同級生Aの視線
朝仲志音は、
同じクラスにいれば、どうしても目に入る存在だった。
目立とうとしているわけじゃない。
前に出ることもない。
ただ、そこにいる。
それだけで、
視線を引き寄せてしまう。
同級生Aは、
それを特別なことだとは思っていなかった。
綺麗な人は、どこにでもいる。
たまたま、このクラスにいただけだ。
そう思うようにしていた。
志音は、あまり喋らない。
話しかければ、ちゃんと答える。
感じが悪いわけでもない。
むしろ、落ち着いていて、
大人っぽい。
だから、
自然と距離ができる。
近づきにくい、というより、
近づく理由が見つからない。
志音の隣には、
いつも桐原涼真がいる。
幼馴染だというのは、
有名な話だった。
モデルもやっている。
頭もいい。
性格もいい。
正直、
文句のつけようがない。
志音と並ぶと、
やっぱり、しっくりくる。
「あの二人、合ってるよね」
誰かがそう言うと、
Aも頷いた。
否定する理由がなかった。
涼真は、
志音の少し前を歩く。
でも、
置いていくわけじゃない。
振り返れば、
必ず、そこにいる。
ああいう距離感は、
簡単には作れない。
志音は、
困っているように見えない。
むしろ、
安心しているように見える。
だから、
Aは思った。
あれでいいんだ、と。
志音が何かを選ぶ場面を、
Aは何度か見たことがある。
進路の話。
仕事の話。
放課後の予定。
志音は、
いつも少し考えてから答える。
そして、
選んだあとで迷わない。
その様子は、
とても自然だった。
「自分を持ってるよね」
誰かがそう言ったとき、
Aもそう思った。
強い。
ぶれない。
ああいう人は、
周りに流されない。
志音が、
守られている、
なんて考えたことはない。
守られる必要がない人間に、
見えたからだ。
桐原涼真は、
その隣にいるだけ。
支えている、
というより、
相性がいい。
だから、
Aは何も言わなかった。
違和感が、
なかったわけじゃない。
でも、
言葉にするほどのものじゃない。
気のせいだと、
片づけられる程度のものだ。
周りも、
同じように見ている。
問題はない。
不幸そうじゃない。
むしろ、羨ましい。
そうやって、
評価は揃っていく。
同級生Aは、
今日も志音を見る。
遠くから。
安全な距離で。
そして、
心の中で結論を出す。
――大丈夫だ。
あの二人は、
うまくいっている。
それが、
一番安心できる答えだった。
だからAは、
今日も見ているだけで、
何もしない。




