、森は既に陽が暮れていた。

 三条が追いついた新野を一瞥する。

「この気配の無さ、おそらくは星装龍の末弟である長首龍です」

(長首龍ガルバネンラ。姿を消すことができるんだ)

「それって無敵じゃねえか」

「そうでもありません。視覚的に消えるだけであって、そのものはそこにある、森の中ならば見失うことはない。名前にもある通りかなり大きな体なので」

「もしかして、夢で見た相手か」

 三条は夜の森から目を離さず頷いた。

 あの夢の中では三条は虎王と一緒にいて、新野から見ても敵対する仲には見えなかった。

 それがどうして今は敵となってしまったのか、と消えない疑念にとらわれていると、

「長首龍であれば襲撃というよりも偵察の意が強いでしょう。襲撃ならばその兄に任せることが多い、龍王様、新野様はおさがりください」

「え、お前ひとりで相手するのか? 王もいないのに」

「何度か戦ったことがあるのでご安心を。お二方の実力をさらすのはまだ早いでしょう」

「いやだからってなあ」

 刹那、新野は声を止めた。

 また空気が張り詰める。

 音もなく三条がその場を離れて、森の闇に溶けていった。

 その背中に声をかけることもなかったのは、全く三条が恐れているふうがなかったからだ。

 堂々たる様に戦い慣れている雰囲気を感じる。

 そこからは新野たちはただの観客だ。

 ただ一度だけ、地響きとともに大量の土が離れたところで宙に舞っていた。

 発声器官を持たない長首龍相手では、静謐なる戦いだった。

 森の中を巨大ななにかが這いずっている。

 それも数分後にはおさまった。

 暗闇の中に目をこらしていると、藪をかきわけて大きな影が出てくる。

「あ……」

 槍を抱えた三条だった。

「お待たせいたしました」

 そう言って爽やかに破顔する彼は全身土まみれで、顔も茶色に汚れていた。

「無事だったか」

「はい。しかし仕留めることかなわず、逃げられました」

「いやいや仕留めるって……」

 少し呆気にとられつつ三条に近づいた新野は体を固める。

 甲冑を覆う泥は、ぬらぬらとする液体に濡れ光っていた。

「お前怪我してる!」

「ああ、いえこれは相手のものです」

 たしかに暗くて、その液体が赤いのか青紫色なのかはわからなかった。

 慌てた新野に三条は何事もないように笑う。

 ほっとしたのもつかの間、冷やりと感じるものがある。

「戻りましょう、新野様。今夜はお疲れでしょうから私の家に。ああ、私の家がまだあればの話ですが。龍王様のような大きな方も入る家はそうないのですが」

(ヒト型じゃなく寝るのは久しぶりだあ)

 にこやかに語る三条と龍王から一歩遅れながら、新野はあるものに気が付いた。

 それがさらに心の冷ややかな部分を増長させる。

 三条が脇に抱え、天に向かっている槍の穂先から、なにかぶらさがっている。

 肉片だった。

 こいつもか、と内心想う。

 穏やかで優しい顔をした人間が、平然と傷害行為を行う。

 その行為が悪とは思っていない。新野自身も行うからだ。

 ただ新野は思い出す。

 人間の本心が謎に満ちていることを。優しさとはいったなんなのかということを。

 笑う三条の横顔は全く悪意とはかけはなれたものだったが、その身を纏う血の異臭に新野は眉根を寄せた。

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