表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
獣のテュラノス  作者: sajiro
孤独のバルフ/虎王編
83/147

降り立って迷子

『行け!』

 最後の亜龍を体当たりで止めて、カラスの王がそう叫ぶ。

 勢いを殺さず龍王は空中の島へと飛び込んだ。

 木々の海へと巨体は落ちていく。

 強引な突入なため、森の穴を探している暇は無い、葉と枝が龍王と背中の新野を荒く歓迎する。

 緑がぶつかっていく騒音に包まれ、肌を裂かれながら落ちる。

 唐突に地面が現れ、冴龍の後ろ脚が轟音とともに滑り込む。

 何本もの木と衝突し、胴体着陸の衝撃は終了した。

 背から飛び降り、倒れる龍の鼻面に駆け寄る。

「おい、大丈夫か?!」

(もちろん)

 答える声はいつも通りの笑いを含んだもの。

 長い首を上げ、龍は鼻をひくひく動かす。

(どうやら無事着いたようだけど、移動しよう新野)

「ああ」

 龍は体を起こし四足で歩こうとする。翼を垂らし狭そうに身をかがめたまま。

「お前、その姿のままじゃ大変だろ。ヒトになったら?」

(それが何故か、できない)

「え、できないの?」

 困ったように龍は、ぴいと鼻を鳴らした。

(うん)

「うんじゃないだろ。落ちてくる時どっか痛めたとか? 大丈夫なのか」

(いやあ、不思議と嫌な感じではないから大丈夫だろう)

「……のん気だよなあ、お前ってほんと」

 尾をひきずりながら、龍はずし、ずしと歩を進めていく。

「せめてもう少し小さくなったらどうだ、大きさ自在なんだろ?」

(だってそうしたら鞍を持つのは新野だぞ、これ重いぞ)

「それくらいなあ」

(それに亜龍が降りてきたらどうする。またすぐ飛べるほうがきっといい)

「う……。そうだな、わかったよ」

 にべもなく新野は進む龍王に並んだ。

 森の中は明るい。

 ザルドゥの深い新緑とも違う。トロントの整然とした森とも違う。

 おとぎ話の中の森のようだ。木々が一本一本離れてたち、間から陽光があふれている。

 高低差がなく地面はふわふわした草原になっている。

「カラスの王たち無事だといいけど」

(無理はしないし、みんなタフな奴らだから)

「まあお前が参戦をお願いするってことはそうだよな」

 小鳥の声や風に通る音がゆっくりと過ぎていった。

「しかしなんつーか、別世界みたいだな。ここ浮いてる島なんだろ。どういう理屈?」

(龍が飛べるんだから、島だって飛べるよ)

「お前に聞いても答えは出ないと思ったけどさ……」

 少し進んだが穏やかな景色は変わらない。

「虎の王はどこにいるんだ?」

(さあ。臭いを追おうかと思ったけど、どうも僕はそういうのは得意じゃない。まあそんなに広くない、いずれは会えるさ)

「ウソだろおい……」

 龍王の提言に呆れてものも言えない新野は、肩を落す。

 草を踏む歩を止めた。

「なあ、なんかここ、さっきも通った気がする」

(そうなの?)

「……」

 よくよく地面を見ると、横にまっすぐ線をひいたような跡がある。

「これ、お前の尾の跡だ」

(おお、ほんとだ)

 龍王は後ろを見て今しがたついた自分の痕跡と、眼下に真横にあるものを見比べた。

(たしかに。でもどこかでまわってきたかな)

「迷ってんじゃねえかよ。あー、じゃああれだ、まずは水を探すか。音聞こえないか?」

(聞こえない)

「俺もだ。飛ぶのは最後の手段だな、とりあえず別の方角に行ってみるか」

 そして十数分歩いて再び見る光景に、新野は閉口した。

 また、龍王の尾が十字になっている場所にたどりついたのだ。

 これは、おかしい。なにか変だ。

 猜疑心が胸をざわつかせる。

 歩いて来た道のりで前方に尾の跡など無かったのに、気が付くとそれが十字になっている。直角なら新しい道を通ってもたどることはあるかもしれないが、十字はありえない。

「ここに、なんかあるんだ。この場所がなにかの起点になってる」

 新野はきょろきょろと辺りを注意深く見やった。

(新野、これって)

 龍王が鼻先で示すのは、新野の頭よりひとつ高い位置、樹木についた傷だった。

 鋭利ななにかで切り裂いた跡に見える。

 背筋をひやりと冷たいものが通った。

「マーキングだ、ナワバリの。誰かの敷地に入ってるんだ、俺達は」

 それは木の半ばまで深く裂かれた、巨大な爪の跡だった。


◆◆◆


 本名はザルドゥ首都があまり好きではなかった。

 住民は粗暴な者が少なくなく、静謐や平穏を好むものには住みづらいことこの上ないはずだ。

 通りは雑多な種族の者であふれ、そこかしこで騒ぎが起きる。

 その点病院はまだ良かった。

 入場すると空気はしんと静まり、ニンゲン用の病棟に行けば一段とその予定調和のような穏やかさが舞い降りる。

 受付を通して、目的の人物の病室へ向かう。

 四人部屋の、窓に面したベッドに腰掛けている男を見つけた。

 四十代程の男は小柄で壮健そうな顔つきだが、左膝を包帯で巻いていた。

 声をかけ軽く挨拶をする。

 はじめ警戒した様子だった男は、本名が新野の知り合いだと聞いて破顔した。

「そうか、あんた新野の友達か。いやこれは失礼しました、私はあいつの元同僚です」

「ええ、彼からお話は聞いています。良い上司だと」

 何食わぬ顔で嘘をつく。

 正しくは新野からではない、新野がザルドゥの鹿に話していたことをそのまま鹿から聞き出したことだ。

「いやいやそんな。あいつは元気ですか? この街にいるんでしょ? 落ちてきたときに痛めた膝だが、ずっと寝ているわけにもいかない。そろっと病院を出たら一度会いに行こうと思ってんですよ」

「元気ですよ。過ぎるくらいに」

「はは、そら良かった。おっと失礼、なにか用がおありなんですよね?」

 少し薄くなった頭を撫でながら、男は本名に向き直る。

 柔和な笑みを浮かべて、本名は切り出した。

「少し彼のことについて、聞きたいことがあります」

 眼鏡の奥の瞳はあくまで穏やかだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ