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獣のテュラノス  作者: sajiro
孤独のバルフ/虎王編
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VS星装龍ヴァンサント 1

 星を背負った龍はこちらを睨んだまま動きを止めた。

「動かないぞ?」

 鳥と亜龍の戦闘の最中をくぐりぬけながら、新野は訝しむ。

「あれが龍の記憶なら、ヴァンサントだっけか? どんなやつだ?」

(僕の因子じゃないから詳しくは知らない。だけど戦った記憶ならあるな)

「は? それっておまえの因子の龍が?」

(そう火龍がこいつとは天敵でね。そうだ、たしか獲物を必ず逃がさない――)

 ヴァンサントは唐突に体を宙で丸めだす、内に力をためるように。

「なんか……」

 空気が冷たくなっていく。

 伏せた顔から眼光だけがのぞいていた。

「おいおいおい、てことは火龍くらい強いってことで」

(本来の姿の分こちらの方が手強いかもな)

「軽く言ってくれるな! ――なんかしかけてきそうだぞ!」

(あれだ、新野。奴は自分の空間に獲物を引きずり込む!)

 星装龍の周囲が黒くにじんでいく。墨が溶け出すように周囲の色が変わっていく。

 それは急激に空を覆った。

「なんだこりゃあ!」

 瞬く間に新野と龍王をも闇は包み込んだ。

 鳥や他の龍の姿も無い、縮こまるヴァンサントと自分たちのみ。

 視界は転じて、輝きを帯びる。

 きらきらと光りまたたく星の海、あまりの綺麗さに息を飲む。

(星月夜。なんて綺麗な檻なんだろう……)

 ヴァンサントが上体を起こす。

 引きずり込まれた空間は、作り主の体表と同化してその眼光だけを浮き彫りにさせた。

 すっと亜龍は景色に溶ける。

「やばい! 見えないぞ!」

(落ち着け新野、流れる星が奴の軌道だ!)

 龍王が飛翔する。風圧が新野に加重を加えるが今はそれに頓着している暇はない。

 流れ星が急速にこちらに落ちてくる。

 それに向かって冴龍の尾が振るわれる!

 硬質音が響く。火花が散って流星は新野の上空をかすめていく。

 龍王が反転し平行に滑ると流星もそれに倣う。

 速度はほぼ同等。

(一撃が重い、次は受けられない!)

 敵の体躯はおよそ三倍。その体当たりをまともにくらえば体勢が崩れるのはこちらだ。

(新野、少し歯をくいしばれ!)

 言い終えたや否や龍王は翼を空に打ち付けた。

 ぐんと速度が増す。

 滑空してくる流星に対して直角に回避。

 通過する敵の横をとる。

 冴龍が星空のもと吠える。

 広がった両翼の周りに青白い燐光が輪となって発生する。

 燐光の渦から膨大な圧力を感じる。

 牙をむき出しにした咆哮とともに、爆光が射出された。

 直線の軌道上のもの全てを焼き払う光。

 しかし瞬間流星群が視界の端に転移した。

「なに?!」

 光の柱は空気だけを燃やし淡く砕け散る。

 左上に周囲の星が流れて集まっていく。

(まずい!)

 冴龍は急発進をする。

 集まった星が一斉に瞬き始め、様々な色に変わり膨れ上がる。

 その色は見たことがある。

 新野はぞっとした。

「超新星……?!」

 刹那、一生の最期を飾る爆発が起きる。

 目を開けられない爆光と肌を焼く熱、音が無いのが奇妙だ。星の集合体が四散し矢となって降り注ぐ。

「……!」

 声は光に吸収され、新野はとにかく鞍を握りしめたが、その時冴龍の翼に燃えた岩が激突した。

 龍王の体が回転する。

 龍王は背中から新野が振り落とされたことに声を上げた。

(新野!)

 収束していく光。

 降り注ぐ流星の中ニイノが落ちていく。

 すぐさま滑空しようとするががくりと体が傾ぐ。翼に穴が開いていた。

「や、やばい……!」

 星空を落ちる新野は離れていく龍王に手を伸ばす。

 体が冷える。

 恐怖よりも焦り。

 何故か今まで感じなかった死への恐怖。

(そういや俺飛べないんだった、何を今さら)

 強靭なテュラノスの体はしかし痛みを感じる。

 抗えない苦痛が一瞬後に来ることへの絶望がすぐそこまで来ていた。

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