朝仲志音の問い
車内は、
エンジン音だけが一定に響いていた。
夜道は空いていて、
信号も少ない。
迷う余地のない進み方だった。
志音は、
窓の外を見ていた。
街灯が、
規則正しく流れていく。
さっきまでいたコテージは、
もう見えない。
「寒くなかった?」
桐原涼真は、
前を見たまま言った。
声の調子は、
いつもと変わらない。
「平気」
短く答える。
それで十分だと、
分かっている。
少しの沈黙。
けれど、
志音の中では、
ずっと何かが動いていた。
選択。
その言葉が、
頭から離れなかった。
志音は、
一度だけ息を吸ってから、
口を開いた。
「ねえ」
自分の声が、
思ったよりも静かだった。
「なに?」
涼真は、
すぐに応じる。
志音は、
前を向いたまま聞いた。
涼真の顔を、
見ないようにして。
「これからの関係は、
選べる?」
ハンドルを握る手が、
わずかに動く。
それだけで、
答えを考えていると分かった。
「選んでるだろ」
即答だった。
志音は、
言葉を続ける。
「いつも?」
「そう」
迷いのない声。
志音は、
それ以上、
言えなかった。
その答えが、
嘘ではないと
分かってしまったから。
選んでいる。
確かに。
ただし、
選べる形に
整えられている。
涼真は、
少しだけ言葉を足す。
「困ることは、
させてない」
正しい。
否定できない。
志音は、
唇を噛む。
「……うん」
それしか、
言えなかった。
車は、
街の灯りに入っていく。
人の気配。
音。
日常。
志音は、
シートに身を預ける。
安心と、
違和感の
区別がつかないまま。
それでも、
一つだけ分かることがあった。
選べるかどうかを、
選ぶこと自体が、
自分には難しい。
車は、
止まらない。
帰る場所へ、
迷いなく進んでいく。
それが、
朝仲志音の
問いだった。




