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自由は、いつも用意されていた  作者: 阪井秋


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6/11

桐原涼真の想定内


 異変に、

 桐原涼真は気づいていた。


 気づいた、というより、

 起こり得る可能性のひとつとして

 最初から数えていただけだ。


 志音の知名度が上がれば、

 視線が増える。


 好意も、

 関心も、

 執着も。


 その中に、

 度を越えるものが混じる確率は、

 決して低くない。


 数字にすれば、

 むしろ自然な流れだった。


 最初は、

 些細な違和感だった。


 撮影現場の近くに、

 何度か同じ影がある。


 大学の最寄り駅で、

 視線を感じる回数が増える。


 志音本人は、

 気にしていない。


 だから、

 問題にはならない。


 ――今のところは。


 涼真は、

 情報を集めた。


 大げさにならないように。

 表に出ないように。


 誰にも悟られず、

 静かに。


 それは、

 慣れている作業だった。


 志音の生活動線は、

 ほぼ把握している。


 大学。

 撮影現場。

 移動ルート。


 本人が意識しなくていいように、

 把握しておく。


 安全のためだ。


 少なくとも、

 涼真はそう考えている。


 問題の人物は、

 すぐに特定できた。


 過去にも、

 似た例はあった。


 大きな事件になる前に、

 消えていく存在。


 そのたびに、

 志音は気づかないまま、

 日常に戻る。


 それが、

 一番いい。


 志音が怯える必要はない。

 選択を迫られる必要もない。


 何も知らず、

 いつも通りでいればいい。


 それが、

 彼女にとっての幸せだ。


 涼真は、

 直接何かをすることはない。


 脅しもしない。

 排除もしない。


 ただ、

 環境を整える。


 関係者に連絡し、

 導線を変え、

 偶然が重ならないようにする。


 合法で、

 穏便で、

 問題にならない範囲で。


 相手が諦めるように。


 これ以上、

 近づけないと悟るように。


 それは、

 誰かを傷つける行為ではない。


 守るための調整だ。


 涼真は、

 そう定義している。


 志音は、

 自分で選んでいる。


 大学に通うことも、

 仕事を続けることも。


 誰と会い、

 誰と話すかも。


 涼真は、

 それを尊重している。


 だから、

 選択肢を壊さない。


 ただし。


 その中に、

 自分がいない未来は、

 含めない。


 それだけだ。


 今回も、

 予定通りだった。


 志音に、

 何も起こらない。


 怖い思いをしない。

 疑問を持たない。


 日常が、

 少しも揺らがない。


 それが、

 成功の証だ。


 涼真は、

 次の予定を確認する。


 撮影。

 大学院の講義。

 事務所の打ち合わせ。


 すべて、

 問題なく回っている。


 志音は、

 今日も変わらない。


 安心できる場所にいて、

 用意された自由を選ぶ。


 その選択が、

 自分に向いていることを、

 疑わずに。


 ――想定外は、

 一度も起きていない。



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