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83話 お前は何者だ!

 階段を進むごとに整備されすぎていた通路は、徐々に古びた様相を見せ始めた。石壁には苔が生え、足元の段差は崩れかけている。

 どうやらこの通路は長い年月をかけて謁見の間まで掘り進められたものらしい。


「本当に手間を惜しまない奴らだ……。」


 俺は呆れながら呟いた。


 階段を降りきると、目の前にはいくつもの狭い通路が蜘蛛の巣のように広がっていた。どれも似たような見た目で、どの道を進むべきか全く分からない。


「これじゃ迷路じゃん……。」


 俺が途方に暮れていると、骸骨が迷わず左端の通路を指さした。


「こっちだね!」


「なぜそっちだと分かるんです?」


 骸骨はカラカラと骨を鳴らしながら得意気に答えた。


「こっちから人の気配がするんだ。長いこと生きてると、こういうのが分かるようになるんだよ!」


 その自信満々な様子に若干不安を感じたが、俺たちは左端の通路を進むことにした。しばらく歩くと、複数の声が微かに聞こえてきた。どうやら本当にこの道が正解だったようだ。


 俺たちは足音を殺しながら先へ進み、身を潜めつつ顔を少しだけ覗かせた。


 その先には、スキンヘッドの頭に大きな傷をつけた体格の良い男が立っていた。彼の周囲には複数の部下たちが集まり、俺が盗賊団のアジトで倒したあの女もその中に混じっている。そして、その正面には椅子に縛られた国王の姿があった。


「……神器の場所を早く吐いたほうが身のためだぞ。」


 低く唸るような声で、スキンヘッドの男が冷酷に言い放つ。


「さっきも言ったが、私は神器の場所など知らん。あれは100年前のただのおとぎ話だ。」


 国王の返答に、スキンヘッドの男はゆっくりと立ち上がると、国王の顔を一発殴りつけた。


「ぐっ……!」


「早く言わねえと殺すぞ?」


 脅迫を続けるが、国王は「知らない」と繰り返すだけだった。その態度に業を煮やしたのか、スキンヘッドの男は部下に合図を送った。


「連れてこい。」


 すると、奥の部屋から一人の女性が引きずり出されてきた。その姿を見た国王は目を見開き、驚愕の声を上げる。


「アリシア!!」


 拘束された女性は、口と手を縛られたまま無理やり突き出されてきた。それを見た骸骨が小声で呟く。


「王女様だ!」


 まさか、王宮内にいないと思っていた王女が盗賊団に囚われていたとは……。


 スキンヘッドの男は王女を受け取ると、その頬にナイフを突きつけ、冷笑を浮かべた。


「言ったほうが王女の身のためだぞ?最後のチャンスだ、神器の場所を教えろ。」


 しかし、国王は本当に神器の場所を知らないのだろう。震えながらも真剣な顔で訴える。


「ほ、本当に知らないんだ……どうか娘だけは……!」


 縛られたまま前のめりになり、椅子ごと地面に倒れ込む国王。その姿をスキンヘッドの男は冷たく見下ろし、ため息をついた。


「はぁ……まさかこの国の王がここまで強情だとはな。どうやら娘を殺さないといけないらしい……。」


 男はそう言いながらナイフを握り直し、王女の胸元に狙いを定めた。


「ま、待ってくれ!!アリシアぁあ!!!」


 国王の叫びが響いた瞬間、俺の隣を何かが風のように通り過ぎた。


「え?」


 振り向くと、骸骨の姿が消えていた。そして前方を見ると、スキンヘッドの男の前に骸骨が立ち塞がっていた。その腕には、無事に救出されたアリシア王女が抱えられている。


「お前たち……もう許さない。」


 骸骨は片手で大剣を引き抜いた。抜刀の反動で周囲に衝撃が走り、盗賊団の部下たちが一瞬ひるむ。


「……お前は何者だ!!」


 スキンヘッドの男が叫ぶと、骸骨は低く呟いた。


「僕……いや俺は、ダール騎士団一番隊団長、ロレンツォ・ヴァルティエルだ。」


 その名が響くと同時に、スキンヘッドの男はニヤリと笑い、背後の部下たちに指示を出した。


「そうか、死ね。」


 部下たちが一斉に骸骨へ襲い掛かる。しかし、骸骨は微動だにせず、大剣を静かに構えていた。


 部下たちが骸骨に向かって剣を振り下ろしたその瞬間、骸骨は静かに大剣を振り上げた。

 次の瞬間、周囲に強烈な風が吹き荒れ、まるで空間そのものが震えるような音が響く。


 その風が収まったときには、骸骨に襲い掛かろうとした数人の部下たちはすでに胴体を真っ二つにされ、声を上げる間もなく地に崩れ落ちていた。剣技という次元を超えた威力に場の空気が凍りつく。


 その光景を目の当たりにしたスキンヘッドの男は、一瞬表情を歪め、思わず後ずさった。それでもすぐに冷静さを取り戻したように見せかけ、懐から小さな筒を取り出すと、地面に叩きつける。


 ボンッ!


 煙幕が立ち込め、視界が一瞬で遮られる。骸骨は微動だにせず、静かに剣を構え直した。


「隠れるつもりか?」


 と低く呟くその声は、先ほどまでの飄々(ひょうひょう)としたものとは違い、冷ややかで鋭かった。


 煙幕の中から足音が複数聞こえ始める。何者かが左右に動き回りながら骸骨の隙を伺っているのだ。骸骨はその場に立ち尽くしたまま、冷静に全体の気配を探る。そして突然、大声で叫んだ。


「カイル君!国王様と王女様を頼む!」


 その言葉と同時に、煙幕の中から縛られていた国王と王女が宙を舞い、俺の方へ飛んできた。とっさに受け止めた俺は、その正確無比な行動に驚かずにはいられなかった。


「こんな状況で俺の位置まで正確に分かるなんて…」と心の中で呟きながら、二人の拘束を急いで解いた。


「…すまない…」


 国王は疲れ切った顔で俺に礼を言った。


「いえ、今はお二人を安全な場所に…」


 俺は答えながら、煙幕の中の骸骨の動向を注視する。


 徐々に煙が晴れてくると、骸骨は再び現れた。


 だが、その場にはスキンヘッドの男やその部下たちの姿は見当たらなかった。骸骨が静かに佇む中、背後から刺客が現れる。5人の部下たちが一斉に骸骨に飛び掛かった。


「後ろだ!」


 俺が叫ぶと同時に、骸骨は驚くほど滑らかな動作で振り向きざまに大剣を横に振り抜いた。


 ズバァン!


 再び一瞬のうちに5人の胴体が切り裂かれ、無惨な姿で地面に崩れ落ちた。骸骨はため息をつきながら剣を静かに収めると、何かを感じたように振り向いた。


 骸骨の背後に隠れていた女の部下が、突然火を放った。火の玉が骸骨の背中を直撃し、瞬く間にそのローブが炎に包まれる。


「ははは!アタシの魔法で灰になっちゃいな!」


 女が高笑いする。しかし、骸骨はその場でカラカラと骨を鳴らしながら静かに立ち上がると、自分の燃えたローブを脱いだ。そしてローブを凄まじい速さで振り回し、周囲の炎を一気に消し去る。


 その姿はすっかり変わり果てていた。黒く焼け焦げた骨はただの骸骨ではなく、闇の深淵から現れたような、まるで死神そのものだった。その異様な姿に女は後ずさりしながら叫ぶ。


「ひ、ひぃい!化け物ぉ!」


 骸骨は一歩一歩、ゆっくりと女に近づいていく。その度に女は震え、ついには壁に追い詰められてしまった。骸骨は冷酷な目で女を見据えながら、大剣を抜き放つ。


 剣を振り下ろそうとするその瞬間、国王の静止が響いた。


「やめるんだ!!」


 骸骨はピタリと剣を止め、女の額にほんのわずか触れる程度で刃を止めた。そのわずかな衝撃で女の髪が少し切り落とされる。恐怖のあまり女は泣き叫びながら失禁し、体を震わせていた。


 骸骨は剣を収め、振り返って国王を見る。その表情はいつもの飄々としたものに戻っていた。


「危ない危ない…殺すところだった!」


 と軽く冗談を飛ばすと、落ちたローブを拾い上げ、自身に付着した煤を払って羽織り直す。


「さあ、これで一件落着だね!」


 骸骨がそう言ったとき、国王はその名前を再び口にした。


「ヴァルティエル…君はまさか…」


 その言葉に骸骨は少しだけ首をかしげて微笑む。

 緊張感が解けたその場には、ただ静寂が広がっていた。


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