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獣のテュラノス  作者: sajiro
孤独のバルフ/虎王編
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出撃

 トロントの観光地から離れたそこは、森をくり抜いた広場だった。

 鳥たちが発着場と呼ぶその場所に、昼過ぎになった今多くの巨鳥が集合していた。

 自分の身の丈にも匹敵する鳥たちの中、新野は所在なげにはしに立っていた。

 しかし目線はきょろきょろと興味深くせわしない。

(オウギワシにサルクイワシ、カリフォルニアコンドルまでいやがる。しかもみんな地上の二倍くらいでかいんですけど)

 この場にいるどの鳥も、翼を開けば5メートル程度はあるだろう巨体をさらしている。

 その巨体が革や鋼の兜や鎧、盾を装着して、威風堂々とした姿勢で待機していた。

 海岸や湖畔で休む鳥の群れよろしく、そう狭くない広場がとても狭く感じるほどに、巨鳥の群れが時を待っていた。

「あ、すんません……」

 カラフルな鳥の羽で飾った兜を揺らしながら歩くコンドルに道をゆずり、よけた先でワシの尾羽に触れてしまいまた謝罪する。

 そうこうしているうちに新野は森に半分体を入れている状態になった。

「ああ、新野みつけた。ってどうしてそんなことに」

「いや、いいんだ俺なんて……」

 茂みの中で膝を抱えていた新野の手をとって、龍王は無理矢理立たせる。

「なに言ってるんだ。それよりこれこれ! タクシー屋さんに借りてきた」

 じゃーん! と陽気に掛け声付きで、広げて見せたのは、革張りの鞍だった。

「これなんだよ?」

「だって新野、僕に乗る時苦労していただろう? だからこれをつけて、ちょっとは楽になるかと思って。くつわも欲しかったかもしれないけど、前回体験してやっぱりくつわはちょっと気持ちが悪かったから。今回は我慢してくれ」

「そんな……」

 新野はまざまざと過去覚えた感覚を思い出す。

 無意識であれ、新野は龍王に鞍とくつわを強要したことがある。自らの王を乗り物として利用したあの経験。今でも後悔している、どうしても申し訳なくて、無かったことにしてしまいたい。

 なのに目の前の少女はまっすぐ新野を見返した。

「勘違いするな新野。これがお互いの譲歩なんだ、僕は君を地獄に連れていく決断をした。だが君を辛いめにあわせたいわけじゃあない、だったら少しでもお互いが最善の選択をしよう。君はこれを使って僕に乗っていい、そのかわり落っこちるなんて無様な真似はするなよ」

 新野が納得しやすいように、龍王は命令するように告げて鞍を胸に預けてきた。

 もやもやした気持ちは晴れないが、龍王の提案を却下する意思は新野に無い。

 しぶしぶ受け取る。そして覚悟した瞳で王を見つめた。

「わかった、ありがとよ。俺は絶対落ちないから、あんたは自由に飛んでくれ」

「ふふ、その言葉後悔するなよ」

 少女はどんと鞍を叩き、頷いた。

 広場の鳥たちが不意に翼を震わせる。

 太い枝にカラスの王が降り立ったからだ。見事な六枚羽を折りたたみ、くちばしを鳥たちにむける。

 少し低めの鳴き声を頭上に上げる。それは同じテンポで繰り出され、断続的に続く。

 すると一斉にその場の鳥たちもその声に続いた。

 種によって声は違えども、同じ拍子でどんどんと、どんどんどんどん数を増やし場を支配する大合唱へと連なっていく!

 鳥たちの大合唱が空気を震わせ、新野の肌を粟立たせる。

 軍勢が鬨の声を上げる様に、戦慄ししかし士気を無理矢理上げられ、新野はあっけにとられながらも笑っていた。

 見ると龍王も口角を上げている。

 大合唱が言っている。

『不安を捨てよ、力をためろ、翼が風をうち気流が先へ先へとつれていく。やってみせろ、やってみせろ! 空において我らの上をいくものはない! はためき旋回、陽光に向けて天高く!』

『天高く!』

『空においては我らが筆頭!』

『恐れるな!』

『龍相対上等よ! 討ち取って構わんな?!』

 轟々と、熱気とともに鳥たちの怒号が飛び交う。

 そこに全く恐怖は無く、新野の不安すらも掻き消した。

 鼓舞する声に全身が浮足立つ。

 爆発を抑えるかのように、数羽がその場で羽ばたく。湖上のハクチョウの優雅な羽ばたきとは全く違う。風を従えさせようと、自分の屈強な体を自慢に思っている者たちが今飛び立つ契機を待っている。

 出立は、今か今かと皆が王を注視している。

『いいかお前ら! 飛ぶしか能の無いお前たち! 今から俺らは死にに行くわけでも勝ちに行くわけでもねえよ! 獣の誇りだのなんだの寒気がすること言ってんじゃねえぞ? 鳥は鳥だ、飛ぶしかできない、そこに崇高な理念だの夢だのは一切必要ねえ! だが前をなにかが飛んだなら、その先を飛べ! 上に影ができたならそれより高く飛翔しろ! それを忘れたら俺達は鳥でもなんでもねえ、からあげになって店に並んでしまえ! 体を限りなく軽くしろ、てめえらの糞みたいな命なんぞはリンゴよりも軽い! 地獄で龍が我が者顔で飛んでやがる、あいつらにちょっと思い知らせてやりたいやつは、俺の後ろを飛んで来い!』

 大鴉が轟然とそう叫び、六枚羽を盛大に打ち鳴らす。漆黒の体が宙に浮くと、次々と鳥の軍勢も出立をはじめる。

『目標、バルフ! そこのちんけな龍王様を島に送り届けたら、むかつく邪龍に一泡ふかせられる、俺はそれがしたい! だからてめえらそのちんけな命で俺についてこい!』

 鴉が朗々と飛翔の声を上げる。

 空は軍勢の波に覆われ、新野の周囲もどんどんと飛び立っていく。

「さあ行こうか新野!」

 龍王が破顔して振り返る。

 緊張と高揚に胸がつまった新野は大きく頷いた。

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