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74話 弱肉強食の世界

 近くの宿を取り、荷物を置いて身軽になった俺たちは冒険者ギルドへと足を運んだ。


 この街での目的は、次に行く街である首都の情報収集だ。本来であればデイヴスで装備を整えた後、そのまま直接首都に向かう予定だった。


 しかし、集めた首都周辺の情報が少なく、危険が伴うとフェンリが指摘したため、この街に寄ることにした。


 フェクーシの冒険者ギルドは、デイヴスのそれと比べてやや静かだった。

 デイヴスでは冒険者たちの賑やかな声や笑い声が絶えなかったが、ここではどこか落ち着いた雰囲気が漂っている。


 建物自体は木造で、入口には少し古びた看板が掲げられている。中に入ると、数十人の冒険者が依頼掲示板を囲んでおり、それぞれどの依頼を受けるか吟味している様子だった。


「なんだか雰囲気が違うね…」


 ノアが小声で呟く。確かに、デイヴスでは子どもだということもあってか、俺たちは好奇の目で見られることが多かった。


 しかし、この街では少し違った。その視線は相変わらず俺たちに向けられているものの、どこか興味のようなものが混じっている。一人の冒険者として見られている——そんな感覚だった。


「少し落ち着きますね。ここなら情報収集もしやすそうです」


 フェンリがギルド内を見渡しながらそう言った。確かに、この雰囲気なら余計な邪魔が入ることなく目的を果たせそうだ。


「それじゃあ、受付に行ってみましょう」


 俺が促すと、ノアとフェンリも頷いてついてきた。ギルドのカウンターには、黒髪をきっちりとまとめた女性職員が立っていた。整った顔立ちと丁寧な動作から、彼女がこのギルドの受付係として優秀であることが窺えた。


「いらっしゃいませ。何かお手伝いできることはございますか?」


 彼女の声は落ち着いていて、心地よい響きがあった。俺たちは簡単に自己紹介をした後、本題に入った。


「実は、次の街である首都の周辺情報を集めたいんです。危険な地域や魔獣の出現状況について、何か詳しい情報はありませんか?」


 俺が尋ねると、受付の女性は少し考える素振りを見せた後、カウンターの下から一冊の分厚い記録簿を取り出した。


「はい、首都『ヴァルシオン』周辺の情報ですね…。最近は、首都の北東に位置する森で魔獣の活動が活発化しているという報告が多いです。特に夜間は危険ですので、森を通る際は昼間に限ることをお勧めします。また…」


 彼女は次々と首都周辺の情報を教えてくれた。首都に近いだけあって、さまざまな情報が集まっているようだ。俺たちはそれを一言も聞き逃さないよう真剣に耳を傾けた。


「助かりました。ありがとうございます」


 フェンリが礼を言い、俺たちはその場を離れる。情報をまとめるためにギルドの隅にあるテーブルに腰を下ろした。


「首都北東の森は避けるべきですね。他にはどうです?」


 俺が尋ねると、フェンリが先ほどの話を整理しながら答える。


「他に気になるのは、首都近郊で行われている建国祭の話ですね。建国祭自体は危険ではありませんが、その参加者を狙った盗賊団が出没しているという報告がありました。特に参加者が宿泊する施設を狙うことが多いようです」


「盗賊団か…そいつは厄介そうですね」


 俺たちは集めた情報を元に、首都へのルートや到着後の行動計画を練り始めた。ノアも真剣な顔で話を聞いている。


「それと、フェクーシの近くにも小さな迷宮があるようです。時間があれば探索するのも良いかもしれません」


 フェンリが付け加えると、ノアの目が輝いた。


「迷宮!? 面白そう! 行こうよ、カイル!」


「いやいや、今の俺たちにそんな暇はないよ…迷宮探索はまた今度にしましょう」


 俺が苦笑いしながらそう答えると、ノアは少し残念そうな顔をしたが、すぐに気を取り直した。


「それじゃあ、早速計画を立てようか!」


 こうして、俺たちは首都への準備を整えながら、次の冒険に向けて動き出した。フェクーシの街にはまだ何か興味深いことがありそうだったが、それは首都での目的を果たした後のお楽しみだ。


 それ以降も、俺たちは他の店や住民に話を聞きながら着々と情報を集め、その日の目的を無事に果たした。中でも特に頭に残ったのは、現在首都で開催中の建国祭に関する話題だ。


 建国祭はダール国の歴史を祝う一大イベントで、国内各所から貴族や商人が集まり、盛大に行われるらしい。


 豪華な舞踏会や武術大会、露店が立ち並び、首都全体が活気に包まれるという。しかし、その華やかな表の顔とは裏腹に、毎年のように弱小貴族や平民が殺害される事件が起こっているという噂も耳にした。


「そんなこと、普通に許されるの?」


 ノアが驚きと怒りを交えた表情で言う。


「ダール国では許されるのでしょうね。」


 フェンリが静かに応じる。


「この国は弱肉強食の思想が根付いています。『自分の身は自分で守れ』が基本的な国の方針ですから。弱い者が淘汰されるのは、むしろ正しい秩序だと考えられているのかもしれません。」


 フェンリの言葉に、ノアは拳を握りしめた。


「それってひどすぎない? その人たちだって頑張って生きてるのに!」


 俺も同感だったが、ダール国の事情に深入りしてもどうにもならないことは分かっていた。


「ノア、気持ちは分かるけど、俺たちができるのはまず自分の身を守ることです。それに首都では余計に警戒しないといけないって分かっただけでも、今日の収穫は大きい。」


 ノアは不満そうに頷いたが、それ以上は何も言わなかった。


 その後、俺たちは集めた情報を整理し、作戦を練るために宿へと戻った。フェクーシで聞いた話をもとに、首都への道中で注意すべき点や、建国祭での立ち回り方を再確認する。ダール国のような環境では、何よりも準備と計画が重要だ。


 翌朝、俺たちはまだ空気がひんやりとしている時間帯にフェクーシを出発した。


 街の中心にある勇者記念碑や、勇者の姿を模したという銅像を見ることができなかったのは少し心残りだったが、またいずれ訪れる機会もあるだろう。今度はノワラに置いてきたライガたちとも一緒に来るのもいいかもしれない。


「それにしても、フェクーシの人たち、思ったより親切だったね。」


 馬車の中でノアが話しかけてきた。


「そうですね。」


 フェンリが頷く。


「外見の豪華さや文化的な洗練さはノワラの首都には劣りますが、この街は確かに居心地が良かったです。」


「うん! 勇者様の話とか、もっと聞いてみたかったな。」


 ノアは目を輝かせながら言った。


「次に来る時は、記念碑や銅像も見に行きましょう。その時はライガたちも連れて。」


 俺がそう言うと、ノアは嬉しそうに笑った。


 フェクーシの街がだんだんと遠ざかり、次第に景色が開けていく。

 首都に近づくにつれて、道も次第に広く整備されたものになっていった。


 これから訪れる建国祭の賑わいと、それに潜む危険を思うと気が引き締まる。だが同時に、この旅が俺たちにとってさらなる成長の機会になると信じている。


(さて、次は首都か。)


 俺は心の中でそう呟きながら、馬車を進ませるフェンリの背中を見つめた。

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