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獣のテュラノス  作者: sajiro
孤独のバルフ/虎王編
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侵攻 2

 小型の飛龍を無数に従えて、巨牛のようなアラントスが鼻息荒く地面に足をつける。

 腹に響くような地響きが足音だ。硬く厚い装甲が新野の距離からもはっきりとわかる。

「よし、行くぞ葵。まわりの飛龍を頼む」

「え、それって!」

 隣の三条を仰ぐと、その姿が点滅し薄くなっていく。

 完全に消えると最早隣にいるのかすらわからなくなった、驚く新野の肩で龍王が声を上げる。

(虎王の特性、不可視の迷彩だ! 新野、僕も手伝う、さあ行こう!)

「わかってるよ!」

 藪に身をかがめたまま新野も走り出す。

 漆黒のコートを脱ぎ、手の平に双刀として展開した。

「いいか王サマ、お前はさっき決めたとおり、できるだけそのままでいるんだぞ」

 肩にくっついている龍王は小さいサイズのままで、それは事前に三条とで決めたことでもあった。

 亜龍の群れにはアラントス、ガルバネンラとヴァンサントに次いで強力な敵がいる。しかし亜龍の住処である大聖堂の内部は情報が不透明で、もしかするとその二頭以外にも強敵が存在するかもしれない。加えて虎王も敵対する可能性を考えると、こちら側の戦力は極力温存しなければいけない。

「俺は実質お前が近くにいれば何度だって復活できる、使い捨てだって構わないんだから」

(そんなこと言うもんじゃないよ)

「あのなあ」

(わかってるよ。でも君が本当に危なくなったら僕は迷ったりしない)

 毅然と答える王の言葉にそれ以上新野はなにも言えなくなった。

「お前といい纈といい……」

 新野は武器を強く握りしめ、木陰から龍たちの背後に躍り出た。

「他人ばっかり心配するのもいい加減にしろよ!」

 勢いを殺さず、一番後方で浮遊していた飛龍に向かって新野は跳んだ。

 刃を振り上げた新野の眼前で、飛龍がばっと振り向く。

(新野!)

「だから心配っ」

 背後にまわしていた左手の刃がかっと輝きを帯びたと同時に、爆発的な加速が刃から放たれる。

「するなっての!」

 一瞬で飛龍の胸に入り込んだ新野は全身の回転とともに右手の刃を振り上げた。

 縦に一刀、飛龍の鱗の無い腹から直上して深く亀裂を入れる!

 大量の血潮が瞬時に噴き出す。

 飛龍が地に落ちる姿を見ることもなくすぐさま次へ。

 右手の刃の柄から橙の糸が飛び出し、隣の飛龍の翼に打ち込まれる。翼に粘着した糸は豪速で縮まり新野はその飛龍の背中に着地、交差した刃を目いっぱい開いた。

 ばつん、と飛龍の鱗が断たれる音とともに、苦鳴を高く上げ背中を反らすその背中を蹴り頭に登る、そのまま首後ろめがけ渾身の力で右手を振り抜く。薄い刃は鱗の細い隙間にやすやすと入り込む。

 真横に首を断たれ倒れる飛龍。

 その亡骸とともに新野は地面へ降りた。

(加速と糸? みたいのかあ、考えたね新野)

「どうも。でもまだまだ荒削りってか慣れてないんだけどな」

 新野へ大きな影が降りる。

 三体の飛龍が頭上より舞い降りた。後ろ足の鉤爪が計十八本襲いかかる。

 瞬時に仰向けに寝転がる。頭の先を爪が重く地面を穿つが新野はそのまま地面を滑って起き上がる。

 放たれた橙の糸が放物線を描く。

 手首を引いたのに合わせ、三体を一気に縛り上げた。

「よし!」

 しかしその操作に集中していたため真横から滑空してきた飛龍に気がつくのが遅れる。

(がお!)

 肩から飛び立ち小さな黒龍が飛龍の鼻先に歯をむく。驚いて急停止した飛龍の位置は加速した新野の間合い。

 片翼の根本を斬りつけ、返す刀で三体の首、翼、胴体を力任せに切断する。

 どっと落ちた龍たちは地面であがくものもいたが、戦闘には復帰できない。

「よし! なんとかやれそうだ!」

(いけー!)

 荒くなった息を吐き出して新野は次の飛龍を見定めた。

 そんな新野の攻めを見て空気に溶け込んだ三条は一瞬微笑むが、次に目標を睨み上げた眼に笑みはない。

 強大な龍将の真横へと音もなく接敵した三条の姿が突如としてその場に現れる。

『!』

 完全に視界外から出現したにも関わらずアラントスは即座に反応をし、大きな体を横に跳んだ。

 振り返る、という無駄な動作をせず三条の間合いから外へ跳んだという反応に、新野だったら反撃できなかっただろう。

 三条はその龍の動きを予測したように、手の内の大槍を神速でもって繰り出した。

 湾曲した刃先が龍の胴体を引っかけ動きを制限する。

 びたりと止まった龍の横で、三条は両足が地面を削るほどに槍を引く。手前へと!

 アラントスの濁った紫色の甲殻と槍が衝突し破砕音とともに盛大な火花が散る。

 龍は装甲に負担がかかることを瞬時に判断し一転して地面へと体をなげうつ。

 巨岩となって三条へ転がる龍を眼前に、槍を手放し三条は地を蹴る。

 どっと転がってきた龍を飛び越え再び槍の柄を握り水平に薙ぐ。

 反転しようとしたアラントスの背中に槍がぶち当たる。

 傷は残るがうっすらとしていて浅い。息もつかせぬ勢いで全身をひねり再度槍が空気を裂いて強襲。

 アラントスの一本一本がヒトの頭程はある、巨大な臼歯ががっちりとその刃を受け止めた。

 三条が力をこめてもびくともしない。しかしアラントスはぎょっとする、叩き割ろうとした刃が曲がりもしない。

 その刹那の迷いの後、アラントスはさらに驚愕する。

 太い四肢が宙に浮いた。

 くわえた巨龍ごと、剛力の三条は持ち上げ、怒号一声、甲角龍は地面へと頭から打ち付けられる。

 地面が割れ衝撃で土煙が舞い上がる。

 その煙は新野の視界をもさえぎった。

「すげえな纈の奴! もうやったのか?」

(……いや、そう簡単にはいかないみたいだ)

 解放された槍とともに三条は一足後退し煙の向こうを見つめる。

 そこに黒い影が這い上がってきた。

 甲角龍の丸いフォルムから這い出ていく影。

 煙が風にのって晴れていく。

 アラントスの背中からずるずると出てきていたのは四本のカマキリの足のようなもの。一本一本はヒトの胴体程の太さで三段の節がある。先端の鋭利な鉤づめが怪しげな光を放っている。

 その四本が背中から生えそれぞれ独立した動きをもっていた。

 長い一角とは真逆に薄気味悪い四本の足。

 変態した姿に新野は慄然とする。

 闘牛のごとく荒い鼻息を出して、アラントスは昏い双眸でもって三条へ憎悪の視線を向けた。

(アラントスは三兄弟の中じゃ直情径行で頭もよくない、けどありあまる戦闘への執着があるやつだった。奴の得意分野は一対一の力ごり押し対決)

「おいおいじゃあわざわざ敵の得意分野にいっちまったってのかよ、知ってったんたらなんで言わなかったんだ」

(慌てない慌てない、纈の得意分野だってそうだもの。大丈夫、まだ力を見せていないのは、纈だって一緒だ。新野はそんなことより自分の心配)

 煙が晴れると、最早奇襲の勢いは無く全頭に新野の存在は知れ渡っていて、残りの飛龍全ての視線が一気に新野を貫いていた。

 こめかみから汗をかきつつ、新野は好戦的な笑みを浮かべた。

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