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86話 終焉を導く者

 逃げた亡霊を追うべく、俺は立ち上がり、部屋を出た。しかし、久しぶりに黒魔法を使用したことによる膨大な魔力消費のせいで、俺の足は震え、まともに歩くことさえおぼつかない。震える足を叩きながら力を込める。


「くっそ…!こんな依頼、二度としないからな…!」


 愚痴を零しつつも、俺は来た道を足早に戻った。


 広場に戻ると、亡霊たちが広場の中心に集まっていた。そこは、俺が最初に倒したものの粉々にしても消滅しなかった亡霊の破片が落ちている場所だった。目を凝らしてみると、その破片が亡霊たちの足元に集められているのが見えた。


(何をしているんだ…!?)


 俺は驚きながらも慎重に広場に足を踏み入れる。しかし、俺の存在に気付いた亡霊たちは、持っていた鎌をその集められた破片の上に重ね、ぶつぶつと何かを唱え始めた。


(何をしているのか分からないが、止めたほうがよさそうだ…)


 俺は再び黒魔法を放つ準備を整えようとした。


 しかし、その瞬間、亡霊たちの周囲に淡い光が浮かび上がり、光の中に異様な文字が現れた。その文字は、この世界で見たどの種族の文字とも異なり、不気味でありながら何か神秘的な威圧感を放っていた。


 浮き上がる文字は一つずつ亡霊たちの身体に吸い込まれていき、そのたびに亡霊たちの唸り声が次第に強くなる。


 亡霊たちの足元に目をやると、粉々だった白い骨の破片が小さな震動とともにゆっくりと動き出し、まるで見えない糸で操られるように徐々に形を成していった。

 白い骨は一本ずつ結びつき、まるで生物のように動きながら頭蓋骨を作り上げた。それは人間のものとは明らかに異なり、歪で不気味な形状をしていた。そして頭部が完成すると、そこから胴体へと続く骨格が形成されていく。


 その間、周囲の亡霊たちが身体を溶かすようにして足元へ流れ出した。黒い液体のように変化した彼らは、白い骨の隙間に流れ込み、それぞれが足や腕、内臓といった部位となって融合していく。骨の表面には黒い液体が染み渡り、まるで漆を塗ったかのように不吉な艶を帯び始めた。


 俺はこの隙に魔法を放つことを決断した。残りの魔力や体力を考えれば、これが最後の一撃になるだろう。


「これで決める!無尽恩光(エターナル・グレイス)!」


 杖から放たれた青白い光が広場を照らし、亡霊たちに直撃する。


「よし!」


 俺は勝利を確信した。しかし、光に包まれた亡霊たちは浄化されるどころか、融合を止める気配さえ見せなかった。


「は…?なんでっ」


 俺が戸惑っている間に、光の中から浮かび上がる赤い光が俺を射抜くように見つめた。その赤い眼光を捉えた瞬間、俺の全身に本能的な恐怖が走った。


 融合は完全に終わり、亡霊たちは一つの存在へと姿を変えた。

 見るものすべてに恐怖と絶望を与えるその姿は、圧倒的な威圧感を放っていた。白銀に輝く骨格はあまりに精巧で、美しささえ感じさせるものの、漆黒のローブがそれを包み込み、見る者に終焉を連想させた。そして何より、冷たく赤い眼光は、まるでこの世のすべてを見下ろす神のような存在感を宿していた。


「…っ!!!」


 目の前に立つその存在は、もはや亡霊や骸骨といった言葉で表せるものではなかった。圧倒的な存在感を前にして、俺の身体は自然と身をかがめ、逃げ出したいという本能的な衝動に駆られた。心臓は激しく鼓動し、呼吸が乱れる。


「うっ…く!」


 突然、胸に鋭い痛みが走った。


「こ、これは…なん、だ!?」


 激痛に耐えきれず、俺はその場に膝をつき、苦しみに悶えた。そんな俺を一瞥したその存在は、興味を失ったかのように視線を外し、天井を見上げた。そして次の瞬間、目にも追えない速度で跳躍すると、天井を突き破り地上へと姿を消した。


『存在』が消えると同時に、心臓の痛みも嘘のように消え去った。しかし、俺の身体は信じられないほど疲弊していた。そして気がつくと、頬を涙が伝っていた。


「え…?」


 訳も分からず流れる涙に、俺は驚きと戸惑いを覚えた。目の前で起きたことは、俺の理解を超えていた。この恐怖と絶望をどう表現すればいいのか、俺には見当もつかなかった。



 ※※※



 同時刻――地上。


 大聖堂の爆発という一大事件から二時間ほどが経過していた。住民の避難や混乱も次第に落ち着きを見せ、街はまだ完全には収束しないものの、徐々に静かなの空気感を取り戻しつつあった。


 街の兵士や警備隊に加え、冒険者たちも大聖堂付近の調査に乗り出している。その中には、フェンリとノアの姿もあった。


「...まったく、カイルはどこに行ったの!?」


 ノアは怒り混じりの声を上げながら、大聖堂周辺の瓦礫や残骸を調べていた。その表情には心配と苛立ちが混ざり合っている。


「大聖堂を爆破した犯人を追いかけて単独行動に出たようですが...無事だといいのですが。」


 フェンリはノアの後ろを歩きながら、どこか憂いを帯びた表情で言葉を続ける。


「それにしても、すごい荒れようだね。あんなに綺麗だった建物が、こんな無残な姿になるなんて。」


 ノアは、原型を留めないほどに破壊された大聖堂の柱に手を触れ、嘆息を漏らす。


「...そうですね。」


 フェンリも短く返事をするが、視線は警戒の色を帯びたままだ。周囲には多くの冒険者が集まっていた。先ほど国から発表された通達で、犯人を生け捕りにした者には莫大な報酬が支払われるという知らせが広がり、金の匂いに敏感な冒険者たちが警備隊を押しのける勢いで捜索に励んでいた。


 普段は規律を乱しがちな冒険者たちも、この時ばかりは一丸となり事件解決に協力していた。その光景に兵士や警備隊も戸惑いつつも助かっている様子だった。


 そんな騒がしい中で、ノアとフェンリは見失ったカイルの行方を追っていた。


「僕が最後にカイルを見たのはこの辺りなんですが...」


 フェンリは住宅街の一角を指さし、辺りを注意深く見渡す。


「瓦礫ばっかりで、これじゃどこに行ったのか全然わからないね...」


 ノアはため息をつきながら、散乱する瓦礫を退かしていく。ふと、その視線の先に微かに光る何かを見つけた。


「...あれ?」


 ノアは路地裏へと足を踏み入れる。そこには地下へ続く階段があり、質素な装飾が施された小さなナイフが落ちていた。ノアはそれを手に取ると、思わず声を上げた。


「フェンリ!これ!」


 フェンリは急いでノアのもとへ駆け寄る。


「これは...!みんなで揃えて買ったナイフ...!」


「うん、カイルのだよね!ほら、ここに傷が入ってるでしょ!」


 ノアが指さした箇所には、小さな刃こぼれの痕が確かに残っていた。それを見た二人は、落ちていたナイフがカイルのものであると確信する。


「カイル...この地下に入ったってことだよね。」


「そのようですね。僕がカイルを見失った場所もこの辺りですから。」


 二人が顔を見合わせ、階段に足をかけたその瞬間――。


 遠くで轟音が響き渡った。


「な、何!?」


 ノアは驚いて振り返り、音のする方向を凝視する。


「ノア、あれを見てください!」


 フェンリが指さす方向に目をやると、そこには不気味に光る人型の何かが宙に浮いていた。


「えっ!?あれって...浮いてる!?何なの、あれ!」


 ノアは息を飲みながらその存在を見つめる。フェンリの目は鋭く細められ、まるで目の前の危険を本能で理解したかのように固まっていた。


「...!」


 フェンリはその存在から放たれる圧倒的な殺気と狂気を直感的に感じ取っていた。彼の鋭い視力は、宙に浮く存在の細部までも捉えていた。その赤い光を宿した瞳。その不気味に輝く白銀の骨。その姿が放つ威圧感は、見る者全ての心を凍らせるほどだった。


「フェンリ?急にどうしたの?」


 不意にフェンリはノアの手を握った。その行動に驚き戸惑うノアをよそに、フェンリは何も言わず走り出す。


「ちょ、ちょっと!フェンリ!?何してるの!?」


 ノアの問いかけに答える余裕もなく、フェンリは足を止めない。


 しかし、後方で爆風と瓦礫が迫る音が響き渡ると同時に、彼らの視界が急速にぼやけ、身体が光に包まれる。


 やがて、その終焉の音は街全体に轟くのだった――。

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