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91話 神秘の力

 ガイコツは次々と放たれる魔力の塊を弾き、俺に攻撃が届くのを全て阻止してくれている。信じられないほどの正確さで、時には剣を投げ出すような大胆な動きで、俺の安全を確保してくれるその姿は、頼もしい限りだった。


 俺は奴の周囲を走り回り、刻まれた模様がよく見える位置を探し出す。宙に浮く白銀の骸骨のローブが揺れるたび、身体の下に模様がちらりと見え隠れしていた。そして――ようやく、その模様の完全な形が目に入る。


「ここだ……!」


 俺は叫び、魔法の準備に入る。


「魔法の準備をします!少しだけ時間を稼げますか!?」


 俺の声に、ガイコツは口の骨を歪ませ、大きな笑みを浮かべるように動かす。


「任せて!どこまでも君を守るよ!」


 冗談めいたその言葉に呆れそうになりながらも、今まで見せてくれた強さを思い返すと、本当にそうしてくれる気がしてくる。俺はその信頼に応えるため、全神経を集中し、魔法を練り上げることに専念した。


(標的は身体に刻まれた小さな模様……。あれを正確に射貫くには、速さ、鋭利さ、小ささ、そして回転が必要だ。)


 俺はまず土元素で槍状の岩を生成する。それをさらに硬く、さらに細く小さく削り取り、そこに風元素を加えることで回転と速度を与えた。風の力によって研磨され、回転の勢いで岩の槍は熱を帯び始める。その熱が俺の掌にまで伝わり、少しの痛みを感じるほどだった。


 さっきは余裕も時間もなく、必死に繰り出した魔法だった。だが今は違う。俺にはガイコツがいて、守られながら時間をかけて完璧な形に仕上げられる。


(これなら……行ける!勝てる!)


「準備できました!……行きます!」


 俺は叫びながら杖を構え、魔法を放つ。狙いを定めた模様の中心――そこを正確に狙い抜いた一撃は、俺自身の目でも追えないほどの速度で宙を駆け抜け、白銀の骸骨の身体に直撃する。


 岩の槍は模様に突き刺さると、そのまま模様ごと身体を貫いた。


「やった……!貫いた!!」


 俺は歓喜の声を上げた。その瞬間、白銀の骸骨の攻撃は止み、赤い眼光が揺らめく。そして、宙に浮いていた身体はゆっくりと崩れるように地面へと落下した。


 ガイコツは大剣を下ろし、肩の骨をすくめて安堵の声を上げる。


「やったね……!すごい魔法だよ、カイル君!」


 俺はガイコツの言葉に答える余裕もなく、膝をつき、魔力をほとんど使い切った身体を支えるのがやっとだった。それでも、やり遂げたという感覚が胸に湧き上がる。


「ありがとうございます……あなたがいてくれたから……勝てました……。」


 俺が言葉を絞り出すと、ガイコツは優しく頷いた。その青い眼光は、どこか満足げに輝いているように見えた。


 だが――その安堵も長くは続かなかった。


 突如として、俺たちの周囲に漂う空気が再び重たく、冷たく変わる。地面に横たわっていた白銀の骸骨の身体が微かに動き、赤い眼光がかすかに光を取り戻したように見える。


「…………はぁぁあ。」


 その低く、かすれた声が、静寂を破るように響く。


「まさか……!」


 俺とガイコツは同時に奴を見つめた。完全に倒したはずの白銀の骸骨が、再びゆっくりと立ち上がり始めている。


「そんな……まだ動けるのか!?」


「カイル君、下がって!」


 ガイコツがすぐに大剣を構え直し、俺の前に立ちはだかる。その青い眼光には、今度こそ倒すという強い決意が宿っていた。


 しかし、次の瞬間耳をつんざくような音とともに、ガイコツが宙を舞い、俺の遥か後方へと吹き飛ばされた。


「え……?」


 驚きで声が詰まる。振り向いた先には瓦礫の山の中に埋もれ、ピクリとも動かないガイコツの姿があった。


 その骨の身体は至るところにひび割れが走り、握られていたはずの大剣は地面に突き刺さり、彼の象徴でもあった鎧は粉々に砕けて散乱している。唯一、かろうじて形を保っていた国を象徴する模様が入ったローブも、剣に絡むようにして無惨に破れ、その光沢を失っていた。


「今の一瞬で……何を……?」


 俺はガイコツを見たまま呆然と呟くが、すぐに意識を正面に戻す。


 そこには、まるで何事もなかったかのように白銀の骸骨が立ち上がり、赤い眼光を輝かせながら骨を鳴らして笑っていた。


「我が弱点を見せるなど、馬鹿なことをするわけがないだろう……。」


 その声は底冷えするような冷酷さを含み、笑いが収まると、奴は細い骨の指で横たわるガイコツを指し示し、淡々と語り始める。


「間違いだ……弱き意志の者が神秘の力を享受するなど、間違いだ。」


「神秘の力……?」


 俺はその言葉を繰り返しながら、奴の意図を探ろうとする。しかし、その間にも白銀の骸骨は構わず語り続けた。


「冥途の土産に教えてやろう……。我らが死から蘇り、悠久の時を生きられるのは、『神器』が持つ神秘の力によるものだ。」


「神器……!」


 俺は思わずその言葉に反応する。この国の地下に眠るという、伝説の神器。しかしその話は間違いだったはすだ。それなのになぜこの骸骨の口から出てくるのか。


 奴の赤い眼光が微かに揺れ、続ける。


「そうだ……その神器を持つ者は、死すら克服する。しかし……弱き意志の者が持てば、力に飲まれ、形なき怨念の塊と化し、完全なる『神秘の力』を享受することはできない。」


 奴は一瞬間を置き、俺に向けて骨の指を突きつける。


「貴様も弱き意志の者だ……だからこそ、ここで朽ちる運命にある。」


 その言葉が放たれると同時に、俺の胸に冷たいものが走る。足元が崩れそうなほどの恐怖が心を支配する中、瓦礫の下で倒れているガイコツに目をやる。


「くっ……。」


 一瞬でも守ってくれると信じた存在が倒れ、孤独を強く感じた。だが、それでも立ち止まるわけにはいかない。このままでは俺も、この街も全て滅びる。


「神器の力……それがお前をそうさせたのか…。」


 俺は杖を握りしめ、かろうじて残った魔力をかき集める。


「でも、それなら、その力に頼らずに戦う道を選んでみせる!」


 白銀の骸骨は俺の叫びに答えるように、再び赤い眼光を鋭く輝かせる。


「戯言を……。その脆弱な身体と力で何を『成す』というのか。」


 奴の声は冷たく響き渡り、再びその周囲に黒い魔力が集まり始める。その力は先ほどまでとは明らかに異なる圧迫感を放ち、俺の足元にまで重たく響くようだった。


 だが、俺はその場から逃げることなく、改めて杖を構えた。その時、瓦礫の方から微かな気配を感じる。


「……まだ……負けて……ない……!」


 かすれた声が、耳元に届くような錯覚を覚えた。それは、確かにガイコツの声だった。


(まだ終わっていない……!)


 その声を頼りに、俺は再び力を奮い立たせる。目の前の絶望的な状況に立ち向かうべく、俺は再び魔法を練り始めた――。

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