とある王国での公開婚約破棄騒動
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とある王国の王宮で開かれた夜会にて———
ブ「タチアナ・デュロン公爵令嬢! 私、ブリュノー・サンテールは貴方との婚約を今この時をもって破棄する!!」
タ「28点ですわー!!」
ブ「低っ! ……ど、どこが? どこがいけないんだ? タチアナ」
タ「声の大きさはまあ良いでしょう。けれど語尾が震えておりますわよ、ブリュノー殿下」
コ「待て待て、何の騒ぎだ?」
ブ「父上、これは必要な事なのです。しばし見守っていただけますか?」
タ「そうですわ国王陛下、すぐ済みますので。それよりもブリュノー殿下、あなたの右腕はお飾りですか?」
ブ「……右腕?」
タ「そうですわ。その右腕にピンクブロンドのボンキュッボンな令嬢を抱いての婚約破棄こそ完璧なのですわ。ほら、いつも殿下にぶら下がっていたあのご令嬢ですわ。殿下も鼻の下を伸ばしてイチャコラしていらっしゃったでしょう。彼女を抱いていないことが大きなマイナス要因ですわ」
ブ「レリア・デジール男爵令嬢の事か? 彼女なら違法薬物を密輸入して売りさばいた罪でデジール男爵家もろとも昨日逮捕した。彼女も違法魅了薬を使用していたからな、今頃は地下牢の中だ」
タ「……あらまあ。やっと目が覚めましたの。うーーん……それでしたら……ああ、あなた! そう、貴方ですわ。ピンクブロンドの可愛らしいお嬢さん。お名前は何と仰るの? ステファニー・バロー? バロー男爵家の御令嬢ね、素晴らしいわ。ちょっとこちらにいらして? そうそう、ブリュノー殿下の横にお立ちになって?」
ブ「タ、タチアナ? 何を?」
ス「ブリュノーさまぁ! 素敵! ずうっと憧れてたんですぅ! やあっぱり他の男どもとは美しさが違いますわぁ!」
タ「はい! ブリュノー殿下はバロー男爵令嬢の腰をちゃっちゃと抱く! そしてもう一度やり直してくださいませ」
ブ「やり直すって何を?」
タ「婚約破棄ですわ。さあ、早く!」
ブ「タチアナ・デュロン公爵令嬢! 私、ブリュノー・サンテールは貴方との婚約を今この時をもって破棄する!!そして私はこの……名前何だっけ?」
ス「ステファニーですぅ。ブリュノーさまは特別にファニーって呼んでいいですよぅ。ああホント―に今まで付き合ってきた男、三十八人の中で一番素敵ですぅ! 私王太子妃になっちゃうんですかぁ? うふふ」
ブ「いや、いやいやいや王太子妃は無理だから。そうだな……うん、そして私はこのステファニー嬢を私のペットのお世話係に任命するっ!」
ス「ぺ、ペットって……犬とか猫とかの……?」
ブ「いや、私のペットはカエルのドンフロッグ一家とオオトカゲのキョロちゃんだが…...って、あ! 話の途中で寝るなんてステファニー嬢は失礼じゃないか?」
タ「あら、ブリュノー殿下、きっと彼女は寝不足だったのですわ。寝不足は美容の大敵ですわ、殿下の御前で寝不足を解消する根性、そこはかとなく大物の匂いがいたしますわね」
ブ「そうか。衛兵、彼女を私のペット部屋に運んでおいてくれ。きっといい仕事をしてくれるだろう」
タ「話は逸れてしまいましたけれど、ブリュノー殿下、婚約破棄、承りましたわ。それではごきげんよう」
ブ「ちょっ、待てよ」
タ「62点」
ブ「上がった! じゃなくて」
タ「声は大分似てきましたわよ。後は……そうですわね、ちょっと斜にかまえて......んーもう少し冷めた眼差しの方が良いかしら」
ブ「似てきたって誰にだ? 違う違う、そこじゃなくて、話が違う!」
コ「ちょっ、待てよ」
タ「あらー、国王陛下は86点ですわ!」
ブ「くっ……負けた......」
コ「何の話だ? タチアナよ、そなたに王宮を去られると余が困るのだ。王国南部の水害対策の件はどうなっておる?」
タ「それなら既に関係部署に通達済みですわ。復興の予算も申請してありますし、必要な人材も資材も手配済みですわ」
ブ「私も先週現地に視察に行ってついでに近くの森の大型魔獣も駆除しときましたから。父上、バッチグーです!」
コ「ショーワかっ」
タ「まあ! ブリュノー殿下は頭がお花畑の間も公務だけは真面目にしていましたのね」
ブ「違うよ、私は先々週のタチアナにくらった一発で目が覚めたんだ。ほら、あの鉄扇の一撃! まさに魅了薬も吹き飛ばす一撃! 目の前に星が飛んで頬と鼻が三日ほど腫れあがった素晴らしいスイング! いやあ、惚れ直したよ。でも、あの日以来タチアナが全然会ってくれないからさ、暇で暇で。ちょこっとお仕事でもしようかなって」
タ「……私はブリュノー殿下の何十倍も忙しかったんですわ」
コ「来月の北の隣国との鉄鋼貿易に関する会議の草案は? 王都の公共事業の手配は? 再来月の余の即位十五周年式典の準備は? 王妃は着飾る事しか興味が無いからね、タチアナがいないと余が困っちゃうんだよ」
タ「全て手配済みですわ、国王陛下。それにこれからは今、国王陛下の隣りで〝いい笑顔〟を浮かべている私の父に実権を渡して下さればこの国は安泰ですわ」
コ「ええ? デュロン公爵はヤダよ。余に意地悪なんだもん」
タ「国王陛下、いいおっさんが〝もん〟なんて言っても可愛くな......あら、ちょっと可愛いかも。それより父の〝いい笑顔〟の圧が増しておりますわ」
コ「わわわ! わかった! 婚約破棄は認める! デュロン公爵、立派なお飾りの王に、余はなるっ!」
ブ「父上! 丸め込まれないでくださいっ! タチアナが......タチアナが僕の傍からいなくなっちゃうんですよっ!」
タ「あら、婚約破棄を宣言したのはブリュノー殿下の方ですわ。あと、一人称が〝私〟から〝僕〟になってますわ」
ブ「だってタチアナが〝僕〟じゃカッコつかないって言うから。でももうどうでもいいよ、タチアナが居てくれるなら僕、頑張るけど」
タ「ええ、頑張ってください。ブリュノー殿下は頑張れば国王陛下よりはマシになれますわよ。婚約破棄は承りましたけど」
ブ「承らないでくれ! 僕は……僕は……騙されたんだ!」
タ「魅了薬でお花畑になったり、騙されたり、ブリュノー殿下もお忙しいですわね。今度はどなたに騙されたんですの?」
ブ「アドリアンだ! 君の兄上だよっ! タチアナが会ってくれないって僕が泣いてたら教えてくれたんだ。『タチアナは公開婚約破棄マニアですよ、今度の夜会で完璧な婚約破棄を宣言すれば〝ああなんてブリュノー殿下は素敵なの! 一生ブリュノー殿下について行きますわ!〟って泣いて縋ってきますよ』って。だから僕は……僕は嫌だったけど頑張って婚約破棄を宣言したのに」
タ「28点でしたけど」
ブ「もう一回やらせてくれたら35点ぐらいになるかも」
タ「そもそも私は公開婚約破棄マニアではありませんわ」
ブ「やっぱり騙された?」
タ「私の兄は寝言を起きている時に言う癖があるのですわ。兄は私が王宮で沢山の仕事を押し付けられて、そのうえ頭がお花畑になったブリュノー殿下に冷たくされていることを知って夜しか眠れなかったそうですの。寝不足は美容の大敵ですからね、つい殿下の前で寝言を言ってしまったのではございませんこと?」
ブ「寝言? 寝言なの? じゃあ僕もさっきの婚約破棄は寝言って言う事で」
タ「却下」
ブ「そんな! 父上、父上もお願いして!」
タ「そう言えばこの間父も寝言を言っておりましたわ『私の愛しい愛しいタチアナを苦しめた王家、潰すか』って」
コ「え、余はお飾りだよ、もう実権はデュロン公爵に渡すよ? 潰さないよね、寝言だよね、デュロン公爵? その〝いい笑顔〟圧がメガトン級になってない?」
タ「そこらへんはどうでもいいですわ。それでは私はこれで失礼いたしますわ。あ、ブリュノー殿下有責の婚約破棄って言う事で、慰謝料ヨ・ロ・シ・ク!」
マ「ちょっ、待てよ」
タ「0点。 それに〝ちょっ、待てよ〟は飽きましたわ。ひねりは無いんですの?」
マ「まさかの0点!いきなりの難題......惚れた!」
タ「あなたは? ああ、南の隣国のマルティーノ王子殿下ですわね、ごきげんよう、お会いできて光栄ですわ。あら、跪いてどうなさったの?」
マ「タチアナ・デュロン公爵令嬢、貴方に惚れたんだ。ブリュノー殿と婚約破棄した貴方はもう自由の身だ。どうか私の手を取ってくれ。二人で愛の園を築こうではないか」
タ「はああああ……公開婚約破棄は隣国の王子の求婚までがワンセットでしたわ。私としたことが忘れていましたわ」
マ「ではこの手を取ってくれるのだな」
タ「マルティーノ王子殿下は国元に正妃様と側妃様が二人いらっしゃるのでは?」
ブ「な! タチアナ、僕はタチアナ一筋た! どうか婚約破棄は寝言って言う事で!」
マ「正妃も側妃たちもそしてタチアナ嬢、君も私の真実の愛だ。さあ、私たち......ひのふの......五人で愛の園を築こうではないか!」
タ「……羽虫がぶんぶんと煩いですけれどそろそろ私はお暇いたしますわ。皆さまお騒がせして申し訳ございませんでした。どうぞごゆるりとパーティーをお楽しみになってくださいませ。あら、アドリアンお兄様、エスコートありがとうございます。満面の笑顔ですわね、明日から私は自由の身ですわ。高原の保養地にでも出かけませんこと? 王都のスイーツ食べ歩きの方がいいかしら」
ブ「そんな……そんな……タチアナ・デュロン公爵令嬢! 僕は貴方に婚約を申し込む!!」
タ「では明日にでも釣書を送って下さいませ。条件が良ければ一考させていただきますわ。他に良い条件の殿方の申し込みが無ければ、でございますけど。では、皆さま、ごきげんよう」
———(おわり)———
この王国、大丈夫かな。
補足:
ブリュノーは魅了されていなければタチアナの忠実な犬でした。脳筋気味ですが、指示されれば実務能力は国王以上にあります。
国王は凡人程度の執務能力ですが、王妃が使い物にならないので、だんだんタチアナに仕事を割り振る度合いが多くなり、頼り切っていました。ちなみにタチアナの父、デュロン公爵は国王の従兄弟で小さい頃からダメ出しをされまくっていて苦手だったのでタチアナに頼っていることはひた隠しにしていました。
タチアナは出来る子ちゃんです。執務も嫌いではありませんが、最近は仕事を押し付けまくられ、忠実な犬のブリュノー王子は魅了薬で頭がお花畑になり、生意気にもタチアナを虐げようとしたので、ストレス溜まりまくりでした。だからタチアナ溺愛の兄の計略に乗って休暇を楽しむことにしました。
ブリュノーの今後の頑張りによっては再婚約もあり得るかも。なんたって忠実な犬は可愛いですから。




