95話 吸魔の魔石と新技術
少年たちは無傷のまま立ち上がっていた。その光景に意識を奪われた一瞬の隙を突くように、白銀の骸骨は再び攻撃の準備を始める。
今度は、以前よりも遥かに強大な魔力が奴の周囲に渦巻いていた。空気が重く淀み、足元の瓦礫が静かに浮かび上がるほどの威圧感。
(これだけの魔力……俺たちと戦っていたときは手加減してたってことか……!)
悔しさが胸を締め付ける中で、俺は衝動的に動き出そうとした。
「動かないで!」
突然、金髪の少年の叫び声が響く。思わず動きを止め、振り向いた俺に少年は柔らかな笑みを浮かべて言った。
「僕たちは大丈夫ですから……見ててください。ロレンツォさんも、僕たちだってやれるってところを見ててください。」
その言葉は妙に力強く、そしてどこか大人びた響きを持っていた。
奴の魔法は完成した。その圧倒的な魔力は黒く禍々しい塊となり、辺りの空間を歪ませながら少年たちへと放たれる。
「……これではどうだ?」
低く響く声と共に、魔力の塊は音を立てて空を切り裂き、少年たちに迫る。その速度と威力は明らかに、俺たちが受けたものを遥かに凌駕していた。
「危ない!避け――!」
叫び声を上げようとした俺の言葉が届くよりも早く、魔力の塊は少年たちに到達した。
轟音と共に衝撃波が広がり、瓦礫や砂煙が一帯を覆う。地面が崩れ落ち、あたりには音のない静寂が訪れる――だが、その中から再び少年たちが現れた。
白い煙の中から無傷で立ち上がる彼ら。その姿は光に包まれているようで、敵意に満ちたこの戦場に似つかわしくないほど神聖な印象さえ与えた。
(本当に一体何なんだ……?)
俺の胸に湧き上がる疑問。その答えを口にしたのは白銀の骸骨だった。
「ほう……貴様ら、吸魔の魔石を持っているな?」
その言葉を聞いた瞬間、俺の中で全てが繋がったように思えた。
(吸魔の魔石か……!そうか、奴の魔法を吸収して無効化していたんだ!)
だが、次の瞬間、新たな疑問が浮かび上がる。
(いや、待てよ。俺の防具にも吸魔の魔石は使われているはずだ……なのに、俺が奴の魔法を防げなかったのはどういうことだ?)
その疑問に答えを出す間もなく、少年たちの中で黒髪の眼鏡を掛けた少女が一歩前に出た。
「ええ、その通りです。吸魔の魔石……でも、それだけじゃありません。」
彼女は冷静な声で言葉を紡ぐ。その声は、戦場の緊張感を一瞬忘れさせるほど穏やかだった。
「この魔石に特別な細工を施してあります。ただ魔力を吸収するだけではなく、その魔力を糧に新たな効果に転換する『術式』を埋め込んでいるんです。」
「……転換? 『術式』?そんなことが可能なのか?」
驚きの声を上げる俺に、少女は静かに頷いた。
「はい、もちろん。その『術式』は……」
彼女が説明を続けようとした瞬間、白銀の骸骨が低い笑い声を漏らした。
「面白い。貴様らのその力、私にもっと見せてみろ。」
再び奴の周囲に禍々しい魔力が集まり始める。今度は、さらに巨大な攻撃を仕掛けようとしているのが明らかだった。
金髪の少年が剣を構え、仲間たちに振り返って言った。
「みんな、準備はいいね? 次は僕たちから攻める番だ!」
仲間たちは一斉に頷き、それぞれの武器や魔法の準備を整える。
(あいつら、本気で……この状況で戦うつもりなのか?)
少年たちは驚くべき連携を見せた。
金髪の少年が剣を構えて先陣を切り、その背後を小柄な少年と眼鏡の少女が魔法を練りながら追いかける。弓を構えた紅髪の少女は素早く矢を放ち、その全てに魔力が込められている。
「行くよ、みんな!」
金髪の少年の合図で、弓矢が一斉に白銀の骸骨へと射出される。放たれた矢は疾風の如く飛び、白銀の骸骨が練り上げた魔力の塊に直撃する。轟音と共に爆ぜた魔力が白銀の骸骨の防御を一瞬揺るがせた。
その隙を突き、金髪の少年が一直線に間合いを詰める。彼の剣先は、白銀の骸骨の胴体を目指して振り下ろされ――
「浅はかだな。」
白銀の骸骨は低い声でそう呟くと、片手を軽々と動かし、剣の刃を受け止めた。硬質な音が響き、剣は寸分も動かない。少年の腕に力がこもるが、相手の圧倒的な力に押し返されそうになっていた。
しかし、金髪の少年は笑みを浮かべて言った。
「今だ!ミラ、ルカ!」
その声に応じて、背後から飛び出した小柄な少年――ルカと眼鏡の少女――ミラが、ほぼ同時に土元素の魔法を発動した。
二人の魔法は、白銀の骸骨の腕を狙い、土柱が一瞬で生成されて衝撃波を放つ。膨大な力が白銀の骸骨の腕を弾き飛ばし、抑え込まれていた剣が解放される。その瞬間、金髪の少年は剣を再び振り上げ、白銀の骸骨の下顎に正確に突き刺した。
白銀の骸骨の動きが止まり、その場で微動だにしなくなる。しかし、誰も勝利を確信できずにいた。
俺はその光景を目の当たりにし、ただ驚愕するばかりだった。
「す、すごい連携だ……」
声に出た言葉はそれだけだった。どの動きも無駄がなく、全てが白銀の骸骨に一撃を加えるために緻密に計算されていた。長年の冒険者経験が生み出した連携なのか、それとも――。
だが、まだ終わっていない。
剣を突き立てられたままの白銀の骸骨から放たれる威圧感は増大していた。殺気は途切れるどころか、むしろさらに鋭く研ぎ澄まされているようだった。
白銀の骸骨は低く笑い声を漏らした。
「なるほど……確かに面白い。だが、それだけでは私を倒すには至らない。」
その声に反応するように、白銀の骸骨の全身から黒い霧が吹き出す。それはただの霧ではなく、瘴気と禍々しい魔力が混じり合った不気味なエネルギーだった。
「距離を取って!」
ミラが鋭い声で叫ぶ。
少年たちは素早く後退しながら、それぞれが次の行動の準備を整えている。しかし、その一瞬の動きが、奴に新たなチャンスを与えた。
「次は私の番だ。全力で来るがいい……生き残れるならな。」
白銀の骸骨が両手を広げた瞬間、周囲の大地が歪み、地面から無数の黒い棘が生え始める。それらは全て赤黒い霧に覆われ、触れるだけで命を奪うような危険な魔力が込められているのが見て取れた。
「くっ……どうする!? 何か手があるのか?」
俺が叫ぶが、少年たちは恐怖に震えるどころか、むしろ互いに視線を交わして微笑み合っていた。
「もちろん、ありますとも。」
金髪の少年が再び剣を構え、仲間たちに向かって言う。
「僕たちの本気を見せる番だ。いくよ、みんな!」
その言葉に応じて、四人の冒険者たちは全員が準備を整え、白銀の骸骨に向かって駆け出した。




