4 新幹線にて
なんだかんだ新幹線に乗るのはすごく久しぶりで、
楽しみにしていた。就活のときはそれどころじゃなかったから実質ノーカン。初めて駅弁も買ったし!
「こんにちは、前失礼してもいいですか?」
「あぁ、すみません気が付かなくて。」
私の隣の窓側の席に座るのは、フードを深くかぶって、
顔が見えないくらいにしている、私と同じ年くらいか、
18歳より上か、でも25はいかなそうなお兄さんだった。
フード深くかぶり過ぎだとは思うけど、
別に変な人じゃなさそうで安心した。
そう思っていると、お兄さんは私に
「そのキーホルダー、"けろけろもんすた"ですか?」
と質問してきた。
「"けろけろもんすた"ってなんですか?カエル?」
「えっ、ご存じない…??バックについてるやつです」
「これは親友が旅のお供に持たせてくれたもので…
お守りみたいな感じです。引っ越しの。」
余計なことまで喋っちゃったかな。
親友達にあそこまで心配されてた手前、
ちょっと迂闊だったかもしれないと思ったが、
お兄さんは大して気にもとめず、
「ええ!!引っ越しっすか!?
大変っすねぇ……、自分も高校の頃、〜〜〜」
と自分の話をしてくれた。人の話を聞くのは
嫌いじゃないし、むしろ自分で話すより楽しいので
ついつい聞き入ってしまった。
「え、高校が2年前ってことは
20歳ですか?今3月ですし。」
「いやいや、自分ダブってるんで21歳で、
今社会人2年目
でそろそろ3年目入るくらいっすね〜」
「えぇ年近いですね〜」
なんて話が弾み、それぞれ持参した駅弁を食べ、
気づくと東京一歩手前の品川まで来てしまった。
お兄さんは、フードをあれだけ深くかぶっていたのに、
想像に反してかなり活発な性格で、フードの下もかなり筋肉質であることがうかがえた。
「あの、連絡先教えてもらえないですか!!
何かの縁かもしんないですし…」
「あぁ、ごめんなさい…そういうのはちょっと…」
「ですよね笑、急にすみません。
せめてお名前だけでも。自分はフキって言います!!」
結構ぐいぐい行くタイプだな、この人。
あっちに名乗られたから断わりづらいし、名前なら…
「衣織です、またご縁があるといいですね。」
「そっすね!」
フードのお兄さんはにこやかに微笑んで
ーーーーー私の手首を掴んだ。
「えと……フキさん、何か…?」
夕貴さんは微笑んだまま、つかんている私の手首を
引き寄せ、フードを少しあげて
「また会いますよ、絶対。
そしたらもっと仲良くなれますよね、
楽しみだなぁ。」
とこちらを見て、笑いながら囁いた。
ーー灰色の、少し青みがかかった、でも決して黒でない
狼の体毛のような色の瞳。
めが、そらせない。
前、日本のアニメはなんで目にこだわるんだろうとアニメ好きの悠里と話していた。散々言いたいことを言い放題だったが、今ならそれが見当違いだったと分かる。
引き込まれてしまうのだ、目が合うと。
逸らせなくて、閉じることすら憚られて。
不思議なブラックホールのような引力に、
人間ごときが勝てるわけないとでも言いたげなほど。
綺麗な黒髪のセンター分け、それが余計に
この異質とも言うべき"目"を際立たせている。
「ね、衣織さん♡」
彼は私の手首を開放すると、
にっこりと、それはそれはいい笑顔で、私に笑いかけた。
私が放心しているうちに、
「じゃね!また会おう〜」と軽い別れを、
またどこか出会うのが当然であるような、
自信有りげな表情で告げた。
彼は、東京駅の人混みの中へ消えていった。




