77話 高収入バイトには危険は付き物
建国祭は二日目に突入した。
一日目は屋台や広場の中央に設置された仮ステージでの舞踊などがメインだったが、二日目は首都の中央に建つ大聖堂に住民全員が集まり、この国を建国した偉大な人物たちに祈りを捧げる日だという。
俺たちのような国外から来た者はその行事に参加しなくてもいいらしいので、俺たちはギルドに行くことにした。
なぜ今ギルドに行くのかというと、昨日の祭りでノアが調子に乗って金を使いすぎてしまい、少々金欠になってしまったのでいくつか依頼を受けに行くことにしたからだ。
「ほんとにごめんね…まさかあんなに食べ物が高いなんて…」
ノアは俺とフェンリの後ろをとぼとぼ歩いてついてきている。その足取りは重く、すごく反省していることが分かった。
「もう分かりましたって、ノア。ほら、そんな調子じゃ依頼に集中できませんよ。」
フェンリが優しくノアを諭す。
「うん~、依頼頑張る…」
ギルドに着くと、何人かの冒険者がギルドマスターと会話しているところが目に入った。
「警備がどうやら」「盗賊団がどうやら」と聞こえてくるが、俺たちには関係ない。そう思いながら俺たちは依頼が掲示されたボードを見に行くと、そこには
『東の門の警備 報酬:銀貨○○枚』『街の治安管理 報酬:銅貨○○枚』
など、ほとんどが街の警備をする依頼しかなかった。
「なにこれ!?これもこれも!全部警備の依頼じゃん!」
ノアが驚きながら依頼が書かれた紙を手に持つ。
「これは…今日の依頼はパスするしかないですね…」
フェンリが落胆しながらボードを見渡す。そこでノアが一枚の依頼を持って駆け寄ってきた。
「ねぇ!二人ともこれ見て!」
ノアに渡された依頼を見てみると、そこには
『大聖堂の入り口の警備。報酬:金貨30枚』
と書かれていた。
「ただの警備なのに凄い金額の報酬ですね」
フェンリが感嘆の声を漏らすと、ノアが笑顔で続ける。
「これだけもらえるなら、ちょっと頑張ってみる価値あるよね!しかも大聖堂の警備なら、祭りの中心で雰囲気も楽しめるんじゃない?」
ノアは目を輝かせながら言う。フェンリは依頼書をじっくり読みながら、眉をひそめた。
「でも、金貨30枚という報酬は普通じゃありません。警備の仕事でこれだけ高額だなんて…何か裏があるのでは?」
俺もその点が気になった。確かに警備の仕事にしては報酬が異様に高い。だが、金欠状態の俺たちには他に選択肢がないのも事実だ。
「まぁ、やってみてもいいんじゃないですか?これだけ報酬が良ければ少しのリスクは目をつむるしかないですよ。それに、俺たちが大聖堂で見張りをしてる間に何か変なことが起きても、対処できる力はあります!」
俺は依頼書を手に取り、二人を見て言った。
フェンリはまだ少し不安そうだったが、うなずいて賛成した。
「そうですね。何かあっても僕たち三人でなら乗り切れると思います。」
「よーし!じゃあ早速ギルドマスターに話してみよう!」
ノアは元気を取り戻し、先頭に立ってギルドマスターのところへ向かった。
いつの間にか、ほかの冒険者たちはギルドから姿を消し、広いギルドホールにはギルドマスターだけが残っていた。
ギルドマスターはがっしりとした体格の中年男性で、大きな机に肘をついて俺たちを見上げた。
「ほう、この依頼を引き受けるつもりか。あんたたち、外から来た冒険者だろう?報酬に釣られてやる気になるのも分かるが、この仕事は普通の警備とは違うぜ。」
「どういうことですか?」
俺が問いかけると、ギルドマスターは顎を撫でながら重々しく続けた。
「建国祭の二日目、大聖堂で祈りを捧げる儀式がある。その儀式の最中に、毎年必ず何かしらの騒ぎが起きるんだ。今年は特に、盗賊団がそのタイミングを狙っているって情報が入っている。だから、報酬も高めに設定されてるわけだ。」
「盗賊団…ですか。」
フェンリが真剣な表情で反応した。
「そういうことだ。あんたらが引き受けるなら、それ相応の覚悟をしとけよ。」
ギルドマスターの言葉には重みがあったが、ノアは全く動じる様子もなく、満面の笑顔で元気よく応じた。
「大丈夫だよ!私たちに任せて!」
「お前さんのその元気さがどこまで通用するかだな。」
ギルドマスターは苦笑しながらも、依頼を正式に俺たちに引き渡した。
昼過ぎ、俺たちは大聖堂の入り口付近に配置された。
白亜の石造りの大聖堂は、空高くそびえる鐘楼と精巧な彫刻が施された扉が目を引く壮麗な建物だ。
祭りの熱気とは対照的に、大聖堂の周囲は神聖な空気が漂い、人々は静かに行列を作って祈りを捧げに入っていく。
俺たちは三人で入り口付近を見張りつつ、人の流れを監視していた。最初こそ落ち着いていたノアだったが、次第にそわそわし始めた。
「ねぇ、こうしてるだけで金貨30枚もらえるなんて、案外楽勝じゃない?」
ノアが小声で話しかけてくる。
「そんなこと言ってると、本当に何か起きたときに対処できなくなりますよ。」
フェンリがたしなめたが、ノアは軽く笑っただけだった。
しかし、その安心感も束の間だった。行列の中に、少し挙動不審な男が紛れ込んでいるのをフェンリが見つけた。
「あの男…何か怪しいです。」
フェンリが低い声で俺たちに伝える。
俺はすぐに目を凝らしてその男を観察した。男は粗末な服を着ており、頭にはフードを深くかぶって顔を隠している。さらに、大きな袋を肩にかけており、その中身をやたらと気にしている様子だった。
「ノア、フェンリ、警戒していてください。俺は少し近づいて確認してみます。」
俺はそう指示を出し、ゆっくりとその男に近づいた。
しかしもう少しでフードの男にたどり着けるというところで、突然男は持っていた袋を大聖堂の入り口に投げ、それに火元素の魔法を放った。
魔法が袋にぶつかり、袋の中身が赤く発光したと思った次の瞬間、大聖堂の前で大爆発が起きた。
爆発により、大聖堂の入り口付近は崩壊し始め、祈りを捧げていた住民たちは叫びながら逃げ惑う。
崩壊に巻き込まれた人々が瓦礫の下敷きになり、その光景を目の当たりにした人々はさらなるパニックを起こした。場は一瞬のうちにカオスと化した。
その中で俺は、この騒ぎを起こした張本人を見失わないように、男の動向を見守っていた。男は逃げ惑う群衆に紛れ、広場から離れようとしていたが、俺は見逃さない。
(逃げ方が素人だな。冷静すぎると逆に目立つんだ。)
俺は男の動きに注視しながら、ゆっくりと追跡を始めた。男はやがて広場から少し離れると裏路地へと消えていった。俺は大聖堂の方を振り返る。
フェンリたちの姿は見えないが、きっと大丈夫だ。二人は強い、自分の身は自分で守れるはずだ。
俺は男を追って裏路地に入る。そこは狭く暗い道で、一見すると行き止まりのように見えるが、壁には目立たない亀裂が走り、地面には何かを引きずった跡がある。
(隠し通路だな。)
俺は確信し、壁に手をかざして魔力を集中させた。
魔法で壁を破壊すると、その向こうには地下へと続く階段が現れた。冷たい空気が漂うその先は、闇に包まれていた。
(ここか…)
俺は細心の注意を払いながら、ゆっくりと階段を降りていった――。




