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獣のテュラノス  作者: sajiro
地上の現代/獣王のテュラノス編
127/147

出立

「じゃあ俺らもブランカとかに会いに行こうぜ」

 ロットがブラウに提案し、兄弟はそれに頷きかけたが、

「それは諦めろ」

と本名が静かに言葉をはさんだ。

「悠長なことを言っている暇はない。別れを惜しむ時間など尚更だ。生半可な戦力では邪龍王に喰われるだけだからな」

 率直な物言いに短気なロットが眉を上げるが反論はしない。彼なりに本名の実力を認めているようだ。

 本名は眼鏡を外しながら告げた。

「各々の特性を知る必要もある。言葉で言ってもわからんだろうから簡単に教えてやろう」

 揺るぎない覇気をまとって鹿の王のテュラノスは、感情の見えない目に角の徴を浮かび上がらせた。

「ふうん、じゃ見せてもらおーじゃん」

 にやりと笑うロットが身を低くする。隣に獅子王が並んだ。ブラウがうんざりしたように溜息をつく。

「おいおい、こんなところでおっぱじめるなっての」

 彼の頭の上からノアが飛び立つ。

 とたんその場の全員の視界が変わった。

 城の外、庭先に場所が移されていた。

 さらさらと流れる噴水の光が眩い。

 ひらりとブラウの眼前に白い羽が一枚落ち、泡のように散った。鳩の羽だった。

「見ての通り俺は瞬間的な移動が得意だ。でも回数が限られてるし、一回に運べる物量も制限がある。あの船、ノアを使えばその量も増やせるけど、一度使ったらまた出すまでしばらく休まなきゃだ」

「なんだよ全部言っちゃうのかよ!」

 すらすらと説明するブラウにロットが不満そうに口をとがらせた。

「そうだ。ここの奴らと協力して邪龍王をぶっ倒す、それが俺らの一番の目的だろ?」

「うう……」

 まっすぐ見返されてロットがうめく。

 彼は逡巡を捨てるように息をひとつついて、兄弟に倣って語った。

「わかったっつの。俺はこの前見せたけど、どでかい一発が出せるぜ。あとそん時の衝撃の方向とかを動かせるんだ」

「衝撃を動かす?」

「壊したいもんだけ壊すって感じ。それ以外はまだ修行中だ! 俺達の秘密をばらしてんだから、当然あんたらのも教えてくれんだろーな」

「もちろんだ」

 外した眼鏡をしまう。本名の足元からずるりと白い靄が現れ始める。

「連携も組み立てよう。私の足を引っ張るな」

 彼の言葉にいちいちロットは噛みつくのを抑えながら、しかし嬉しそうに笑みをこぼしていた。

 そのまま地を蹴って跳び出す。

 あっという間にロットと本名は森の中に姿を消した。

「おいなにぼーっとしてんだ、行くぞニイノ、っとそっちのユハタだっけ?」

「ああ。行こう」

 同意して三条は虎王に向き直る。

「よいですか、我が王」

『許可する。ただしこれからは一騎当千ではない、ともに行くぞ』

 大きな青い虎は歩みだし、どっと飛び上がる。その姿が歪んで風のように三条を包むと、後には真っ青に輝く蒼い甲冑を身に着けた三条が立っていた。

 どすん、と地に突き立った鋼の直槍の柄も、彼の額を守る鉢がねの紐も同じく青。

 重そうな槍を軽々と握った虎王のテュラノスが、常は無い好戦的な輝きを目に宿す。首に交差した牙のしるしが表れた。

「先に行くぞ、葵!」

 爽やかに言ってブラウに続き三条も跳び出して行った。

 残された葵も龍王を仰ぐ、龍王はもちろんと頷いた。

 葵も去ると神子がそわそわとし出す。なにやら男どもが駆けていったのが楽しそうでならなかった。

 だが鴉の王が盛大な溜息を吐いて、大きなカラスの姿に戻って飛び去っていくと、龍王と二人きりになる。

 にわかに神子の動悸が乱れそうになったが、彼女は勇気を振り絞って声を出した。

「じゃ、じゃあ、私たちは現代に行ってからの作戦でもたてましょうきゃ!」

 息まいて出した台詞の最後、舌を噛んでしまった。

 ぷるぷると震える彼女の顔がみるみる赤くなっていく。

 龍王はそれににこっと笑って、

「もー、ホンファったら落ち着いて! かわいいんだからー」

とからから笑った。

「か、かわ……!」

 恥ずかしさよりもその言葉に興奮した飛燕の王はますます頬を赤らめた。


「とまあそういうわけでしばらく消える」

 曇天が広がるザルドゥ首都で狼王はことの次第を白狼に話終えた。

 のんびりと座る狼王の左右には眷属の黄色いと闇色の狼もそれぞれ寄り添っている。

 黄色い狼イエロウが鼻先を上げて、くんと侘し気に小さく鳴いた。

「そう文句を垂れるな」

 狼王に言われてイエロウはすぐさま頭を前脚の間に落とす。ジャイアントが横から慰めるようにふんふんと相棒に口吻を押し付けた。

 じっと座る巨狼ブランカは美しい眼で狼王を見下ろした。

「そう。あまりはしゃぎすぎないようにね」

「それは約束できんな」

 犬歯をむいて狼王は嗤う。

 すると階下から階段を上がって一頭の獣がやってきた。

 漆黒の体毛に包まれた豹、ティカだった。

 ティカの物言いたそうな目を受けて、狼王は含みのある笑いを浮かべた。

「獣王ってのはな、名乗るのに資格もなにもない。自然と一代で進化し、力を得、更なる叶わぬ願いを持てば、その頃にはもう自ずと王となっている。俺もそうだった。ただの狼が今ではこんな恰好をしている。そんなことが起きる世界だ、ここは」

 ティカは無言で肯定も否定もしなかった。

「言わなくてもすると思うが、まあ好きにやれ。どうせいつか死ぬのなら、その有り余った力を使いまくったほうがなにかと気持ちがいいぞ」

 狼王は溌剌として言って、立ち上がる。

「行ってらっしゃい、狼王。あきまもね」

 狼王は既にいない。

 静かになった109の最上階から白狼の見送る遠吠えが流れていた。


 夜になりトロントの森の中、バルフへと鳥の軍団が飛び立った発着所である広場に一行は集合していた。

 灯りもない昏さの中、獣とヒトが立っている。

 不意に大きく羽ばたく音がして、神子の肩に通常サイズのカラスが降りた。

「え! ちっちゃ!」

 思わず突っ込む葵の後頭部を、誰かが思い切り蹴飛ばした。

「いってぇ!」

 振り向いたそこには見事な六枚羽と三本足に復活した巨大な鴉がいた。

 初めて対峙した時の巨大さ、冴龍よりも少し小さい程度の巨鳥が一行の横に降り立つ。

『さあ行こうじゃねえか、ヒヒ』

 どこか自慢気に雄姿をさらした鴉の王に狼王は頷く。

「出立だ」

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