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獣のテュラノス  作者: sajiro
トロントの森/飛燕の王のテュラノス編
73/147

泥酔遭遇

 髪やらなんやらに葉っぱを絡ませ、ぜえぜえと息をついてブラウと新野は森を抜けた。

 時間にして二時間ばかり。本名の健脚により潜り込んだのは森の奥の奥だったらしい。

 抜けた先で見たものは、

「……え」

 あんぐりと新野は口を開ける。

 その視界の中、ほのかに頬を朱に染めた龍王が新野に気が付き破顔した。

「ああー、おっかえりー!」

 ぶんぶんと手を振りいつにも増して崩れた笑顔をさらす主の手には、どう見ても酒瓶が握られていた。

「えっ!? なにこれへべれけ?!」

「そんなこと、ないよ~ん」

「おま、ひとが死にそうになってきてんのにこの野郎……!」

 酒瓶を振り笑う龍王のこめかみに拳骨を当て、新野は全力でねじる。

「あだだだだだ!」

「こらっ! なにすんのよ、やめなさいよ!」

 その新野の腕にとびかかった神子はきっと新野を睨み上げた。

「ちょっと飲んでたくらいでなによこの狭量!」

「いやいやいや! ちょっとだとしてもこの酔い様!」

「だいたいこれお酒じゃないもん! なんかくらくらするお水だもん! ……ひっく」

「お前もかああ! ってかガキに飲酒させんな!」

 怒号をとばした先、龍王の頭に乗っている巨大なカラスとはたと目が合う。

 その眼が喜色に輝いているのを見て、新野の直感が叫んだ。

「お前が飲ませたのか鴉の王!」

『おう、そういやトロントに来たってのに歓迎もしてなかったからな。安酒ならいくらでもやるぜ』

「安酒かよ、そこは何年ものとか出すところだろ」

「ブラウ……それはそんなに重要じゃないだろ。いやそれよりもなぜ……」

 カラスを頭にのせてからからと笑う少女と、自身の腕にいまだ絡まってなにかもごもごと語っている少女がいるこの空間に、最早つっこみどころが多すぎて新野は溜息を吐いた。

「カラスの王、お前俺たちのこと見てたんだろ?」

『ばれてたか、まあな』

「それ龍王たちも?」

『ああ、伝えてやったぜ。しつこく聞かれるとめんどくせえからな。隠すことでもねえわけだし』

「じゃあ火龍は、なんでこんなことになってんだ?」

 そう言ってふり仰いだ先、酔っ払いたちの向こう側に鎮座するその大きな箱を見つめた。

 森を抜けて一番に目に入ったその箱の中に、赤い少女がまだ横たわっている。

『お前の王お手製の、監獄さ』

 陽光に反射し、虹の輝きを放つ水晶が大きな正方形となって建っていた。

 透明の箱の中の少女、エンリは眉根を寄せて脂汗を額に浮かばせている。

『鹿の王の突撃も防ぐ防護膜に覆われた牢屋だ、相当の負荷にも耐えられるだろうよ。このガキが目覚めて壊すのにも一刻かかる、損傷が入れば作り主が即座に感じ取る。しばらくはこれで猶予ができたってことさ』

「邪龍王か他の天魔が来ない限り、だろ?」

『おうそれもな、しばらくは心配ねえだろうよ』

「なに?」

 いぶかしむ新野に、カラスは眼を細めてみせる。



 トロントの森の最端は突如として地面を失くし、そこにははるか眼下に山並みが見える光景が広がるばかり。

 目をこらせば見える、下の世界のぽっかりとあいた穴は新緑の森に存在する。

 世界を覆い尽くすのではないかという広さの森の、一部が地面ごと浮遊している。それがこのトロントの森であるとわかる。

 森が消え地面も消えたトロントの端が見えて、本名は息をつく。

 ひきずって運んでいた邪魔な荷物からようやく解放される時が来たからだ。その細長い体からは想像もできない膂力で、本名はぞんざいにその荷物を空中へと投げ捨てた。

 宙に放られたのは、鋼色の鱗に全身を包んだ大蜥蜴。

 背中に棘を無数に生やしているが、その全ての切先が割られていた。

 だらんと舌を出し、眼球が半ば突出している。重い一撃で頭部を破壊されたかのように。

 ヒトを丸呑みできるほどの大きさの蜥蜴は、廃棄物となって空に放られ、すぐに豆粒ほどまで小さく落下していった。

 その荷物だったものを無情に見送り、本名は壊れた眼鏡の位置を直した。



「黒の大蜥蜴? 鹿のテュラノス……本名、さんが?」

『そうだ。ヒヒ、そいつぁ天魔でも古株の、黒葵龍のペットでな。そいつを返り討ちにしてくれたってんなら相手も黙り込むだろうぜ』

「なんでだよ、返り討ちにしたから?」

『違えぞバカアホ。黒葵龍の天魔、代わってなけりゃあの女は陰湿で執拗。獲物を決めたら誰にも渡さねえ。ペットをやられたんなら今頃そっちに標的絞ってるはずだ』

「もしかしてそれをわかってて、やってくれたのかな」

『当然だろ。おかげでお前らは、まあしばらくは襲われずに済むだろうよ』

「そうか……」

 感謝するべきなのか迷う新野にカラスの王は言葉をはさんだ。

『知らないようなら特別にタダで教えてやろうか?』

「なにをだ?」

『お人よしはすぐ気をゆるして馬鹿を見るって話さ。ザルドゥで豚の蒐集家に龍王のテュラノスを探させた奴、ザルドゥのクソ警察諸君に猪の進軍をリークした奴。あいつだぜ』

「本名さんが……?!」

『目的のためなら手段を選ばない、どうなろうと結果良ければまるっとオッケーな野郎だ。お前の思う善人ではないと思うけどな。まあそれはさておき、さてこれからどうする』

 にやにやと笑みを含んだような声色でカラスはそう新野に問うた。

「きまってるでしょ、も~」

 緊張した空気をぶっ壊すような声で龍王が割り込み、酒瓶を抱いてにへら、と笑う。

「にいのがほんとにたたかうってきめたんだもん、もうやるっきゃないでしょ~」

「龍王……」

「でもかりゅうをたべるのはだめだよ~、ぼくにいんしをもどすほうほうをさがしましょ~」

「くそ……酔っ払いめなに言ってるかわかんねえ」

「あ、あたしもてつだうもん! ひっく」

 真っ赤な顔で眠そうに目をこすりながら、神子も新野の腕をいっそう強く抱いた。

「あーはいはい、ありがとよ」

 何度目かの溜息をつきながら新野はしかし、真面目な顔になる。

「まあ俺達の話はいいとして、今はそれより気になることがあるんだけどな」

「…………」

 新野に無言で見つめられブラウは居心地悪げに身を正す。

「カラスの王……あんたがそそのかしたって本名さんは言ってたが」

『いいじゃねえか減るもんじゃなし』

「減るだろ! 減りまくりだろ! 死ぬんだぞ、今のブラウは間違いなく!」

 責められてもブラウは表情を変えない。彼の中では最早決定事項なのだ、しかし納得のできない新野は食い下がった。

「だいたい、俺が言うのもなんだけど大事な王をな、こんな怪しいカラスに選ばせるってのもおかしい!」

『お前言うなあ、千回つつくぞ』

 大鴉の巨大な嘴を向けられて息をつめる新野をカラスは鼻で笑ってみせた。

『それと俺がそそのかしたってわけでもねえんだよ。もうあっちはこいつと決めてる』

「あっちって王のことか。そうなのか?!」

 驚いてブラウを見ると、何故かなんとも言えない複雑な顔をしていた。

「もう会ったのか?」

「いや、会ったけど……」

「なんだよそれ、いつの間にか目をつけられてたってことか?」

『ヒヒ、さあなあ。ねちっこく見てきてはいたがなあ』

 新野は気が付かなかったが、火龍と遭遇する前から、森の中からブラウたちをその王は観察していたようだった。

 不意にブラウはあたりをうかがう。

「なあそんなことより、ロットは?」

「あ。たしかにいないわ」

 ようやくもう一人の青年の不在に気がついたと同時に、嫌な予感がする。

「まさかカラスの王、ロットにも王を……?」

『まあ、そうご所望のようだな』

 絶句している新野を尻目にブラウは顔を上げた。観光地の方角をじっと見つめる。

「どうしたブラウ?」

「ああ、いや……。なんか、こういう時は当たるんだ」

「なにが?」

「あのバカ、どうあっても兄弟だからかな、あいつが厄介な目に合ってる時はだいたい……」

 ブラウは眉根を寄せて低く呻いた。

「胃が痛くなる……」

「それすげえ嫌な直感だな」

 上空をカラスたちが数羽、羽ばたいていった。慌ただしく向かう先はブラウが危惧していた観光地のほうで、

「おいあっち、なにかあったんじゃないか?」

『ヒヒ、そうみたいだな』

 嘴を鳴らしてカラスは笑う。

『鹿の王め、黒蜥蜴だけ潰してどうやら白蜥蜴はおいてったみたいだな。爪が甘いのかわざとなのかは知らねえが。俺様の庭で暴れてやがるらしい』

 大鴉は両翼を広げ、ふわりと宙に浮いた。

 新野とブラウはどこか頭を抱えたい衝動にやられながら、

「あのバカそこに行ったのか……!」

「面倒事にわざわざ行くなっつーの!」

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