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獣のテュラノス  作者: sajiro
地上の現代/獣王のテュラノス編
134/147

蒼龍顕現

 星装龍ヴァンサントが睥睨している森の中、本名、狼王、ブラウ、三条は合流した。

 丘の上の飛龍たちは兵のようにヴァンサントを囲んで飛び、もしくは町に向かって降りていく。

 町のほうはロットと神子たちが応戦している。だが頭上の亜龍たちは静かなものだった。

「なにが狙いだ?」

 ブラウが訝しむとそもそも、と本名が思案を表した。

「いったいこの行為になんの意味がある? 我々を龍王とそのテュラノスと引き離したいとして、足止めとしては不十分だ。統制も曖昧で、実力も不足している。長首龍も甲角龍も我々にあてるより、町の中心に放ったほうがよほど効果的だ」

「お前や俺達が、こっちの世界の人間どもなんて助けず放っておくと思ったんじゃないのか?」

 にやにやとして狼王が発言すると本名は無表情を崩さずに反駁する。

「だとしても亜龍を無駄遣いするよりかはいくらかましだ。人類を掃除する、という邪龍王の目的にも沿っている」

「亜龍の因子は無限に利用できるのでしょうか? バルフで倒した者たちがこうして現れている。長期戦を狙っているのやも」

「いや。ああして攻撃してこない分時間を稼ぐつもりはあるようだが。知りたいのはその先、だ」

 その時ぞくり、とブラウの感覚になにかがひっかかった。それは空間を認識する能力を使う、彼なりの感覚が拾ったもの。

 だからこそ、ブラウは皆の思案する答えを本能的に感じる。

「やっぱそれって、援軍だろ」

 ブラウがばっと振り向いた方向に全員がつられる。

 そして不思議に思った。

 ざぶり、と波打つ音が戦闘の合間に聞こえてくる。

 丘下に広がる町を超えた向こう。小高いその場から見える青く広がる海からだった。


 それは兄弟ゆえの感覚か、ほぼ同時にブラウが感じたものがロットにも伝わっていた。

 飛龍を一頭蹴り落とし、黒い瓦屋根の上に着地する。

「なんだあ?!」

 さざめく波間に目を見張る。たしかに波が揺らめいている。とてもそれは不自然に、岸部に向かって大きくなっていっている。

「ちょっとちょっと、なんか嫌な感じが来てるんじゃない?」

 ロットの隣に降り立った神子でさえも異変に気が付いた。

 びしりとなにか割れるような音がかすかにする。

「え、なに、これ」

 ロットは神子の声に振り向いた。

 怪訝とする少女は自分の吐息を見下ろしていた。口唇から吐かれるそれは白かった。

 びしり、びしり。割れる音は強くなっていく。

 耳元の穴からブラウの声が聞こえた。焦燥感のつのる声。

「ノア!」

 兄弟の呼声に応じて、突如町の上空、雲の合間から巨大な影が降りてくる。木製の帆船が空を滑りゆっくりと現れる。

 飛龍たちの騒ぐ声がひどく煩くなる中、耳にブラウの指示が響いた。

「できるだけ周りを見ろ! 見えた生き物全部ノアに乗せる!」

 のっぴきならない様子の声に二人はすぐさま反応する。屋根を跳び出し、あたりに目を配る。 

 視界の中でとらえた市民やネコ、鎖に繋がれたイヌなどが姿を消していく。彼らの真横に半円の境界が現れ、それは頭上の船につながっている。船の内側から荒々しく、生き物たちが回収されていく。

 ロットは途中獅子王と合流し、町中をどんどん移動していった。

「王サマ! いったいなにが来るんだ!」

 なにかがこちらに接近している気配まではわかっていた。だがそれがなにかまではわからない。しかしブラウはうっすらとわかっているようだ、そして脅威であると判定した。だからこそ自身の疲労と能力の浪費も構わず、船にどんどん生き物を乗せている。

 もう守ることが敵わないと判断したのだ。

『ロっちゃん、こいつはオレサマも初めての感じだ! 鬣がビリビリしてヤな感じだ、ほらオレサマ海初めてって言ったろ?』

「てことは――」

『だから海の生き物なんて見たことないんだゼ!』

「うお、やっぱりか」

 ロットは恐々と、しかしにっかりと笑った。そして一瞬海を見る。波が黒く染まっている。いやこれは、巨大な海の中の影だ。


『十分だ、感知できる分は乗せたはずである!』

 肩の上で鳩の王が賞賛する。目を見開いたままブラウはぶるぶると両手を震わせ、荒い息を吐いた。

「駄目だ、まだいるかもしれねえ! 拾えるだけ拾う、限界まで!」

 彼は今や町中をその頭の中で見張っていた。現在彼の周囲には誰もいない。本名たちも散らばり町中を探しにいった。その仲間たちの感覚も自分のものにして、全て積載物として救済の船に乗せている。

 彼の作った船は満員状態になるたびにひとまわり、ひとまわりと形を変えより大きい船になっていく。

 そのたびにブラウの頭の中は限界を超えていく。

 彼の想像力は最早彼の意識をはるか超えて奇跡を体現していた。

 その無防備な状態の彼に飛龍が一頭、気が付き滑空してきた。

 鳩の王が警戒の声を上げる。しかしテュラノスの注意は町中と上空に飛んでいる、その声は届かない。

 大槍が間一髪、うなりを上げて飛龍を打ち落した。

「ブラウよくぞもった! この周囲一帯全て乗せたぞ!」

 ブラウにも届くように、気配察知の能力をフル回転させた虎王のテュラノスが叫ぶ。

『ブラウ! 移動だ! 安全な土地にノアを移動せよ!』

「わか、った……」

 自身の王の命令にテュラノスは声を絞り出す。

 空を飛ぶ帆船が膨れ上がった巨体をゆっくり旋回させ、海とは逆の方角へ滑っていく。積載物に配慮して遅々とした進みだがその先は、今から訪れる脅威からは遠ざかるはずだ。

 必死にその場に立つブラウを案じながら、三条は心の奥が震えるのを感じていた。

 海の中からそれは現れる。


 さざ波が静かに防波堤を土足で飛び越え、澄んだ水が道路を横断していく。

 巨大なものが姿を現して海が一時あふれるように海岸を占領した。

 びしり、びしり。

 それはその現れたものがまとう冷気が、空気を凍らし破壊する音。

 獣王とテュラノスたちは海面から姿を現したその生き物を見上げた。

 蒼く濡れ光る鱗に覆われた、流動系の煌びやかな胴体。

 ゆっくり開いた眼は左右三対、計六個。

 大きく裂け中の真紅をさらした口腔は上下に二つ。

 ひれを持った前脚が海辺に建つ家を踏んで、ぺしゃりと軽く踏み潰す。

 龍王の三倍はあるヴァンサントが玩具にも見える巨体。

 喉の奥か鼻からか、くろくろくろとそれは涼やかな音を鳴らした。

「海竜……!」

 本名の震える声が響く。

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