表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1996.0渋谷のマッキントッシュ  作者: 代々木ノブ
select from SystemBank where FaxNo and…
8/15

2.0_第二章プロローグ

誠がこの時代に落ちてきて、

石川と、あずさと出会い、三人で行動することになった、その翌日。


1996年1月24日。東京・有楽町。


重厚な外壁と、企業名を誇示するような看板を掲げたオフィスビルが、冬の空の下に静かに立っていた。

ここは、日本の産業を支えてきた某ナショナルブランドの名を冠する、大手総合商社の本社ビルである。

エントランスを抜け、エレベーターが吐き出す人の波は、皆同じような背広と同じような表情をしている。


その一角で、石川美雪は、いつも通りの朝を迎えていた。


情報システム部。

社内でも数えるほどしかない、電気・情報通信系に明るい人材が集められた部署。美雪はそこに所属して、五年目になる。


高専卒の女性。

1990年代半ばの総合商社において、その組み合わせはまだ珍しかった。入社当初は「技術が分かる女の子」として半ば物珍しく扱われ、今では「とりあえず聞けば何とかしてくれる存在」として、当たり前のように頼られている。


彼女自身は、それを特別なことだとは思っていない。

分かるからやる。できるからやる。ただそれだけだ。


白いブラウスに、落ち着いた色のスカート。

髪はきちんとまとめ、表情は柔らかく、物腰も丁寧。社内の誰もが抱く石川美雪の印象は、「真面目で、穏やかで、少し頼りになる若い女性社員」だ。


プライベートでの彼女を知る者はいない。


仕事を終え、帰宅し、扉を閉めた瞬間。

部屋に鳴り響くのは、歪んだギターと重低音のドラム。ヘビーメタルという名の爆音だ。整ったリズムと、容赦のない音圧が、日中に溜め込んだ苛立ちや違和感を、きれいに焼き払ってくれる。


会社では見せない顔。

だが、それは仮面ではない。むしろ、どちらも彼女自身だった。


パソコンに触れたこともない人間が、さも分かったような顔で語る。

仕組みを理解しないまま、結果だけを求める声。

そうした日常的な摩擦は、確実に美雪の内側に蓄積していく。


それでも彼女は、淡々と仕事をする。

理屈が通らないなら、通る形に直す。

非効率なら、切り捨てる。

合理的に、冷静に。


そして時折、ふと思う。


自分は、もう二十五歳だ。

周囲では、結婚や婚約の話も聞こえ始めている。

仕事だけでなく、人生そのものについても、次のステージを考えざるを得ない年齢。


――できれば、話が通じる男がいい。

――理屈が分かって、無駄に威張らなくて。

――できれば、少しは格好良いと、なおいい。


そんな現実的で、少しだけ可愛らしい願いを、胸の奥にしまいながら。


この日も、美雪は情報システム部の席に着き、

CRTモニタの電源を入れた。


――そのフロアでは、今日もまた、リフが鳴る。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ