81話 大冒険の始まりだ!
階段を登りきると、梯子の上に地上へと続く小さな光が差し込む扉が見えた。
俺は迷わず梯子を登り、その扉に手をかける。長い間使われていなかったのか、扉を開くと錆びた取っ手がボロリと崩れ、下に落ちていった。
顔を上げると、眩しい太陽の光が目に飛び込み、一瞬目を細めた。身体を引き上げ地上に出ると、そこは確かに王宮の裏手に広がる庭園だった。
辺りを確認しつつ、俺は急いで王宮の周りを回り込む。目指すのは正面玄関だ。そこには威圧感を放つ二人の兵士が立っていた。彼らの視線が俺に向けられる。
「む? お前は何者だ!」
不意に裏手から現れた俺に、警戒心を隠そうともしない兵士たち。剣の柄に手を掛ける動きが見えた。
「俺は大聖堂の警備を任されていた冒険者です! これ、ギルドカードです!」
懐からギルドカードを取り出し、急いで提示する。兵士は疑わしげにそれを受け取り、目を凝らして確認した。
「確かに冒険者のようだな…だが、なぜお前が王宮の裏から現れる?」
「それは…」
俺は盗賊団のアジトの場所、そこに隠された通路と、この王宮の地下に繋がる通路について説明した。ただし、ガイコツの件は伏せておく。話を聞くにつれ、兵士の顔色はみるみる悪くなっていく。
「なんだと!?その情報はすぐに王に伝えねばならん。お前も証人として同行しろ!」
兵士はそう言うと、俺を促して王宮の中へ入るよう指示する。俺はその後を追い、初めて足を踏み入れる豪奢な王宮に目を奪われた。しかし、状況が状況だ。立ち止まっている暇などない。
真っ直ぐに伸びる長い廊下を兵士の後ろについて走る。途中、目の前に巨大な扉が現れる。その左右にはまた二人の兵士が立っており、俺たちの接近に気づいて制止した。
「止まれ。何事か。」
「急ぎ伝えるべきことがある! 大聖堂爆破に関する重大な情報を得た!」
俺を連れてきた兵士の言葉に、二人の顔が緊張で引き締まる。そして無言で重い扉を開いた。
扉の向こうでは十数人の高位らしき人物たちが集まり、何やら激論を交わしている最中だった。豪奢な装飾が施された広間の中心に、一人の王冠を被った男が鎮座していた。白髪混じりの大きな髭をたくわえ、鋭い目つきでこちらを睨んでいる。
「何用だ。今は大聖堂爆破の件について重要な話し合いをしている。」
王の隣に立つ顧問と思しき人物が苛立ちを隠さずに声を上げた。しかし、俺を連れてきた兵士は一歩も引かずに叫ぶ。
「その件で重大な情報を入手しました! 大聖堂爆破の犯人は『迅風の爪』という盗賊団であり、この王宮に攻め入る可能性が高いという情報です!」
広間がざわめきに包まれる。高位の者たちが互いに不安げな視線を交わしていた。
「静まれ。」
威厳ある声が響くと、場の空気が一気に静寂に包まれた。言葉の主は中央の王だった。その目が俺に向けられる。
「その情報、一体どこで手に入れた?」
俺を連れてきた兵士が一歩下がり、俺が前に出される。俺は膝をつき、深く頭を下げた。
「冒険者、カイル・ブラックウッドです。」
「よし…ブラックウッド。その情報源を詳しく話せ。」
俺は緊張しながらもこれまでの経緯を包み隠さず語った。迅風の爪のアジトで見つけたこと、そして通路の存在について。
「迅風の爪か…聞いたことの無い名だ。だが、なぜ奴らが王宮を狙う?」
王は腕を組み、周囲を見渡した。しかし、誰もその問いに答えられる者はいない。
「理由がわからない以上、警戒を強めるしかあるまい。」
俺は王の問いに答えられなかった自分に歯がゆさを覚えながら、それでも尋ねる。
「陛下…もし奴らが狙うものがあるとすれば、それは…?」
王はしばらく黙考した後、重々しく口を開いた。
「かつて、このダール国を創り上げた初代王が持っていたとされる『神器』だ。」
「神器?」
「そうだ。神の力を宿した伝説の武器。使う者に莫大な力と生命力を与える…と伝えられている。」
俺はその言葉に驚き、思わず問い返す。
「それがこの王宮に…?」
「そうだ。しかし、実際にその場所を知る者は少ない。だが、噂は伝わり、度々狙われてきた。」
王は立ち上がり、広間に向けて声を張り上げる。
「全兵力を動員し、迅風の爪を突き止めよ。そして、この王宮の守りを固めよ。神器を奴らに渡すわけにはいかん。」
その言葉に臣下たちは一斉に動き出した。その光景を見ながら、俺は王に向き直る。
「陛下、俺の仲間が迅風の爪の情報を追っています。俺も引き続き動きを探ります。」
王はしばらく俺を見つめた後、静かにうなずいた。
「よかろう。だが、勝手な行動は慎め。必要な支援は惜しまぬ。」
「ありがとうございます。」
俺は深く頭を下げ、この場でできる限りのことをしようと心に誓った。
王宮を出た俺は、再び庭へと戻った。骸骨が言っていた「情報を集める」という約束が気になっていたからだ。出入口のあたりを探していると、茂みの陰から聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「おーい!カイルくーん!こっちだよー!」
振り返ると、茂みの中からひょっこりと骸骨が顔を出していた。骨の手を大げさに振りながら、相変わらずふざけた調子だ。無事に戻ってきたようだ。
「情報は?手に入りましたか?」
俺は半信半疑で尋ねた。骸骨は胸を張るように肋骨を叩きながら得意気に答える。
「もちろん!ばっちりさ!迅風の爪?の計画をつかんだよ!僕の情報収集力、侮っちゃダメだね!」
俺は驚きつつも警戒心を緩めなかった。
「本当ですか?どんな計画なんです?」
骸骨は片手を挙げてわざとらしく咳払いの真似をした。
「その前にね、カイルくん。一つお願いがあるんだ。」
俺は眉をひそめた。この骨野郎、肝心なところで余計な条件を出してきやがる。
「お願い?今さら何ですか。」
骸骨は骨だけの顔に歪な笑顔を浮かべた。
「僕も君と一緒に行きたいんだ!冒険の旅ってやつを一度味わってみたくてさ~!ほら、僕、昔は一流の兵士だったからさ!仲間と冒険なんてやったことがなくてさぁ~」
「一流の兵士が骨になってるわけないでしょうが。」
俺は呆れつつ返したが、骸骨は気にする素振りもなく続ける。
「いやいや、僕の実力を見れば、君もすぐ納得するさ!それに、君だけじゃ盗賊団に勝てないだろう?ここは頼れる僕の出番だ!」
俺は頭を抱えた。こんな奴を連れていくのは不安しかないが、情報を握っている以上、拒否するわけにもいかない。
「分かりましたよ。ただし、騒ぎを起こさないでくださいよ。あんた骨なんだから、目立つにもほどがあるんですからね。」
「もちろんさ!僕の骨に誓って、君の足を引っ張らないよ!」
骸骨は嬉しそうに骨の手を叩き、ぴょんぴょんと跳ねてみせた。その様子に呆れつつも、俺は次の行動の準備を始めることにした。
骸骨によると、迅風の爪はやはり王宮のどこかに隠された伝説の武器『神器』を狙っているらしい。神器は神の力が宿った最強の武器で、その力を手に入れれば国をも支配できるという。
「奴らの計画はすでに動き出しているよ。王宮にはいくつもの隠し通路があって、そのうちいくつかが盗賊団のアジトである下水道と繋がっているんだ。」
「隠し通路か…それで、具体的な場所は?」
俺が尋ねると、骸骨は急に黙り込み、頭の骨をポリポリと掻いた。
「えーっと、それがねぇ…肝心なところで寝ちゃったみたいなんだよね~!」
「はぁ!?寝たってどういうことですか!」
「だってさ、疲れてたんだもん!それに、あの盗賊団のリーダー、話が長いんだよ~!」
骸骨は悪びれもせず、ヘラヘラと笑う。
俺は深いため息をついた。本当にこいつに任せたのが間違いだった。
「でも安心して!僕の記憶力は完璧だから、隠し通路の場所は全部覚えてるよ!地道に一つずつ潰していけばいいんだ!」
骸骨は胸を叩いて自信満々だが、俺の不安は消えない。それでも、やるしかない。
「分かりました。一緒に来るのは認めます。でも、足手まといになったら置いていきますからね。」
「了解!それじゃあ、僕たちの大冒険の始まりだね!」
骸骨は嬉しそうに手を叩きながら先に進み始めた。その背中を見ながら、俺は自分の選択が正しかったのか疑問に思いつつ、彼の後を追うことにした。




