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獣のテュラノス  作者: sajiro
孤独のバルフ/虎王編
82/147

VS星装龍ヴァンサント 2

 まっさかさまに落ちていく。

 しかし覚悟していた地面の固さでなく、受け止めたのは羽毛のそれ。

 途端風に乗った新野は、驚いてその体にしがみついた。

「あ、あんた……!」

『ひとつ貸しだな龍王のテュラノス』

 笑いを含んだ低い声が聞こえる。

 巨大な六枚羽が羽ばたいた。

 新野はカラスの王の背中に乗っていた。

「あんたどっから入ってきたんだ?!」

『勘違いすんな、ここには入り口も出口もねえよ。お前には俺の羽をつけといた、一枚でもあればそれあ俺自身と同等だ。この世のカラスの全てが俺様だ。こんなふうに、な!』

 初めて味わう感覚が襲う。

 強烈な引力がほんの一瞬。

 視界は変わっていた。龍王が触れるほどの近くにいた。

(新野! よかった、さすが銀だな!)

 並んで飛翔する龍が喜ぶ。

「なんで龍王が、あんなに離れてたのに」

『だからこいつにも俺の羽をつけてたんだよ、それがあればそこに現れる、カラスなんてどこにでもいるもんだ。いつまで乗ってる、そっちに移れ』

 わざと体を揺するので、急いでカラスの背中から龍王のもとへ移動する。

 ヴァンサントは平然と宙に待機している。じっと動かない。

「あいつ休んでるのか、さっきのを何度も起こされてたらやばかったな」

『馬鹿言えそうそうできるか。星を見てみろ』

 空間の星は三分の一は減っている。

「爆発させれば消えるのか。龍王の攻撃を避けた時、一瞬で動いたのも星を移動した? あんたみたいに」

『だとしたらどうする?』

「さあな」

 新野は敵を見据えたままにやりと笑っていた、彼自身も気づいていない好戦的な笑みだった。

「あっちは一体、こっちは二体だ」

(加えて一人)

「俺?」

(それが相手との大きな違いだ、考えがある)


(君がオフェンスだ)

「おいおいおい、マジで言ってんのか」

 その時ヴァンサントがゆらりと動き出した。

(やろう。そう時間はないぞ)

『おい来やがるぞ、さっさとしろ』

「で、でも」

『じゃあ殺されたいのかそうでないのか言えよ、どうせそれで決まりだ。お先だ馬鹿野郎!』

 羽を散らして大鴉が飛ぶ。

 カラスの王は亜龍と正面から対峙する。

 吠えたヴァンサントが後ろ脚の鉤爪を振り上げた。

 鳥は急制動して爪を回避、同じく三本足の爪をすれ違い様にかすめる。

 鋭利な爪先によって亜龍は肩を切り裂かれる。すぐさま自然治癒が始まるが、ヴァンサントの怒りは激増する。

 鳥の動きよりはるかに勝って大きな口が、黒い翼を襲う。

 牙は勢い良く噛み合い、空気を噛み砕いた。

 瞬時に飛翔する龍王のもとへ鴉が帰還した。

 その鴉を追い抜いて冴龍が激しく飛び抜ける。

(僕の大振りな攻撃は瞬間移動で避けられる。でもこっちだって今ならそれができると思わないか)

「悪いが今は、なんも考えられないな」

 緊張が全身を覆っている。それに支配されないようわざと声を張るが、新野の声が頼りない。

(大丈夫大丈夫、ほら深呼吸して!)

「馬っ鹿お前そんな余裕無いって!」

 敵の頭上を飛翔していた二人の前に突然ヴァンサントの巨体が現れた。

 声を上げる間もなく龍王が滑空する。すぐ上を星が散らばった長大な尾が通過していった。

 反転、急激な重圧とともに龍王は上昇。

 鞍に足を乗せ、片手はハンドルから離さない。

 新野は歯を食いしばり、片腕を伸ばした。

 腕甲から水晶が形成され、尖った刃となる。

(振りぬけ新野!)

「うおお!」

 豪速ですれ違う。新野の刃は青紫に濡れていた。

 亜龍の血の色に一瞬気をとられた。

(跳べ!)

 龍王の声にはっとして鞍を蹴った。

 眼下で龍王と、体当たりをしてきた亜龍が絡み合っている。

 星空を落ちる新野は瞬間現れたカラスの背に着地した。

 大鴉は最高速度で亜龍の背に向かう。

 勢いを殺さず新野の刃がヴァンサントの尾を斬りつけた。

 怒号を上げ尾が振るわれる。

 辛くも避ける鴉。

「刃が小さすぎる! すぐ回復されて終わりだ!」

『だったらどうにかしろ!』

 ヴァンサントの姿がかき消え、距離をとった空間に現れる。

 その龍のもとに星々が夜空を流れ集合していく。

「やばい、あれだ! 超新星!」

 新野の焦燥の声を掻き消して、轟音が鳴り響いた。

 本来の巨躯に姿を変えた龍王が、空を震わせる声を上げていた。

 先ほどの倍になった青白い燐光が三つ出現する。

 渦を巻いた爆光が間断なく射出される!

 星装龍はその光に照らされ、すぐさま姿を消した。

 集合していた星は飛散。

 標的のいなくなった光の柱が夜空を真っ白に照らす中、移動したヴァンサントが現れる。

 その背後で新野は鴉の背中から飛び降り、刃を振り仰いだ。

 コートが変貌した大剣が星の光を反射する。

 その刃を水晶が包み込み、体積はもはやヒトが持つに不自然なほどの大太刀となる。

 一気に振り抜く。

 星装龍の大気をつんざく悲鳴が上がった。

 切断された尾が新野の真横を落ちていった。

「あ……!」

 その新野の真正面にヴァンサントの口腔が広がっていた。

 真紅の口内がよく見える。カラスの王の背中はまだ下にある、届かない。

 新野の頭はリンゴのように噛み砕かれる、その一瞬前、たしかに足裏が触れた。

 新野は全力でその足場を蹴る。

 巨大な水晶の柱が発生していた。

 龍王の援護のもと、新野はヴァンサントの頭上に飛び上がった。

「……!」

 集中しきって声は出ない。

 ただ力の限り、確実に敵の脳天めがけ振り下ろした。

 新野の動きを追おうとしていた龍の首が、重い衝撃とともに宙へ放たれる。

 胴体とは離れて。

 龍の血液が舞った。

 はじけるように空間を覆う星月夜が散り消失した。

 久方ぶりの陽光に新野の目はくらんだ。

 どっと龍王の背中に落ちる。

 鳥と亜龍の大群が遠まきに囲んでいる。皆空を落ちていく星装龍に目を奪われていた。

 輝いていた星の光は消え、くすんだ胴体と首は雲の向こうに消えていった。

(あれは因子だ、事象のようなものだから……)

 言葉も無い新野に龍王の小さな慰めの言葉がかかる。

 新野の手はまだ震えていた。首を落とした時の感触は残っていた。

『なにぼやっとしてる、今だ今! 早くしやがれ!』

 大鴉が龍王の横を猛スピードで抜けていく。

 龍王もそれをすぐさま追った。

 急な動きに鞍を慌てて握り締める。

『おらおらどきやがれ!』 

 大鴉に倣って鳥たちが龍王の道を開けるように亜龍たちを追い込む。

 バルフへの道がまっすぐ開き、龍王は飛び込んだ。

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