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75話 シンバと渡された手紙の真実

 ダール国の首都、ヴァルシオン。その名は『栄光の光』を意味し、長い歴史の中で築かれたその壮麗さは訪れる者すべてを圧倒する。


 ヴァルシオンは二重の城壁に囲まれ、外壁は近隣の山から切り出された白い石でできており、陽の光を浴びるとまるで輝くように見える。


 その巨大な門は青銅製で、表面には建国に携わった者たちの姿が彫られている。

 門をくぐると広がる石畳の街道は、首都の中心部に向かってまっすぐ伸びており、道沿いには屋台や露店が立ち並び、活気に満ちている。


 中心部にはヴァルシオンの象徴である大聖堂と王宮がそびえ立っている。

 大聖堂は天を突くほど高く、その尖塔は街のどこからでも見える。王宮はその隣に位置し、黄金と白大理石で飾られた優雅な建物だ。

 どちらも古代の技術と現代の技術が融合しており、見る者を驚嘆させる。


 建国祭を間近に控えたこの日、街は一層の賑わいを見せていた。

 各地から集まった商人たちが珍しい品々を売り込む声が響き渡り、道端では芸人たちが軽快な音楽や華麗な舞で観客を楽しませている。

 子どもたちは色とりどりの風船を手に駆け回り、大人たちは祭りの準備に忙しくも楽しげだ。


 しかし、その華やかさの裏で、一部の冒険者や警備隊たちは警戒を強めていた。祭りの喧騒に紛れ、盗賊団の動きが活発化しているという噂が流れていたのだ。ギルドもまた、警備の一環として冒険者に協力を要請していた――。



 俺たち一行は首都の南門を通り抜け、活気あふれる街の光景に圧倒されていた。


「すっごいね! こんな大きな街、見たことないよ!」


 ノアが目を輝かせながら声を上げる。茶色いショートカットの髪が揺れ、その顔には純粋な興奮が浮かんでいた。


「ここがヴァルシオンですか。聞いてはいましたが、まさに圧巻ですね。」


 フェンリが感心したように低い声でつぶやいた。その言葉には、彼独特の冷静さの中にわずかな驚きが混じっていた。


「関心している暇はないですよ! シンバって冒険者を探すために、まずギルドに行きましょう。」


 俺は街の情景に圧倒されている二人を急かし、目的地である冒険者ギルドへと足を向けた。


 ヴァルシオンのギルドは、今まで訪れたどのギルドよりも規模が大きかった。

 建物は堂々とした四階建てで、彫刻が施された石造りの外観からは歴史と威厳が感じられる。


 その中では、冒険者たちが活発に行き交い、掲示板の前で依頼を吟味したり、情報を交換したりしていた。外からでも聞こえる賑やかな声が、ギルドの活気を物語っている。


 しかし、俺たちの目を引いたのは建物そのものではなく、そこに集まる冒険者たちだった。


 その中には、俺たちと同い年くらいの少年少女たちが混じっていたのだ。彼らはそれぞれ冒険者らしい装備を身につけ、真剣な表情で依頼を選んでいる。

 その眼差しや所作からは、経験と覚悟が滲み出ており、今まで多くの修羅場を生き抜いてきたことが伝わってくる。


「ねぇ、あれって子ども…だよね?」


 ノアが俺に囁きかける。その声には驚きと戸惑いが含まれていた。


「年は僕たちとあまり変わらないくらいでしょうが…あの表情は子どもがしていいものではありませんよ…」


 フェンリが驚き交じりの声で答える。普段冷静な彼ですら、この光景には何か特別な感情を抱いたようだ。


「フェンリが言ったとおり、この国は弱肉強食の思想が根付いています。あの人たちも生き抜くために冒険者をしているんですよ。」


 俺は静かに言いながら、ギルドの扉の奥から見える美しい街並みを目に留めた。


 この街は確かに技術が進んでいて、繁栄し、綺麗だ。だが、その裏にある現実は俺たち国外の者が思いもしないような過酷なものだろう。


 俺はそんな思いを抱きながら、ギルドの中へと一歩を踏み出した。


 俺たちはギルド内で冒険者たちに片っ端から話を聞き、シンバという冒険者の情報を集めようと試みた。しかし、ほとんどの冒険者の返答は「そんな奴は知らない」という冷たいもので、期待していた成果は得られなかった。


 情報が一向に集まらない状況に次第に焦りを感じる。

 俺たちの質問に答える冒険者の数もどんどん減り、最後には誰も取り合ってくれなくなった。


 結局、確かな手がかりが得られないまま、俺たちは仕方なくギルドのテーブル席に腰を下ろし、ひとまず休憩を取ることにした。


 ノアはメニューを開き、まるで観光気分のように目を輝かせながら「何にしようかな?」と楽しげに迷っている。

 その様子を見ていると、少しだけ肩の力が抜けた。


 対照的に、フェンリは黙々と手帳に今まで集まった断片的な情報を書き込んでいる。その真剣な横顔に、彼の責任感と集中力の高さを感じた。


 俺はため息をつきながら、これからの方針を考えていた。


「他のギルドも回ってみるか…」


 ヴァルシオンはその広大な街の規模から、ギルドが一つでは足りず、街の方角ごとに四つ存在する。


 俺たちが今いるのは南門近くにあるサウスギルドだが、東西北にもそれぞれイーストギルド、ウェストギルド、ノースギルドが配置されていると聞いている。

 他のギルドに行けば、もしかしたら新しい情報が得られるかもしれない。


 ノアが注文を済ませたその時、俺がテーブルに突っ伏して考え込んでいると、複数の影が俺たちを覆った。


 顔を上げると、そこにはギルドに入ってきたときに見かけた少年少女たちが立っていた。彼らは冒険者らしい装備を身にまとい、鋭い目つきをしている。一瞬で場の空気が変わった。


「何か用ですか?」


 俺が警戒しながら声をかけると、先頭にいた金髪で整った顔立ちの男が薄く笑いながら答えた。


「いや…僕たちみたいに『強い』子どもの冒険者を見るのは久しぶりでね。ちょっと話してみたくなっただけさ。」


 そう言うと、男は勝手に俺の目の前の席に座り、肘をテーブルに乗せてこちらに向き直る。その態度に少しイラつきながらも、相手の目的が見えないまま話を続ける。


「君がこのパーティーのリーダーかな?」


 男は軽くにやけた表情で問いかけてきた。その目にはどこか挑発的な光が宿っている。


「違います。それに俺たちのパーティーにリーダーはいません。」


 俺が冷静に返すと、金髪の男はさらに口角を上げて笑みを深める。


「なるほど。それじゃあ…君たちはどこから来たんだい?その顔立ちだとノワラ国あたりかな?」


 その言葉に俺は少し驚きつつも素直に答えた。


「はい、俺たちはノワラから来ました。」


 金髪の男は興味深そうに目を細めながら続けた。


「凄いね。ノワラって言うと最近色々と有名じゃないか。指名手配犯が首都に潜伏しているとか、天才魔法使いの女性が現れたとか…あとは黒魔法を使える子どもが国外に逃げたとかね。」


 その言葉を聞いた瞬間、俺の背筋が凍る。男は何かを探るようにこちらを見つめてきた。隣のフェンリをちらりと見ると、彼の顔は明らかに緊張で強張っていた。


「それで…一体何が言いたいんですか?」


 俺は警戒心を隠しきれないまま問い返す。すると、男は軽く笑い、話を続けた。


「はは、ごめんね。無駄話がすぎたね。それじゃあ本題に入ろう。君たちがさっきから探しているっていうシンバって男…僕たちは知ってるよ。」


 その一言に、俺は驚愕した。


「シンバを知ってるんですか!?どこに居るんです?教えてください!」


 思わず身を乗り出す俺を、男は片手を上げて制止した。


「ちょっと落ち着きなよ。ちゃんと話すからさ。」


 彼の静止に従い、俺は渋々椅子に座り直した。すると、金髪の男はテーブルに肘をつき、少し低い声で話し始めた。


「シンバって男は確かにこの街で活動していた冒険者だ。」


 金髪の男が静かにそう口にした。


「活動していた、ですか?」


 俺はその言葉に含まれる違和感に気づき、問い返した。


「あぁ…シンバは死んだ。」


「!」


 その一言に俺たちは揃って目を見開いた。フェンリは驚きで手帳を握りしめ、ノアは頼んだ料理が届くのも忘れて唖然としている。


「…どういうことですか?」


 俺が言葉を絞り出すと、男はゆっくりと語り始めた。


「あれは三年前のことだった。当時、僕たちは駆け出しの新米冒険者だった。そんな時に、シンバと縁があって一緒に討伐依頼を受けることになったんだ。依頼自体は単純で、そこまで危険なものではないと思われていた。」


 男の語り口は穏やかだが、どこか自嘲めいた色が含まれていた。


「だが、帰り道でそいつは現れた。金色に輝く翼を広げた巨大な狼のような魔獣――圧倒的な存在感だった。僕たちは逃げることしか考えられなかったよ。だが、パーティーの一人が足を挫いて動けなくなった。無情にも、僕たちは見捨てることを選びかけた。でも、シンバは違った。」


 語りながら、金髪の男は隣に座る少女に視線をやる。その少女は小さく震え、目には涙が浮かんでいる。


「彼はその子を抱きかかえ、僕たちの乗る馬車に放り込んだ。そして言ったんだ――『俺が時間を稼ぐから逃げろ』と。それが彼の最後の言葉だった。」


 男の声は静かだったが、悔しさが滲んでいた。


「街に戻ってギルドに報告したが、当時のギルドマスターは信じてくれず、何の対応もしてくれなかった。僕たち自身も門が閉ざされて外に出ることができず、結局シンバを助ける術はなかった。翌日、現場に戻った時には…彼の剣と…わずかな遺体の一部が残されていただけだった。」


 語り終えた男の言葉に、俺たちは返す言葉も見つけられなかった。ただ、その場に重い沈黙が降りた。


 金髪の男はその沈黙を破るかのように軽く笑みを浮かべた。


「まぁ、これが僕が話せるシンバの情報さ。どうだい?役に立ちそうかい?」


「…ありがとうございます。」


 俺たちは静かに礼を述べたが、場の空気は重いままだった。

 その重い空気を破ったのは、ノアの無邪気な声だった。


「きたきたー!わぁ、美味しそう!」


 運ばれてきた料理に目を輝かせるノア。彼女のその様子に、場の空気は徐々に和らいでいく。


「それじゃ僕たちは行くよ。依頼があるんでね。またどこかで会えたらいいね。」


 金髪の男たちは立ち上がると、こちらに軽く手を振りながら去っていった。


 その背中を見送りながら、フェンリが小さく呟いた。


「…シンバさんはもう、この世にはいないんですね。」


「そうみたいですね。」


 俺は手元に置いていた手紙に目を落とす。


(この手紙、一体どうすればいいんだ?)


 その時、ノアが口いっぱいに料理を頬張りながら、もごもごと言った。


「ねぇ、カイル、この手紙って中身、見たことあるの?」


 その言葉に俺はハッとした。そういえば、この手紙を渡されてから中身を確認したことは一度もなかった。


「確かに、中身を見るなとは言われてない…し、もう渡す相手もいないんだよな。」


 意を決して手紙を破り封を開ける。中から出てきたのは一枚の紙。それを開いた俺は目を疑った。


「何も…書いてない?」


 表も裏も白紙。俺が呆然としていると、フェンリがその紙を手に取り、調べ始めた。


「フェンリ?」


「これは魔具ですね。魔力を通せば文字が浮かび上がるタイプです。」


 フェンリの言葉に従い、俺は魔力を紙に通した。すると、次第に文字が浮かび上がってきた。それを読み上げた俺の顔がみるみるうちに青ざめていく。


「おう、逃亡生活…頑張れ…よ?」


 その内容は完全に俺宛のものであり、俺の神経を逆撫でるものでしかなかった。


「はあ!?何だこれ!」


 俺は怒りのあまり頭を抱える。


「ここまでの旅…全部無駄だったってことか!?あの野郎、一体何がしたかったんだよ!」


 俺の様子を見て、ノアは大笑いしている。


「あははは!カイルが怒ってるの、めっちゃ面白い!」


 その後、俺の怒りが収まるまでしばらくの間、ヴァルシオン近郊の森では魔法による大爆発が続いたというが――それはまた別の話だ。

久しぶりの投稿です。

スマホで文字打つのさすがにきついですね!早くPC直して今まで通り活動したいです!


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― 新着の感想 ―
いいですね! 王様のところでの対応と展開もただの良い子ちゃんじゃないし、ふっつーにキレ散らかすのも人間味があって良い! 楽しませて頂いてます、ありがとうございます!
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