94話 集結!!少年冒険者団
――ロレンツォ視点――
ガイコツ――ロレンツォは、自然の中を突風を巻き散らしながら疾走していた。骨だけの体は風の抵抗を感じさせず、地面を蹴るたびに草木が激しく揺れ、葉が舞い上がる。
彼の視線の先には、街の中心部から立ち上る黒煙が見える。その煙は妙に濃く、ただの破壊では説明できない何かを感じさせた。
(あの大量の煙はなんだ……?アイツが暴れているだけなら、あんなに雑に煙は上がらないはずだ。まさか……誰かが戦っている?)
ロレンツォは駆けながら、避難所にいた人々の顔を思い出していた。そしてふと、ある少年の顔が見当たらなかったことに気づき、骨の口元をわずかに歪めた。
「ははっ、カイル君って、やっぱ相当イカれてる。」
そう呟くと同時に、ロレンツォはさらに速度を上げた。その足元から巻き上がる砂埃は、かすかな骨の音を伴いながら周囲に広がっていく。
しかし、ロレンツォの背後に迫るものがあった。それは、一台の馬車だった。
※※※
――金髪の少年視点――
「はぁ!?あの人どんだけ速いんだよ! 馬を全速力で走らせても追いつかないとか、どういう脚力してんの!?」
金髪の少年――アルクは馬車の上で悪態をつきながらも、手に握った手綱をさらに強く引いた。馬車の車輪がガタガタと音を立て、道の凸凹に跳ねる。
「多分、骨だけだから私たちより体が軽いんだ!」
そう言ったのは、眼鏡を掛けた黒髪の少女――ミラだ。彼女は冷静な口調だが、その目はしっかりと前方のロレンツォを追っている。
「筋肉がないのにどういう原理で走れてるのかは分からないけど!」
「そんなことはどうでもいいわよ!」
紅色の長い髪をなびかせながら、少女――アンがアルクを睨みつける。
「ちょっとアルク!さっきの話、本当なんでしょうね!」
アルクは胸を張り、大声で答えた。
「あぁ!!『ロレンツォ・ヴァルティエル』!国王様は本当にそう言ったんだ! ヴァルティエルなんて珍しい苗字、そうそうないよ! 絶対にあの人は……シンバさんのご先祖様なんだ!」
その言葉に、馬車に乗る仲間たちはそれぞれ反応を見せる。黒髪の少女は静かに頷き、馬車に乗っていたもう一人の小柄な少年――ルカは呆れたように口を開く。
「そんで、なんでオレたちはあの骨を追っかけてるわけ?」
アルクは少し目を細め、真剣な表情で答えた。
「決まってる。シンバさんに救ってもらった命を、今度は僕たちがシンバさんのために使うんだ! 僕たちも戦いに参加する!」
「ソレ本気で言ってんのか!? 絶対死ぬ! 絶対死ぬ! あんなやつに勝てるわけ――」
小柄な少年がそう叫びかけたとき、アンの拳が彼の頭に落ちた。
「痛って! 何すんだよ、アン!」
「うるさいわね!」
アンはふんと鼻を鳴らしながら言った。
「ビビってるなら馬車から降りなさいよ、ルカ。あんたの分まで、私たちで戦うから。」
「……降りるわけねぇだろ。ここで降りたらシンバさんに合わせる顔がねえだろ。」
小柄な少年は頭を押さえながら小声で呟き、ふてくされたように目をそらした。
※※※
その後――
いつの間にかアルクたちの馬車は、ロレンツォを見失っていたが、街に向かったことだけは分かっている。アルクたちは彼を追うように速度を上げていった。
目先には、街の中心部でさらに激しさを増す黒煙と、何かが砕けるような轟音が待ち構えていた――。
「アン、覚悟はいいか?」
「当然でしょ。」
「ミラ、準備は?」
「ええ。私たちの勝率を計算してみたけど……まあ、ちょっとでも気を抜いたら死ぬわね。」
「ルカ、僕のわがままに付き合わせてしまってすまない。」
「別に…オレはシンバさんのためならなんだってやるよ。」
アルクは前を見据えたまま、力強く頷いた。
「よし、行くぞ! 僕たちの力であの人を助けよう!」
その叫びが響くと同時に、彼らは激闘が響く戦場へと歩みを進める――。
※※※
「……僕たちも手伝います!」
かすれた声が光の中から響いた。その声に、俺とガイコツは同時に目を見開いた。
「あれは……!」
金色に輝く髪をなびかせ、白く輝く剣を掲げながら光の中から現れたのは――ギルドで出会った少年冒険者たちだった。
彼らの出現に一瞬息を飲むが、次の瞬間、ガイコツが鋭く叫ぶ。
「なんで来たんだ!! 早くみんなのところに帰るんだ!」
それでも金髪の少年は首を振り、力強く叫び返す。
「嫌です!! 僕たちはあなたを助けたいんです! ロレンツォさん!!」
その言葉には迷いがなく、むしろ誇らしささえ感じられた。少年は後ろに控える仲間たちに何か指示を出し、彼らは動き出す。
眼鏡を掛けた黒髪の少女が淡々と詠唱し、手から水の槍を放つ。それは鋭く空を裂き、白銀の骸骨に向かって飛ぶ。同時に、小柄な少年も水の鞭を操り、絡め取るような軌道で追撃する。
紅色の髪の少女は持っていた弓を引き絞り、矢を次々と放った。青白い光を放つ矢は魔力を宿しており、目にも留まらぬ速さで白銀の骸骨に迫る。
だが――。
「無駄だ。」
白銀の骸骨は冷たい声で呟き、片手を軽く振る。周囲の空間に生じた不可視の障壁が、全ての攻撃を飲み込み、消し去ってしまった。魔法も矢も、その存在すら跡形もなく消失する。
「なんだと……!」
少年たちは、自分たちの攻撃が無力化された光景に、驚愕を隠せなかった。
白銀の骸骨は静かに片手を挙げ、虚空から黒い棘を無数に生み出す。その棘は空間を歪ませながら凝縮され、一塊の小さな魔力の塊に変わっていく。
「死ね。」
奴はそう言うと、黒く禍々しい魔力の塊を少年たちに向けて放った。その速度は尋常ではなく、俺でさえ反応しきれる自信はなかった。
轟音と共に魔力の塊が少年たちのいる瓦礫を直撃する。視界が一瞬光に覆われ、その後、黒煙が辺りに立ち込めた。
「お前ぇえ!! なんてことを!」
ガイコツが怒りを露わにし、大剣を構えて突撃しようとする――だが、その時だった。
「ごほっごほっ……ねぇ、この煙幕が出るのどうにかできないわけ!?」
「仕方ないだろ。そういう『効果』になっちゃうんだから。」
「でもこれじゃあオレたちも見えねえよ!」
「私はこの『眼鏡』があるから問題ありませんけど……。」
少年たちの声が、煙の中からはっきりと聞こえてくる。その瞬間、ガイコツも俺も一瞬動きを止めた。
そして煙が晴れると――。
俺は目の前の光景に目を疑った。あの凶悪な魔力の塊を直撃されたはずの少年たちが、全くの無傷で立っていたのだ。
「どういうことだ……!」
俺が思わず呟くと、白銀の骸骨も珍しく感情を漏らした。
「ほう……。」
奴は目の前に立つ少年たちを見据え、興味深そうに低く笑った。その様子に俺は不安を感じたが、少年たちは堂々とその場に立っている。
「どうして……あれを防げたんだ……?」
俺の疑問に答えるように、金髪の少年が小さく笑みを浮かべながら言った。
「僕たちは……ただの冒険者じゃありませんから!」




