82話 隠し通路
隠し通路は全部で六か所あるという。
三つは王宮の庭の各所に設置されていて、それは容易に塞ぐことができた。
塞ぎ方は簡単だ、下に通じる扉をすべて魔法で封じればいい。俺は骸骨に教えてもらった三か所を迅速に処理し、封じることに成功した。
問題は残り三か所だ。どの通路もすべて王宮内にあるらしいが、場所が少々厄介らしい。しかし、なりふり構っている暇はない。俺は骸骨を引き連れ再度王宮に向かおうとした。
だが、ここで大きな壁にぶち当たった。俺の後ろにいるこいつは骸骨だ。生き返ったとはいえ骸骨だ。他の人に見られれば、通路を封じるどころではなくなってしまう。
俺が庭の中央で立ち止まり頭を抱えていると、骸骨が頭をパカッと開け、頭蓋の中をガサガサ漁りだした。
「うわ……何してんですか、気持ち悪いなぁ」
「ちょっと!気持ち悪いってどういうことだよ!これでも一応毎日骨を磨いてるんだよ!」
骸骨は怒りながらも頭蓋の中から大きな布を取り出した。
「これなら僕の身体を全部覆えるよ!」
骸骨が羽織ったその布は大きなローブだった。背中にはダール国を象徴する紋様が入っており、埃を被ってはいるものの高級感がある。
「それなら大丈夫そうですね!急ぎましょう。」
俺は急いで王宮前へと走った。
「おお、さっきの!どうした!」
先ほど俺を王宮内へと連れて行ってくれた兵士が俺を呼び止めた。
「王宮内に盗賊団が使う隠し通路があるみたいです!時間がありません!通してください!」
「なんだと!分かった!早く行くんだ!」
兵士は快く俺を通してくれた。しかし、骸骨は止められてしまった。
「こら!お前は誰だ!顔を見せろ!」
兵士が骸骨が被っていたフードを取ろうとしていた。
「あ!」俺は急いで骸骨に駆け寄り事情を説明する。
「こいつはさっき言ってた俺の仲間です!顔は…ちょっと呪いで人に見せられないような感じになってるので…その、勘弁してやってください!」
俺はその場で思いついた嘘を並べるが、さすがに王宮の兵士と言ったところか、ギルドカードの提示を要求された。
骸骨は無言で立ち尽くすだけで何もしない。俺は仕方なく、骸骨を囲む二人の兵士を気絶させようと杖を構えた瞬間――。
「……!」
二人の兵士はビシッと姿勢を正し、骸骨に道を開けた。骸骨は無言でそこを素通りする。
「行くよ!時間がないよ!」
骸骨は俺の手を引き王宮内を走り出す。
「待ってください!なんで通れたんですか!?あなたは一体…」
俺が問うが、骸骨は答えない。俺も今はそんなことを聞いている暇はないと、骸骨の後ろを全力で追いかけた。
俺たちはまず一か所目の国王の部屋へ向かった。急を要する状況だ、ノックをしている暇などない。俺は勢いよく扉を開けて部屋に踏み込んだ。幸い国王は不在で、部屋を調べるのに障害はなかった。
(……これ、完全に泥棒だよな。)
頭の片隅でそんなことを思いながら、俺は骸骨の動きを見守る。
「ここだね!」
骸骨は国王のベッドの前で立ち止まると、いきなりその巨大なベッドを持ち上げた。大きな音を立ててひっくり返されたベッドの下には、古びた扉が現れる。
「これが一か所目!早く塞いで!」
骸骨が指示するなり、俺は土元素の魔法で扉を完全に埋めた。
「よし!これであと二か所だね!」
骸骨が満足げに頷き、次の場所へ急かす。
「分かりました!急ぎましょう!」
次に向かったのは王宮内の大浴場だった。扉を開けた瞬間、熱気とともに目に飛び込んできたのは、入浴中の王宮の老齢のメイドたち。
「いや、今は女性が使う時間じゃないですか!」
「きゃああああ!何よアンタたち!」
桶やタオルが飛び交い、浴場は大騒ぎになる。
「す、すみません!すぐ出ていきます!」
俺は目を覆いながら走り抜ける。骸骨は全く動じる様子もなく浴場の端まで進むと、壁に拳を叩きつけた。壁が粉々に砕け、そこから冷たい風が吹き出す通路が現れる。
「この奥だよ!」
俺たちは通路を進み、しばらく走ると錆びた鉄の扉が見えてきた。だが、その前には屈強な男たちが五人、立ちふさがっている。
「盗賊団だ…カイル君、右の二人倒せる?」
「大丈夫です!」
骸骨が腰の大剣を構えた瞬間、男たちはこちらに気付き、怒声を上げて突撃してきた。
「行くよ、カイル君!」
「了解!」
俺は風元素の魔法を放ち、右側の二人を吹き飛ばす。追撃で土元素の弾を二人の額に叩き込み、あっという間に気絶させた。
「ふぅ……そっちはどうですか?」
振り返ると、骸骨が片手で大剣を軽々と振り回し、既に三人を倒していた。いや、正確には三人の胴体が綺麗に上下で分かれ、血だまりの中に転がっていた。
「……。」
狭い通路で、どうやってあの大剣を振り回した?いや、そもそもこの力はなんだ?
「次行くよ!」
骸骨は何事もなかったかのように血の付いた剣を鞘に収め、扉を指さした。
俺は土と氷の魔法で通路を完全に塞ぎ、死体や気絶した男たちを放置して次の場所へ向かう。
浴場に戻ると、さっきのメイドたちはどこにもいなかった。おそらく、俺たちの戦いの音を聞いて逃げたのだろう。
骸骨は焦りの色を浮かべながら言った。
「最後の扉は王女様の部屋だ。もう侵入されているかもしれない。急ごう!」
「分かりました!」
王女の部屋は王宮の離れにある。浴場から走ってもかなり時間がかかる。俺は骸骨の背中を追いながら、次第に不安が膨らむ。
(さっきの五人が実行犯とは思えない。もし隊を分断して同時侵入を狙っているなら、王女の部屋にすでに敵がいる可能性が高い。王女が部屋にいないといいが……。)
俺たちは離れへ向かって全速力で走り続けた。
しばらく走ると、王女の部屋が見えてきた。だが、その扉は大きく開かれており、無機質に風に揺れている。
「嫌な予感がする……。」
骸骨と顔を見合わせ、俺たちは緊張を押し殺しながら王女の部屋へ踏み込んだ。
中は無惨に荒らされていた。
砕け散った家具の破片、無理やり開けられたクローゼット――その残骸が床一面に散乱している。そして、破壊されたクローゼットの中には、地下へと続く空洞がぽっかりと開いていた。
「遅かった!もう盗賊団が王宮に侵入してる!」
骸骨が声を荒げる。
「分かってます!まず国王に知らせましょう!」
俺は急いで土と氷の魔法を組み合わせ、クローゼットの下の空洞を完全に封鎖した。それから部屋を後にする。
「……王女様がいないのも気になるけど、今は神器が最優先だね。」
「盗賊団の狙いが神器なら、国王を拉致する可能性が高いです。おそらくまだ謁見の間にいるはずです!」
俺たちは全速力で謁見の間へ向かった。道中、王宮内は兵士たちで溢れ返っており、緊張感が漂っている。俺はその中の指揮を執っていそうな男に声をかけた。
「すでに盗賊団が侵入しています!警戒を強めてください!」
状況を伝えると、兵士たちは指示に従い、警備態勢をさらに強化し始めた。
ようやく謁見の間にたどり着くと、その巨大な扉は閉じられたままだった。扉の前には二人の門番の兵士が立っている。
「ん?さっきの冒険者じゃないか、どうした?」
門番の一人が俺たちに声をかけてきた。
「盗賊団が王宮内に侵入しました!至急、国王に知らせる必要があります!」
俺が叫ぶと、兵士たちは顔を見合わせて慌てて扉を開いた。だが――
「……え?」
扉の向こうの光景に全員が言葉を失った。
謁見の間は異様な静けさに包まれていた。国王の姿はなく、側近たちが王座の周囲で倒れている。彼らは全員、喉を深く切り裂かれ、絶命していた。
「なんだ、これは……。」
「誰も入れた覚えなんてないぞ!」
門番たちは動揺し、部屋の中を確認し始める。俺も周囲を見渡しながら考えを巡らせた。
(どうやってこんな短時間で……。外から誰かが侵入したのか?それとも内部の者が?)
そのとき、視界の端に奇妙なものが映った。
「待って……あれは!」
俺は王座の背後にある壁を指さした。そこには、隠し扉が開いており、地下へと続く階段が見えていた。
「こんな場所に通路が……!」
骸骨が驚愕の声を上げながら、その階段を覗き込む。
階段はこれまで見た隠し通路とはまるで違い、異様なまでに綺麗に整備されていた。石造りの段差は滑らかで、壁には明かり取りのランタンが等間隔で取り付けられている。
「これは……盗賊団が用意した通路だと思います。」
「え!ということは……。」
俺たちは互いに頷き合い、深く息を吸った。この通路の先に、答えが待っている。
「国王様を助けに行こう。」
「ええ。」
俺たちは覚悟を決め、階段を降り始めた。




