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北の関を死守せよ、野望は泡沫の夢と消えて

作者: @000ーooo
掲載日:2026/05/16

 出張で訪れた北の町、いつもだと電車で行くのだが、今回は荷物が多かったことから、車で行った。車の場合は、疲れたら休憩を入れる。これが安全運転の鉄則。今回も道端の少し広くなっているところに車を止めた。


 ここで、ダンディーなおじさまならタバコを吸って、絵になるところであるが、いかんせん俺はタバコを吸わない。過去に1本だけ吸ったことがあるが、無味乾燥、なんの感動もなかった。むしろその後の煙たさの方が不快に感じた。それ以来たばこは吸ったことがない。最近は禁煙が流行りで職場でタバコを吸うやつはいない。ただ、昼前ぐらいになると何ともしないイライラが伝わってくるときがある。かわいそうだが、時代の流れである。


 そんなわけで、道端に車を止めて、背伸びをして体を伸ばした。深く深呼吸をして、瞑想にふける。というのは建前でただ眼を閉じるだけ。すると5月のさわやかな風が体を通り過ぎていく。目を開けると、すっかり緑の絨毯をまとった木々と、遠くに見える山並みが札漠とした心に癒しを与えてくれる。


 そんな時、体を吹き抜ける風に血の臭いが混じった。そして、

「ああ、俺ここで死んだのだ」

思わず、そんな言葉が口から洩れた。


 すると急に目まいがして、立っていられなくなった。倒れそうになったが、なんとか車のところまで戻ると、ドアを開けて運転席に倒れこむようにして座った。そして、ドアを閉めると、そこで俺の記憶は途絶えた。


 気が付くとそこはいつもとは違う天井だった。ただ、無性に懐かしく感じる。そして予感のようなものを感じた。

俺を起こしに来た侍女を見た時、

「ああ、戻って来たんだ」

そう思った。


 侍女に

「今は何年だ」

と聞くと侍女は怪訝な顔をして

「今日は、天下宝字8年9月1日です」

と答えた。


 間違いない。反乱を起こす10日前だ。俺は戻って来たのだ。もう予感は確信に変わった。さて、どう動くか。前回失敗したのは圧倒的な軍事力に胡坐をかいて、相手の行動を見誤ったことだ。


 まず、現在の状況を閣下にお知らせして、作戦を練らないといけない。先ず密告を防ぐ。次に宮中院に保管してある鈴と印章を絶対に上王方に奪われないようにしないといけない。この2つがあれば、国王の印章を押した文書が出し放題である。相手方を悪人にすることもできる。


 藤平閣下に面会を求めて、了解を得たので、閣下のところへ行った。

「藤平閣下、申し上げたい儀があります」

「どうした、石上、もう病は癒えたのか」

「はい療養したところ、もう体も十分に動かすことが出来ます。閣下にはご心配をおかけしました」

「わしも、盾長のようになられては困るからな。今其方に死なれると、近衛の実権が上王方に奪われてしまう」

「そう言っていただけると閣下の配下でよかったと思います。そこで、閣下に申し上げたいことがあるのですが、何分内容がはばかれることなので、お人払いをお願いします」


 部屋にいた官吏や護衛が退室してから、

「申し上げたい儀は2つあります。

 1つは、今回閣下が計画していることが上王方に漏れる恐れがあります。そのため、絶対に信用できる人間以外は計画を漏らさないようにお願いします。そして、秘密を漏らすおそれのある人間には逆に間違った情報を与えておくのがよいかと思います。


 もう1つは、北の国の国司となっている、新加様の安全を図ることと北の関を絶対に上王方に奪われないことです。北の国とそこに通じる関所がこちら側にあれば我々はたとえ都で負けても再起を図ることが出来ます」


「そうだな、中の国と北の国その間の北の関が我が方にあれば、上王側に負けることはないな」

「つきましては、私を新王様の護衛ということで宮中院の警護官に任命していただきたいのですが。そして、そこに保管してある鈴については私に保管を命じてください。また、印章は閣下が身に着けているのがよろしかろうと思います。そうすれば、たとえ、宮中院に上王側の人間が押し入っても印章も鈴も安泰です」


 その後、俺は宮中院の警護官として、新王様の護衛となった。また、鈴は俺の懐の中にある。印章は閣下が保管している。また、新加様には使いを送って「絶対に上王方の人間がきても、北の関を通すな。また、暗殺者が送られてくることも考えられるので、身の安全に十分注意するように」との指示を出してもらった。


 このようにして、何事もなければ、前回のように閣下が負けることもないだろう。そして、俺が上王側に抑えられた北の関を通ろうとして死ぬこともないだろうと思った。


 しかし、時代の強制力が働くようであった。9月11日、宮中院と閣下が同時に襲われた。宮中院を襲った賊はその場で切り捨てた。しかし、閣下を襲った賊は閣下に重傷を負わせ印章を奪っていった。どうも秘密が漏れていたようである。


 上王側はすぐに、閣下を逆賊とした文書を発布した。そして、閣下とその一族は都を追われた。俺の昔の記憶通りの展開になっていく。俺はすぐに北の関に走った。そして、ここを俺の配下で固めると、すぐに北の国に行って、国司の新加様の安全を確保した。そして、北の国で兵を募って、その兵とともに中の国の北で閣下と合流した。


 その後、北の関で、上王側の軍を迎え撃つことにした。普通関所は峠かふもとのどちらかに作られるのであるが、この北の関はどちらでもなく、峠とふもとの途中に作られている。これが以前から不思議だったのである。そこで、関所を守る役人に聞いてみた。


「なぜ、北の関所はこんな途中に作られているのだ」

すると

「峠は冬になると雪が深くて食料を運べない。ふもとだと、そこに行くまでに間道が幾つもあるので逃げられる。だからその途中に北の関は作られている。それにここはのろし台まで近い。ここののろし台はあの山の頂上にある。あの山はあまり高くないので、のろし台まですぐに行ける。のろし台からは北の町も中の国も両方見える。だからすぐに知らせが届く。もっともここだけが北の関ではなくふもとにもこれを補完する関がある。それらを含めて北の関と言っている」


 つまり北の関はここの関とそれを補完するふもとの関とセットで一体的に機能するという訳である。しかし、これだと、もしふもとの関を守る兵がうらぎったらこの関は要をなさないことになる。一抹の不安を覚えたが、忙しさにかまけて忘れてしまった。


 それから数日して、追手の上王側の兵が現れた。南側の街道からくる軍は関所で食い止めた。関所の前の川を掘り代わりにしてそこに弓兵を配置すれば、敵軍もおいそれとは川を渡ってこられなかった。また東側の山間の間道を通ってくる軍も、途中の山中に張り巡らした罠と、そこに配置した遊撃部隊で防ぐことが出来た。


 そうやって、なんとか防ぎ切れるかなと思われた時、来ないはずの北側からの軍に襲われた。どうもふもとのここを補完する関の守りについていた郡司が裏切ったようである。このとき俺は以前の不安が的中したことに言い表せない怒りを覚えた。あの時、この関所の基本的な前提条件をうまくとらえて対処すべきだった。少なくとも北の町の郡司は疑ってしかるべきだったと思った。


 この関所は北からの攻撃には弱いようである。飛んで来る矢に次々と味方の兵が倒れていく。奮戦する兵もいるが、元々この関所に勤めていた兵は最後まで戦おうなどという気はないようで、不利となるとすぐに逃げ出した。そして残ったのは閣下とそれに従う一族だけとなった。飛んできた火矢で館が燃え上がった。まだどれくらいの兵が生き残っているのだろうか、その後、燃え上がる北の関とともに俺は死んだ。


 気が付いたら車の中だった。時計を見ると車を止めて休憩を始めてからあまり時間は経っていない。今見てきたことは夢だったようだ。窓を開けると5月のさわやかな風が吹き抜けてきた。しばらくして俺はまた車を走らせて北の町の営業に向かった。


 1日の営業を終えて、宿に入ってから、ネットで調べると藤平の乱、北の関で官軍との戦いに敗れて一族滅亡と出ていた。これまでの俺の記憶とは少し変わったようである。この次またあの時代に行く夢を見たら今度はうまくやる。そう思う俺であった。

 他のサイトで短編を公募していたのでそれ用に書いて応募したのですが、そのサイト閲覧数は雀の涙だったので、こちらのサイトにも投稿しました。こちらのサイトのPVは3時間で先に投稿したサイトの閲覧者数をはるかに越えたので驚きです。引き続きよろしくお願いします。


 私の作品「転生者とバグでない異世界人の物語」「帝国皇女の憂鬱(前世の夫の生まれ変わりを捕まえろ)」「牛乳とチーズは違う味がする(顔だけ男の気ままな旅)」も引き続きよろしくお願いします。

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